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遺言書があると、遺産相続が始まったときにはその内容に従って遺産分割などが行われます。
ただし、遺言の方法は民法で定められており、これに従ったものでなければ十分な効力を発揮しない場合があります。
ここでは、いざ遺産相続が始まった際にもめることのない、効力のある遺言書の書き方について掲載します。
遺言の方式を大きく分けると、普通方式と特別方式の2種類に分かれます。
普通方式の中でも一般的によく用いられるものが、自筆証書遺言です。
その名の通り自筆証書遺言とは、自分の自筆で書く遺言です。
自筆証書遺言のメリットは、証人も不要で一人で気軽に作成でき、遺言の存在や内容も秘密にしておけることです。
しかしデメリットもあります。形式や内容の不備によっては無効となってしまうことや、自分で保管するため偽造や隠匿のリスクが高いこと、存在を秘密にしておく場合は死後に見つけてもらえない場合もあること、家庭裁判所の検認が必要になるため遺言執行までに時間を要することなどです。
効力のある自筆証書遺言を書くためには、守るべきポイントが4つあります。
「自筆」証書遺言というからには基本中の基本となることですが、遺言内容はもちろん年月日や署名まで、すべてを遺言者の自筆で書く必要があります。
パソコンや音声録音、代筆など、自筆以外の方法で作成したものは一切認められません。
目録など他の書類を添付する場合は、それらもすべて自筆で作成しなければなりません。
自筆であれば良いため、作成に用いる用紙や筆記用具は任意で決めることができます。
正式な書類に筆記する上で至極当然のことではありますが、シャーペンや鉛筆など、後から改ざんできてしまう筆記用具では記入しないようにしましょう。
遺言書の冒頭もしくは末尾に、作成した年月日を必ず記入しましょう。
日付だけでなく「平成〇年〇月〇日」という形で記入します。年月日の正確な記入がないと、その遺言書は無効となります。
しばしば無効となってしまうケースでは、「平成〇年〇月吉日」など、正確な日付が特定できない記載が見受けられます。非常に重要なポイントですから、注意しましょう。
ちなみに、「〇歳の誕生日」や、「平成〇年元日」などは、日付が特定できるため有効とされています。
ただし、特にこだわりがない限りは、普通に年月日を記載するのが安全でしょう。
年月日の記入が必須なのは、遺言者の意思能力を判断するためです。また遺言書が複数発見された場合にも、年月日は重要な要素となります。
遺言書の最後には、遺言者の氏名をフルネームで記入し、押印します。
認印や拇印を押印しても無効にはなりませんが、実印が最善です。
遺言書の書式には、厳密な規則はありません。
縦書きでも横書きでも問題なく作成できます。
遺言書なので、はじめに「遺言書」と書いておくと良いでしょう。
その下には、「遺言者○○は、次の通り遺言する」などの一文を記入し、遺言の内容を羅列します。
相続人それぞれに財産の種類を特定して相続させたい場合は、相続人の名前と一緒に、その財産を容易に特定できるような記入しましょう。
例えば不動産を相続させる場合は、土地と建物に分けて明記します。記入は不動産登記簿に記載されている通りに書くと確実です。
内容を訂正したり削除したりしたい場合には、民法のルールに従って行わなければなりません。
訂正する場合には、訂正前の文字が読めるような仕方で二重線を引き、そばに押印する等、細かいルールがあります。
自筆証書遺言ですから、書き直しは自由に行えます。もしあまりにも訂正・削除箇所が多くなってしまったら、一から書き直すのも良いかもしれませんね。
自筆証書遺言は封筒に入れて保管しなければならない、という規定はありません。
しかし遺言者自らが保管しなければならない以上、第三者による偽造の可能性は常にあると言えます。
そこで、完成した自筆証書遺言は封筒に入れて封印しておくことをお勧めします。
間違って捨てられてしまわないよう、封筒の表にははっきりと大きく「遺言書」と書き、裏面には遺言者のフルネーム署名と遺言の作成年月日を記入し、封印をします。
押印するのは、遺言書の署名で用いたのと同じものにしましょう。
これは決まりではないのですが、封筒の裏面には「開封せずに家庭裁判所の検認を受けること」などの注意書きをしておくよう強くお勧めします。
発見した家族が慌てて開封してしまうことのないためです。開封したからと言って遺言が無効になることはありませんが、開封してしまった方は過料を取られることとなります。
ご家族に思わぬ処罰を受けさせないためにも、封筒の注意書きはぜひ記入しましょう。
さて、無事に自筆証書遺言を完成させても、次に悩むのは保管場所の問題かもしれません。
存在も内容も秘密にしておけるのがメリットとは言え、いざ相続が始まったときに誰にも見つけてもらえないのでは意味がありません。
かと言って、すぐに見つかるような場所では偽造や隠匿の恐れがあります。
個人個人それぞれ生活環境は異なりますので一概には言えませんが、普段は家族が立ち入らず目が届かないものの、遺品整理などの際には必ず確認されるであろう場所を探すことができるでしょう。
例えば、デスクや棚の鍵付きの引き出しの中や、金庫の中などです。
もし信頼の置ける親族や友人がいるなら、その人に預かってもらうのも良いでしょう。また、普段から付き合いのある弁護士や行政書士などがいるならそこへ預けておくこともできます。
公正証言遺言も、普通方式の遺言のひとつです。
遺言者が伝えた内容を、公証役場の公証人が文書にするスタイルの遺言のことです。
メリットは、遺言のプロが作成して保管してくれるため些細なミスによる遺言無効のリスクがないこと、悪意をもった者による偽造や破棄、隠匿の恐れがないこと、検認が不要で遺言執行が速やかであることなどです。
デメリットとしては、自筆証書遺言と比較して費用と手間がかかることがありますが、偽造や隠匿の恐れがなくなることには大きなメリットがあるため、活用すべきです。
公正証言遺言の作成のための基本的な費用は、以下の表のように財産の価額によって変動します。
項目 | 財産の価額 | 金額 |
---|---|---|
証書の作成手数料 | 100万円以下 | 5,000円 |
500万円以下 | 11,000円 | |
1000万円以下 | 17,000円 | |
3000万円以下 | 23,000円 | |
5000万円以下 | 29,000円 | |
1億円以下 | 43,000円 | |
3億円以下 | 5,000万円毎13,000円を加算 | |
10億円以下 | 5,000万円毎8,000円を加算 |
この他に、出張してもらう際の役場外執務費用や、遺言を取り消す際の手数料、正本の交付料など、場合によって加算される費用があります。
では、実際に公正証言遺言を作成する場合の流れをご紹介します。
公正証言遺言では、遺言書の本文を作成するのは自分ではありません。
どのような内容の遺言にしたいのかをよく検討して、メモなどに記しておくことが必要です。
公証人は、遺言者の希望に沿う形の遺言になるよう法的な見地からアドバイスをしてくれますが、基本的な方針や意向は遺言者自身で決めておかなければなりません。
公正証言遺言では、遺言作成に立ち会い、遺言の存在を証言してくれる証人が2人以上必要です。
次の条件に当てはまる人は、証人になれません。
証人には、遺言の内容が事細かに知られることになります。ですから、本当に信頼できる人を選ばなければなりません。
もし身近に適切な人物がいないのであれば、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできます。また公証役場では証人の紹介も行っていますので、利用できるでしょう。
ただし専門家や公証役場での紹介によって証人を得る場合は、費用が発生します。
遺言の内容が決まったら、最寄りの公証役場に行き公証人と打ち合わせを行いましょう。
自宅から最寄りのところでなければ作成できないという規定はありませんが、病気などで出向くことができず自宅や施設へ出張してもらう場合には、公証役場ごとの管轄地域の定めが影響する場合があります。
出張を希望する場合には、事前に確認しておきましょう。
打ち合わせには、次の書類を持参しましょう。
打ち合わせは通常、数回に渡って行われます。遺言の原案がしっかり固まるまで繰り返し打ち合わせを行いますが、毎回公証役場に足を運ぶ必要はなく、電話やファックスなどでのやり取りも可能です。
この段階で、遺言の内容はほぼ決まることでしょう。
公証人という遺言書のプロが作成してくれるので不備などのミスの心配は無用ですが、やり取りを重ねる中で誤解や勘違いが生まれないとも限りません。
伝えてあるから大丈夫と過信せず、適宜打ち合わせ内容を確認するようにしましょう。
公証人と決めた遺言書作成の当日は、証人を伴って公証役場に出向きます。
まずは公証人と証人の前で、遺言の内容を自ら口述します。
それを公証人が筆記し、遺言者と証人の前で筆記した内容を読み上げます。
次いで、遺言者と証人がその内容を確認して署名押印をします。証人の押印は認印で可能です。
最後に、公証人が署名押印を行い、公正証言遺言が完成します。
遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者本人にも正本が交付されます。
普通方式の中のひとつですがあまり使われない遺言方式が、秘密証言遺言です。
基本的に自筆(代筆も可)で書いた遺言書を封印して公証役場に持って行き、公証人と証人に遺言の存在を証明してもらうというものです。
メリットは、遺言の内容は秘密にしておきつつ、存在は証明できるということです。
デメリットは、公証人はあくまで遺言の存在を証明してくれるに過ぎず、遺言の内容に直接関与しないため、内容の偽造など自筆証書遺言と同じリスクが付いて回ることです。
公証人による遺言内容チェックがうけられす、メリットが少ないことから、あまり用いられていない方法です。
遺言書を作成する際には、ほとんどの場合に自筆証書遺言か公正証言遺言のどちらかを選択することになるでしょう。
どちらにもメリットデメリットがありますから、よく理解した上で注意深く選択すべきでしょう。迷った場合には、専門家のチェックをうけることができる公正証書遺言をおすすめします。
どの方式の遺言を作成するにしろ、遺言書を作成する一番の理由は、遺族が相続を行う際に出来る限り争わないようにすることです。
そのためには具体的で、遺族が受け入れやすい内容の遺言を作成しなければなりません。
遺言書を有効なものとするために前述のルールを順守することはもちろん、見る人が容易に内容を理解できるような簡明な書き方で作成するべきです。
自筆証書遺言のところでも少し取り上げましたが、遺産の分割方法などは是非とも記載するべき内容と言えるでしょう。
不動産など分割しにくい遺産が含まれる場合には、遺産の種類ごとに相続人に割り振るなどして、争いが起きないよう工夫しましょう。
遺産となるものが不動産しかない、という状況であれば、公平に相続人に分割するために不動産を売却して金銭に換えて分配する「換価分割」という方法を指定することもできるでしょう。
もし売却するわけにはいかないのであれば、他の分割方法を指定しましょう。
不動産の最善の分割方法でお悩みの場合は、当事務所へご相談いただければ実際的なご提案をさせていただきます。
しかし、遺言書があるのにトラブルに発展するケースも度々生じています。
原因は、遺産の分割方法が何も記載されていなかったり、分割方法は指定されているものの情報不足のために遺産が特定できなかったり、幾通りもの解釈ができるようなあいまいな表現であったりすることです。
相続を行う家族の間に無用なトラブルを引き起こさないためにも、容易に特定できる仕方で、明確な内容で遺産分割方法を記載しておきましょう。
また、色々な理由から、遺産分割において相続人の間の取り分に差をつけることを考えている方もおられるでしょう。
その場合は、特定の相続人にとって極端に不利な内容にならないよう注意して下さい。
被相続人の兄弟姉妹を除いた相続人には「遺留分」という、最低でもこれだけは受け取れると法律に保証された取り分があります。
もし、遺言の内容に従うと一部の相続人の遺留分が侵害されてしまう場合には、侵害された人は侵害の原因となっている人へ「遺留分の減殺請求」を行って、遺留分を取り戻さなくてはならなくなります。
遺言者の死後、様々な手続きや感情的な痛手を経験している遺族にとっては、遺留分を請求しなければならないことは心身ともに非常な負担となるでしょう。遺言書の書き方次第でいくらでも予防できるトラブルですから、極端な内容は避けて下さい。
もし、遺言者への暴行や侮辱などの非行を繰り返していたり、素行に著しく問題がある相続人に財産を相続させたくないのであれば、遺言で指定するのではなく家庭裁判所へ「相続人の廃除」という申立てを行うことで実現できます。
冒頭で、遺言には普通方式と特別方式の2種類があるとご紹介しましたが、特別方式の遺言についても少し触れておきましょう。
一般に、特別方式で作成された遺言書によって遺産分割が行われることは非常にまれです。
なぜなら特別方式の遺言とは、急病や事故などを原因として唐突に命の危険が迫っている場合、急遽作成される遺言であるためです。
特別方式の遺言は、大きく分けて「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2つに分類されます。
危急時遺言は、一般の臨終遺言と、船舶遭難者の遺言に細分化しています。
一般の臨終遺言とは、急病や事故で死が近い状況にあると思われる場合、3人以上の証人の立ち合いのもと作成される遺言です。
遺言者が自筆できない状況が想定されるため、遺言者が証人のうち1人に口頭で遺言を伝え、その証人が遺言を筆記する方法で作成されます。他の証人は遺言の内容が確かに遺言者の意思であることを確認したら、署名押印します。
この遺言は、作成された日から20日以内に家庭裁判所へ持って行き、審判を行う必要があります。
もし遺言者が遺言作成後6カ月以上生存していた場合には、この遺言は無効となります。
船舶遭難者の遺言とは、沈みゆく船や、墜落し始めた航空機に乗っている場合など、突然に死が間近に迫った場面で作成されます。
2人以上の証人の立ち合いのもと、遺言者が証人に口頭で遺言を伝え、証人が筆記して作成されます。作成された遺言は、作成した日から20日以内に家庭裁判所の審判を受ける必要があります。
伝染病のために隔離されている人や、災害の被害に遭ってしまい隔絶された環境にある人、また刑務所で服役している方や、業務などの理由で船舶にいる人など、一般社会から隔離された環境にある人が作成する遺言です。
船舶以外の場合は、警察官1人と証人1人の立ち合いのもと作成します。船舶であれば、船長もしくは事務員1人と証人2人の立ち合いが必要です。
どちらの場合も、家庭裁判所の審判は必要ありません。
公正証言遺言は例外ですが、自筆証書遺言の場合はちょっとしたミスで効力が弱まったり、無効になってしまうことさえあります。
遺言書がなく、遺産分割でこじれにこじれてしまったご遺族を見る時に、「有効な遺言書さえあれば、ご遺族がこんなに長い間苦しむこともなかっただろうな」と思わずにはいられないこともしばしばあります。
もちろん、まだ元気なうちから死んだ後のことなど考えたくない、というお気持ちもよく分かります。
しかし、遺言書がないことがご遺族に与える負の影響というものは想像以上に大きく、ときに家族の仲を引き裂くほど壊滅的なものとなることもあります。
人間、いつ死んでしまうかは誰にも分かりません。まだ元気なうちだからこそ、大切なご家族のため今のうちに有効な遺言書を作成なさるよう強くお勧めします。
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