家賃滞納していた入居者が自己破産!未納家賃は回収できるのか

入居者の家賃が滞納するようになったと思ったら、本人が自己破産したという通知が届いて驚く大家は少なくありません。真っ先に頭に浮かぶのは、未納家賃をどう回収できるのか、賃貸契約はどうなるのかといったことになりますが、破産という法的手続きを理解していなければ冷静に対処することが難しいケースでもあります。

ここでは、滞納者が自己破産した場合の未納家賃と原状回復費用をどう回収するかについてご説明します。

目次

滞納者の自己破産と賃貸契約の解除は別問題である

旧民法621条では、貸借人が破産した場合の賃貸契約解除を認めていました。
しかし破産法が改正されたことにより、契約解除できる規定が削除され、現在では貸借人が破産したことを理由に賃貸契約を解除することができなくなりました。

通常、長期に渡る継続契約である賃貸借契約では、貸借人の債務不履行に対し大家が注意を行ったとしても、直ちに契約解除できるわけではありません。
賃貸借契約の原則は「当事者間の信頼関係が維持されている」限りにおいて継続されるので、契約解除に至るためには「信頼関係が破壊された」と見なされる必要があるのです。

また裁判所は、1カ月程度の家賃滞納では「信頼関係の破壊」とは考えず、大よそ3カ月ほどの滞納があってようやく解除を認める傾向があります。
大家が貸借人に対し繰り返し滞納家賃の支払いを求めたという事実や、貸借人が大家の求めに誠実に対応しなかったという事実が幾度も重なって、双方で築いた信頼関係が破壊されたと見なされるためです。

従って、家賃滞納を繰り返す貸借人に対し、繰り返し支払いを求めたにも関わらず債務不履行が続いた場合は、破産の事実に関係なく、内容証明郵便を送付して賃貸契約解除の手続きを採ることになります。

未納分の回収は破産後の配当が唯一手段となる

自己破産すると、当人が持つ財産や契約の管理を破産管財人が行うことになります。
未回収の家賃の扱いについては、以下いずれかのケースに基づいて、その一部が回収可能となります。

破産手続き開始前に発生した滞納家賃

「破産債権」扱いとなり、当人が持つ財産から債権者の債権額に応じた割合で配当を受けることができます。

破産手続き後に発生した滞納家賃

賃貸契約は自己破産とは別の取り扱いになるため、破産後も家賃は発生することになります。契約を管理する破産管財人が賃貸契約の続行を選択した場合は、以後「財団債権」扱いとなり大家に対する弁済が行われることになります。

また、原状回復費用については、破産前に賃貸契約が終了していたか破産手続き開始後に破産管財人が契約解除を選択したかによって、回収の可能性は変わってきます。

破産前に賃貸契約が終了していた場合

未納家賃と同様、原状回復費用も「破産債権」扱いとなるので、複数の債権者が持つ債権額の割合に応じた配当分のみ回収することが可能です。ただし敷金等を預かっていた場合は、それを原状回復の費用に充てることができます。

破産管財人が賃貸契約解除を選択した場合

破産管財人が賃貸契約の解除を選択した場合、原状回復費用は「財団債権」扱いとなり、優先的に弁済を受けることができるため、破産債権扱いのケースよりも回収額は多くなる可能性があります。

賃貸契約が破産管財人の管理下に置かれる仕組み

自己破産をした人物に財産がある場合、裁判所により破産管財人が指定されます。
破産管財人は破産者の財産を債権額に応じて債権者に配当する他、破産法53条に基づき、賃貸借契約を維持するか解除するかを決定する権利も持ちます。

大家としては損害を最小限に留めるために、契約続行なのか契約解除なのか早めに知りたいところですが、多数の業務を抱える破産管財人がすぐに方針を打ち出すかどうかについて未確定要素が多いのも事実です。

そこで破産法では、大家が期限を設定し、期間内に方針を返答するよう破産管財人に求めることができ、期間内に返答がない場合は賃貸借契約が解除されることとしています。

自己破産者から未納分全額を回収することは難しい

自己破産の申し立てを行うと、裁判所は書類をよく審査した上で破産開始決定を出します。
自己破産手続きでは一部の債権者だけ優先的に弁済することを認めていないため、大家は他の債権者と同じ立場に置かれることになります。
破産者に生活必要資金以上の財産がある場合は破産管財人が選定されて平等に分配されますが、この場合の「平等」とは、債権者の債権額割合に基づいた弁済のことを指すため、破産者から配当される金額は未納家賃の一部になることが多く、未納分を全て回収できることは稀だと言えます。

ただし連帯保証人に請求して支払われた家賃や敷金は、未納家賃や原状回復のための費用として相殺することができます。

自己破産に至るということは、本人は債務超過状態であることを意味し、各債権者に対して支払う金銭がない状態であることを示しています。このため、わずかに財産があったとしても、滞納家賃全額の回収は極めて難しいという現状を理解しておく必要があります。

滞納家賃の回収よりも、明け渡しが重要

自己破産をするということは、返せないほどの借金があるということの裏返しです。
破産管財人が選任されたとしても、債権者への配当はほとんど期待できないでしょう。
特に個人の自己破産の場合は、めぼしい財産がないケースが多いため、債権者集会に出席したとしてもほとんど無意味と言っても良いでしょう。

大家としてやらなければならないことは、滞納家賃の回収よりも部屋の明け渡しです。一日も早く出て行ってもらうことで、損害を最小限に抑えることが出来るのです。

当事務所にご相談いただければ、滞納家賃の回収と並行して建物明け渡しに関する交渉についても進めていき、スムーズな解決を目指します。

家賃滞納者の多くは同時廃止になる

自己破産を申し立てた場合、その後の手続きの流れとしては、大きく2つに分かれます。

1:管財事件

破産する人に債権者に配当すべき財産がある場合は、破産管財人が選任され、財産を換価して債権者へ配当していくという手続きに入ります。これを管財事件といいます。
会社が倒産する場合などは、管財事件となることが多いですが、個人の場合は少ないです。

2:同時廃止

破産する人に債権者に配当できるような財産が残っていない場合は、破産手続き開始と同時に廃止となります。つまり、破産管財人を選任して財産を換価するという手続きを経ずに破産手続きが終わります。

家賃滞納者の多くは、財産がないため破産していることが多いため、ほとんどが同時廃止です。同時廃止の場合は、配当されるものもないので、滞納家賃の回収をするのであれば、連帯保証人に支払ってもらうしかないでしょう。

連帯保証人には抗弁権がないため、早急に請求を

家賃滞納者が破産しようとしている時は、本人から回収しようと思ってもほとんど難しいです。そのため、早い段階で連帯保証人に連絡をして代わりに支払ってもらうよう督促することが重要です。

連帯保証人には、催告の抗弁権と検索の抗弁権が認められていません。
これは簡単に言うと、連帯保証人は家賃を請求された場合に、「まずは本人に請求してください」とか、「まずは本人の財産を差し押さえてください」等と、自分への請求を拒否することができません。
ですので、家賃滞納が発生したら直ちに連帯保証人に請求をしても問題はないのです。むしろ、本人が滞納していることを早めに知らせてあげた方が良いケースもあります。

大家の中には、連帯保証人に電話することを躊躇される方が多い傾向があります。連帯保証人への連絡が遅れると、回収までに時間がかかってしまいますので、家賃滞納が発覚したらすぐに連絡をしましょう。

破産法を理解した上で少しでも回収するためには弁護士に相談を

貸借人が自己破産した場合、大家としては、自己破産がどういうものでどのような背景から破産という事態が起こり、債権者たる自分はどういう立場に置かれるのかということを理解しなければ適切な行動がとりにくいと言えます。

冷静を維持しながら法に反しない形で回収を進めるためには、やはり弁護士の支えが不可欠です。ひとたび破産の関係者となれば慎重な対応が求められますので、速やかに当事務所までご相談頂くことを強くお勧めします。

この記事がみなさまの参考になれば幸いです
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この記事を執筆した人

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