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家賃滞納や賃貸借契約違反によるトラブルは、アパート経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
しかし、家賃を支払わなかったり、騒音や悪臭などで他の住民からクレームを出したりする賃借人であっても、強制退去させるには適切な手続きを踏まなくてはいけません。
悪質な賃借人を退去させるために、アパートオーナーが勝手に部屋に立ち入るなどの行為は法律に違反します。
この記事では、アパートを強制退去させるまでの手続きについてお伝えし、費用や注意点を解説します。
家賃滞納や騒音・悪臭などでトラブルを起こす賃借人でも、すぐにアパートから退去させられません。
まずは、話し合いや文書による催促・注意などで円満な解決を試みる必要があります。
しかし、これらの手順を踏んでも状況の改善が見られず、以下の条件に当てはまるときは、強制執行により退去させられる可能性があります。
アパートオーナーが契約違反を理由に賃借人との賃貸借契約を解除するには、「信頼関係の破壊」が認められる必要があります。
賃貸借契約は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるとされており、債務不履行があっても信頼関係を破壊するに至らない場合には、契約解除は認められません。
これを「信頼関係破壊の法理」と呼びます。
アパートオーナーと賃借人の信頼関係の破壊は、以下の場合に認められる可能性が高くなります。
これらの状況が継続しアパートオーナーと賃借人の信頼関係の破壊が認められると、賃貸借契約の解除が可能です。
賃貸借契約で定められた使用方法に違反する行為は、用法遵守義務違反として契約解除の根拠になり得ます。
たとえば、居住目的のアパートで日常生活で発せられる以上の騒音を出すことは、用法遵守義務違反に該当する可能性があります。
また、無断ペット飼育禁止の特約があるにもかかわらず、ペットを無断で飼育する行為も同様です。
これらの契約違反が継続し、アパートオーナーと賃借人との信頼関係が破壊されたと認められると、契約解除が可能です。
ただし、賃貸借契約を解除しても退去しない賃借人には、裁判を提起して明渡しを請求する必要があります。
騒音や無断ペット飼育などの迷惑行為は、住人同士のトラブルを招き空室の原因になるため、アパート経営に損失を与えかねません。
用法遵守義務違反によるトラブルは、弁護士などの法律の専門家に相談し、適切な法的手段により解決を図ることをおすすめします。
アパート経営で、もっとも多いトラブルが家賃滞納です。
家賃滞納はアパート経営を圧迫するため、早期に解決する必要があります。
しかし、賃借人が家賃を滞納したからといって、すぐに退去させられるわけではなく、適切な手続きを踏む必要があります。
アパートで家賃滞納が続く賃借人を強制退去させる流れは、以下の通りです。
家賃滞納が発生したら、電話や訪問、文書などで速やかに支払いの督促を行います。
賃借人への督促は、支払期限を設定し伝えるようにしてください。
具体的な期日の提示は、賃借人の行動を促す効果があるといわれています。
家賃の滞納は健全なアパート経営を揺るがしかねないため、話し合いによる解決を目指しながら、法的手段も考慮して支払いを督促する必要があるでしょう。
家賃滞納へのスピーディな対応は、安定した経営を維持するために重要です。
連帯保証人は賃借人が家賃を滞納した際に、代わって支払う義務を負っています。
未払いが1カ月以上続く場合は、連帯保証人にも連絡し支払いの督促を行います。
賃借人には、連帯保証人にも滞納家賃を請求した旨を伝えましょう。
これにより、問題の深刻さを認識させる効果が期待できます。
この段階の督促では、賃貸借契約の解除の可能性についても言及し、ことの重大さを伝え賃借人にプレッシャーを与えます。
ただし、賃借人に高圧的と受け取られないように、感情的な言葉を使わず、客観的な事実を伝えてください。
家賃滞納が3カ月以上続くと、賃借人との信頼関係が破壊されたと認められる可能性が高く、アパートオーナーは賃貸借契約の解除が可能になります。
契約の解除には、内容証明郵便で履行を催告し、相当の期間内に履行をしない場合には賃貸借契約を解除する旨記載した通知を発送します。
内容証明郵便は、郵便局が以下の内容について証明するサービスです。
賃貸借契約解除通知には「指定した期日までに滞納した家賃を支払わなければ、本通知をもって賃貸借契約を解除する」という内容を記載します。
内容証明郵便は通知内容の謄本が郵便局で保管されるため、賃貸借契約の解除に必要な「債務の履行を一定期間定めて催促する」旨が記載されている内容文書の存在の証明が可能です。
民法第五百四十一条では債務を履行しない当事者に、相手方が一定期間を定めて催促し、その期間内に履行しなければ、契約を解除できると定めています。
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賃貸借契約を解除しても賃借人が任意でアパートを退去しないときは、裁判所に明渡し訴訟を提起します。
このとき、未払賃料の支払いを同時に請求してください。
賃借人が差し押さえ可能な財産を持っている場合、それらを競売にかけて回収できる可能性があります。
しかし、現実には、家賃を支払えないほどの生活に困窮している賃借人から、滞納家賃を取り戻せるのは稀なケースです。
裁判では、アパートオーナーと賃借人双方に主張の機会が与えられます。
裁判所は双方の主張を精査した上で和解案を提示し、解決が図られるケースがあります。
和解が成立しても、賃借人が約束を守らないときは、改めて明渡し訴訟を提起しなくても、アパートオーナーは強制執行の手続きが可能です。
また、賃借人が裁判に出席せず反論や意見を述べなければ、アパートオーナーの主張が認められる可能性が高くなります。
審理が終わり、アパートオーナーの請求を認める旨の判決が出た場合、賃借人は部屋から退去しなければいけません。
明渡し訴訟でアパートオーナーの請求が認められる判決が出ても、賃借人が自主的に退去しなければ、裁判所に強制執行の申し立てを行います。
強制執行の申し立てには、裁判所に申立書の提出と予納金の納付が必要です。
申立書を提出した後、強制執行の流れをスムーズにするために、裁判所から以下の点を聴かれることがあります。
強制執行は執行官との連携が重要です。
必要と思われる情報は、進んで伝達しましょう。
裁判所に強制執行を申し立てると、民事執行法第百六十八条の二に基づき執行官が賃借人に明け渡し期限を伝える「明渡しの催告」を行います。
明渡しの催告とは執行官と立会人、アパートオーナー(または代理人)執行補助者が現地まで行き、明渡し期限と強制執行日を記載した公示書を室内に貼付する手続きです。
部屋の引渡し期限は、民事執行法第百六十八条条の二の二項で明渡しの催告があった日から1カ月を経過する日と定められています。
強制執行の断行日は、引渡し期限の当日ではありません。
通常、強制執行の断行日は、明渡し期限の数日前に設定されます。
強制執行とは執行官が直接介入して、賃借人の退去を実現する手続きです。
強制執行では、執行官の指示のもと執行補助者が部屋の荷物を搬出し、鍵を交換して賃借人を部屋から立ち退かせます。
また、場合によっては、執行官の判断により、荷物を搬出せずに、現場で保管することもあります。
強制執行によって運び出した荷物は、執行官が指定する保管場所に一定期間(通常1カ月程度)保管されます。
アパートの強制執行にかかる費用は、民事執行法第四十二条で債務者が負担すると定められています。
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ただし、弁護士費用は、債務者が負担する執行費用には含まれません。
また、強制執行の費用はアパートオーナーが立て替えなければならず、回収ができないケースも多いです。
家賃滞納が発生すると問題解決のために、多額の費用が発生する可能性があります。
家賃滞納の督促から強制執行にかかる費用には、以下のものがあります。
家賃滞納が理由で賃借人を退去させる手続きには、督促状や賃貸借契約解除通知などの発送が必要です。
これらの郵送には内容証明郵便を使用するケースがあり、基本料金に加え追加料金がかかります。
内容証明の加算料金は1枚目が480円で、2枚目以降は290円の追加が発生します。
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内容証明郵便は内容文書の謄本を郵便局と差出人が保存するため、利用する際は内容文書1通と謄本を2通用意してください。
強制執行に必要な主な費用には、明渡し訴訟の手数料と強制執行にかかる費用、弁護士費用があります。
明渡し訴訟の手数料は、訴額に応じた金額を貼用印紙で納付します。
訴額とは建物の固定資産税評価額の1/2で、アパートの一室の場合は床面積の割合で乗じた金額です。
明渡し訴訟の手数料は、第一審訴え提起手数料早見表で確認できます。
たとえば、固定資産税評価額1億円のアパートで一室の床面積の割合が10%だったときの訴額は、以下の通りです。
500万円(訴額)=1億円×1/2×10% |
訴額500万円を第一審訴え提起手数料早見表で確認すると、明渡し訴訟の手数料は3万円です。
明渡し訴訟では、予納切手代を納めます。
予納切手代は裁判所によって異なりますが、被告が1名の場合、東京簡易裁判所では5,830円、東京地方裁判所では6,000円を納付します。
参考:裁判所 2(1)東京地方裁判所への民事訴訟事件又は強制訴訟事件の訴え提起における郵便切手の予納額について
強制執行の申し立て時に、執行官へ予納金を納めます。
強制執行の予納金は裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所では6万5,000円です。
強制執行にかかる費用は、債務者である賃借人が負担すると民事執行法第四十二条で定められています。
しかし、実際には、アパートオーナーの側で一度負担したあと、賃借人に請求する形となるところ、賃料を滞納している賃借人は、生活に困窮していることが多く、事実上回収できる可能性はほとんどない、と言ってもよいでしょう。
執行業者の費用の目安は、以下の通りです。
開錠技術者費用 | 2万円〜 |
荷物の運搬費用 | 数万円〜100万円を超える場合もある |
廃棄処分費用 | 数万円〜10万円を超える場合もある |
保管場所費用 | 3万円〜 |
執行補助者に支払う費用は、部屋の広さや荷物の量によって変動します。
弁護士費用は債務者の負担とするとは定められていないため、アパートオーナーが支払う必要があります。
一般的な明渡し訴訟から強制執行までの弁護士費用には、以下のものがあります。
相談料 | 5,000円〜/30分 |
着手金 | アパートの場合は20万〜45万円程度が一般的 |
報酬金 | 20万〜60万円程度が一般的 |
家賃滞納や用法遵守義務違反によるトラブルは、アパートの収益を悪化させる要因になるため、弁護士に依頼して早期解決を図ることをおすすめします。
弁護士の活用は費用がかかったとしても、経営にとってよりよい結果をもたらす可能性があります。
家賃滞納や用法遵守義務違反などの理由で賃借人を強制退去させる際は、法にのっとった適切な方法で進める必要があります。
アパートオーナーが強制退去の手続きを行う上で、注意しなければいけない点は以下の通りです。
アパートのオーナーだからといって、裁判所の手続きを経ずに家賃を滞納している賃借人の部屋に無断で入るのは、刑法第百三十条に抵触し、住居侵入罪に問われる可能性があります。
また、勝手に鍵を交換する行為は、刑法第二百三十五条の二の不動産侵奪罪に抵触するおそれがあります。
これらの行為は賃借人から訴えられる可能性があるため、絶対にしないでください。
家賃滞納によってアパート経営に深刻なダメージを与える賃借人であっても、法律にのっとった手続きによらなければ退去させられません。
出典:刑法第百三十条 住居侵入等、刑法第百三十五条の二不動産侵奪
家賃の滞納で退去させたい賃借人が、行方不明になっていて連絡がとれないケースがあります。
行方不明であっても賃貸借契約を解除するには、賃借人に催告をし、相当の期間内に支払いが無ければ契約を解除する旨のの意思表示を届ける必要があります。
相当の期間については、少なくとも通知到達の日から5日間ないし7日間程度の期間を設けておきましょう。
しかし、連絡がつかない賃借人に、現実には意思表示を伝えられません。
その場合は、以下の手続きを行います。
公示送達とは、裁判所書記官が送達すべき書類(建物明渡等請求の訴状)を保管し、送達を受けるべき者(被告)が裁判所に出頭すればいつでも書類を交付する旨を裁判所の掲示場に掲示することによって行われます。
公示送達により、訴状が賃借人に到達したと見なされます。
公示送達の利用は、賃借人が行方不明である事実を証明する必要があり、アパートオーナーが単独で行うには難易度が高いため、弁護士への依頼をおすすめします。
アパート経営において家賃滞納などのトラブルを防ぐために、入居審査の段階から対策を講じる必要があります。
契約前に問題を起こす可能性のある賃借人の見極めができれば、リスクを低減できます。
また、どうしても賃借人を強制退去させる必要があるときは、法律の専門家の力を借りて適切に行うのがよいでしょう。
悪質な賃借人とのトラブルを防ぐ方法には、以下のものがあります。
家賃滞納は、アパート経営に大きなダメージを与えます。
そのため、家賃滞納による収益悪化を未然に防ぐためには、入居審査の段階で家賃の支払いの能力があるのかをしっかり確認する必要があります。
家賃滞納のリスクを抑えるため、入居審査では以下の点に注意が必要です。
これらの要素を慎重に判断することが、家賃滞納を防ぐ対策になるでしょう。
アパート経営で家賃保証会社を利用すると、賃借人に賃料の未払いが発生した場合、家賃を代わりに支払ってくれるため滞納のリスクを軽減できるメリットがあります。
また、信販系や全国賃貸保証業協会加盟の保証会社は、信用情報機関などに登録されている滞納履歴を確認できるため、入居審査でリスクのある賃借人を見分けられる可能性があります。
家賃保証会社の活用は家賃滞納による収益の悪化を防ぎ、アパート経営の安定化が期待できるでしょう。
悪質な賃借人を強制執行により退去させる必要があるときは、弁護士を活用するのが賢明です。
強制執行により退去させるには裁判が不可欠で、訴訟をスムーズに進めるには弁護士に依頼するのが有効な方法です。
弁護士に依頼するメリットには、以下のものがあります。
法律文書の作成 | 訴状など専門知識が必要な書類を作成 |
和解条項のアドバイス | オーナーにとって最適な条件を提案 |
強制執行の立ち会い | 現場での判断を的確にサポート |
代替案の検討 | 費用対効果の高い解決策を提示 |
賃借人側との交渉 | 弁護士の介入でオーナーの心理的プレッシャーを軽減 |
弁護士への依頼はメリットが多く、トラブルを迅速に回避できる可能性が高まるため、アパート経営の健全化に寄与します。
悪質な賃借人の対応で悩んでいるなら、弁護士に相談して解決を図ってください。
関連記事:家賃滞納者は強制退去できないケースと滞納を未然に防ぐ対策
アパートオーナーにとって、家賃滞納や法令遵守義務違反によるトラブルは、経営を大きく揺るがすおそれがあります。
しかし、賃貸借契約に違反する賃借人であっても、強制執行により退去させるには法的に適切な手続きを踏まなければいけません。
また、強制執行にかかる費用は債務者が負担すると法律に定められていますが、家賃を滞納するほど生活に困窮している賃借人から回収できる可能性は低いでしょう。
本記事では、アパートの強制退去の手順や注意点、かかる費用について解説しました
アパートオーナーが強制執行により退去させるには、法律にのっとった正しい手続きで慎重に行う必要があります。
弁護士への依頼は時間と労力を節約する効果があり、賃貸経営にとって望ましい選択といえるでしょう。
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家賃滞納や入居者トラブルでお困りの方は、お気軽にご相談ください。 アパートオーナー様の置かれている状況を詳細に分析し、もっとも適切な対応策をご提案します。 |
弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属
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