交通事故の裁判はすべき?メリットや費用・期間・必要な証拠を弁護士が解説

「交通事故の裁判をすべきか悩んでいる」
「交通事故の裁判をする際、費用はどれくらいかかる?」
交通事故の示談交渉がこじれ、解決のために裁判をするか悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
裁判には「費用と時間がかかる」というデメリットと引き換えに、「賠償金が最大化する」「過失割合が是正される」といったメリットがあります。泣き寝入りをせず、法的に適正な賠償を得るために有効な選択肢の一つです。
この記事では、示談交渉が決裂した後の最終手段である「交通事故の裁判」について、メリット・デメリットや実際の手続きの流れを解説します。費用や期間も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
交通事故で裁判をするべきか悩んでいる方は、一度弁護士法人アクロピースにご相談ください。
交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、あなたのケースに合わせて適切な解決方法をご提案いたします。
初回60分の無料の相談も実施しているのでお気軽にご相談ください。
\ 相談実績7000件以上/
【無料相談受付中】365日対応
交通事故の裁判とは?示談や調停との違い
交通事故の損害賠償問題を解決する方法には、当事者同士の示談交渉、第三者を介したADRや調停、最終手段である裁判の3つが存在します。
まずは、裁判が他の手続きとどう違うのか、基本的な仕組みを理解しましょう。
交通事故で争うのは「民事裁判」
交通事故の裁判には「刑事裁判」と「民事裁判」の2種類があります。被害者が加害者に対して損害賠償を請求するのは「民事裁判」です。
これは、加害者の不法行為によって生じた損害(治療費、慰謝料、休業損害など)を金銭で賠償するよう求める手続きです。
一方で、刑事裁判は、加害者の危険な運転行為(過失運転致死傷罪など)をした者に対して、国が拘禁刑や罰金といった刑罰を科すための手続きです。
刑事裁判は検察官が公訴を提起することにより開始されます。被害者ではなく、検察官の判断により刑事手続きが進められるのが特徴です。
弁護士 佐々木一夫以降、この記事で扱う「交通事故の裁判」は、すべて民事裁判を指します。
交通事故の裁判と示談交渉やADR・民事調停との違い
示談交渉・ADR・民事調停・民事裁判は、解決の主体や強制力が異なります。
多くのケースでは、まず示談交渉から始まります。示談が成立しない場合に、ADRや裁判へと移行するのが一般的です。
それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 解決方法 | 概要 | 解決の主体 | 合意の要否 | 強制力 |
|---|---|---|---|---|
| 示談交渉 | 当事者同士(通常は保険会社)が話し合い、賠償額や過失割合を決定する方法 | 当事者 | 必要 | なし(示談書の内容について別途民事訴訟を起こす必要がある) |
| ADR・民事調停 | 裁判外紛争解決手続。公平な第三者(調停委員など)が間に入り、話し合いによる合意を目指す方法 | 第三者(調停委員) | 必要 | あり(調停調書は判決と同等の効力) |
| 民事裁判(訴訟) | 裁判所が法に基づき、証拠をもとに賠償額や過失割合について最終的な判断(判決)を下す方法 | 裁判官 | 不要(和解の場合は必要) | あり(判決・和解調書) |
示談やADR・民事調停は、あくまで当事者双方の「合意」がゴールです。相手が納得しなければ、いつまでも解決しません。※紛争処理センターを除きます。
一方で裁判は、たとえ相手が合意しなくても、裁判官が法的な判断を下すことで問題を強制的に解決できる点が大きな違いといえるでしょう。
交通事故の裁判を起こすメリット
示談交渉がうまくいかない場合、裁判に踏み切ることには大きなメリットがあります。時間や費用をかけてでも裁判を選ぶ理由は、主に以下の5点です。
以下、それぞれ具体的に解説します。
賠償額が「弁護士(裁判)基準」で算定される
交通事故の裁判を起こすメリットとして代表的なのが、賠償額を「弁護士(裁判)基準」で算定できる点です。
そもそも交通事故の慰謝料などには、以下3つの算定基準があります。
| 自賠責基準 | 法律で定められた最低限の補償基準 |
|---|---|
| 任意保険基準 | 各保険会社が独自に設定している内部基準 |
| 弁護士(裁判)基準 | 過去の判例に基づき設定された、法的に最も正当とされる基準 |
示談交渉では、保険会社は「任意保険基準」に基づいた低い金額を提示してきます。
しかし裁判では、裁判所は日弁連交通事故相談センター発行の『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称:赤い本)などに記載された基準を参考に、過去の裁判例に照らして損害額を算定するのが特徴です。
これらの基準は「弁護士基準(裁判基準)」と呼ばれ、保険会社の提示する「任意保険基準」より高額です。慰謝料が保険会社提示額の2倍近く増額されるケースも少なくありません。
交通事故の賠償額については、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【交通事故損害賠償額算定基準】交通事故の損害賠償額が変わる3つの算定基準を詳しく解説
過失があっても、訴訟をすることで損害の全額を受け取れる場合がある
自分に過失がある場合でも、「人身傷害保険特約」という特約に加入している場合には、訴訟を行うことで人身損害の満額を受け取ることができるケースがあります。
最高裁判所が、人身傷害保険金は被害者の自己過失部分から充当するとの判決を下しているからです(最高裁平成24年2月20日判決)。
この判例のルールを適用して、人身傷害保険金は自己の過失部分に充当し、加害者過失部分は加害者からきっちり取り立てるということが実際に可能です。
ただし、これも訴訟を提起しないと上記判例の準則が適用してくれないのが実務の運用です。従って、自己過失部分がある場合には、それでも満額回収できるかを弁護士にしっかり確認すべきです。
過失割合を適正に是正できる可能性がある
交通事故では、被害者側にも過失があった場合、その割合分だけ賠償金が減額されます(過失相殺)。
この「過失割合」は、示談交渉で最も揉めやすい争点の一つです。保険会社が被害者にとって不利な過失割合を主張し、譲らないことも多々あります。
裁判では、以下の要素を総合的に検討し、裁判官が過失割合を判断します。
- ドライブレコーダー映像
- 刑事記録(実況見分調書等)
- 道路交通法上の規制内容
- 過去の裁判例で確立した過失割合基準(別冊判例タイムズ等)
- 個別の修正要素(速度違反・著しい前方不注視等)
保険会社の主張が法的に正しくない場合、裁判によって適正な過失割合に是正できる可能性があるでしょう。
関連記事:交通事故の過失割合を徹底解説|ケース別の相場と納得できない時の対処法
弁護士費用の一部(損害額の約10%)を加害者に請求できる
裁判で勝訴した場合、損害賠償金とは別に、弁護士費用相当額を損害の一部として請求できることがあります。
これは、不法行為による損害賠償(民法第709条)において、相当因果関係のある損害の範囲に弁護士費用が含まれるとする、裁判実務上確立した法理に基づくものです。
金額は、裁判所が認めた損害額(認容額)のおおむね10%程度が目安とされていますが、事案の難易度や審理期間等により増減します。
たとえば、裁判で500万円の損害賠償が認められた場合、その10%である50万円を弁護士費用として上乗せ請求することが可能です。
示談交渉やADRでは、弁護士費用は原則として自己負担です。裁判ならではの大きなメリットといえます。
事故発生日からの「遅延損害金(年3%)」を請求できる
交通事故の損害賠償金には、一定の時点から支払いを受ける日までの『遅延損害金』が加算されます。
利率は、民法改正(2020年4月1日施行)により2025年11月現在は年3%とされ、3年ごとに改定される仕組みです(民法第404条)。遅延損害金の起算点は、不法行為に基づく損害賠償債務として、原則として事故発生日(不法行為時)からとなります。
2020年3月31日以前に発生した事故については、旧法が適用され年5%(固定)となります。
示談交渉では、この遅延損害金が免除されることがほとんどです。しかし、裁判では、判決で認められた元金に対して、事故発生日からの遅延損害金を上乗せして請求できます。
賠償額が高額になるほど、この差は大きくなります。裁判ならではの大きなメリットといえるでしょう。
確定判決(または和解調書)による法的な強制力が得られる
裁判で下されて確定した「確定判決」や、裁判上で成立した「和解調書」には、法的な強制力(執行力)があります。
確定判決や和解調書には債務名義としての効力があり、相手方が支払いを怠った場合、民事執行法に基づく強制執行(差押え)が可能です(民事執行法第22条)。
ただし、差押えの対象となる財産(預貯金口座・勤務先・不動産等)は債権者側が調査・特定する必要があります。
最近では、財産開示命令が強化されたり、銀行が財産調査に協力しやすくなっているので、回収の可能性も昔より高まっています。
一方、示談交渉で作成した示談書には、通常、強制執行力はありません。相手が支払わない場合、結局その示談書を証拠として裁判を起こす必要があります。



裁判は、相手の不払いリスクに備えられる強力な手段といえるでしょう。
交通事故の裁判を起こすデメリット
交通事故において裁判は適正な賠償を得るための有効な手段ですが、同時に無視できないデメリットも存在します。
主なデメリットは、以下のとおりです。
- 解決まで長期間かかる(平均13.3ヶ月)
- 準備資料・証拠収集の負担が大きい
- 費用倒れリスクがある(損害額が少額なら不向き)
- 精神的負担が大きい
- 和解金額も必ずしも希望通りになるとは限らない
平均審理期間は約13.3ヶ月にも及び、その間、被害者は常に事故と向き合い続けることになります。加えて、主張を法的に立証するための綿密な資料作成や証拠収集が必要となり、その実務的負担は決して軽くありません。
経済的なリスクも考慮が必要です。損害額が比較的少額である場合、最終的な獲得金額よりも弁護士費用や訴訟費用が高くつく「費用倒れ」に陥る可能性があります。
また、司法の判断を仰ぐ以上、判決や和解金額が必ずしも自身の希望額に達する保証はありません。長期間にわたる係争は精神的な負担も甚大であるため、得られる利益とコストのバランスを冷静に見極める必要があります。
交通事故で裁判をすべきケース・避けた方がいいケース
裁判にはメリットが多い一方で、デメリットも存在します。すべての事案で裁判が最善とは限りません。
ここでは、交通事故で裁判をすべきケースと避けた方がいいケースを紹介します。自身の状況がどちらに近いか、冷静に判断しましょう。
交通事故で裁判をすべきケース
交通事故の賠償問題は、多くが当事者間の話し合い(示談交渉)で解決します。しかし、交渉がまとまらない場合や、相手方の対応に著しい問題がある場合は、裁判所(民事訴訟)に最終的な判断を仰ぎましょう。
とくに以下のようなケースでは、裁判を検討する価値が十分にあります。
- 保険会社の提示する賠償額が「弁護士基準」と比べて著しく低い
- 過失割合について、双方の主張が平行線
- 自分にも過失があるが、人身傷害保険に加入している
- 事故態様の主張が食い違い、相手が事実と異なる主張をしている
- 加害者が任意保険に加入しておらず、本人に支払い能力や誠意がない
- 保険会社が「治療費の支払いを打ち切る」など高圧的な対応を繰り返す
交通事故の慰謝料などには3つの基準(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)があり、「弁護士基準(裁判基準)」が最も高額です。
保険会社が提示する「任意保険基準」は、弁護士基準より大幅に低い可能性があります。交渉しても増額に応じない場合、裁判を起こすことで弁護士基準に基づいた正当な賠償額を得られる可能性が高まるでしょう。
また、相手に支払い能力や誠意がない場合、示談が成立しても支払われないリスクがあります。交通事故の裁判で勝訴判決を得れば、「強制執行(差し押さえ)」が可能な法的な権利(債務名義)となり、相手の給与や預貯金、不動産などを差し押さえることが可能です。
交通事故の裁判を避けた方がいいケース
裁判は、正当な権利を実現するための強力な手段ですが、時間・費用・精神的な負担が非常に大きい手続きでもあります。
以下のようなケースでは、裁判に踏み切っても期待した結果が得られず、かえって不利益が大きくなるリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
- 裁判で増額できる金額より、弁護士費用の方が高くなる
- 裁判を維持するための十分な証拠がそろっていない
- 示談交渉の方が裁判をするよりも有利な可能性が高いケース(弁護士とよく協議すべき)
損害がバンパーの修理費数万円のみといった物損事故や、ケガがごく軽微な場合、得られる賠償額も小さくなります。弁護士費用(着手金・報酬金)の方が高額になれば、「費用倒れ」となるリスクがあるでしょう。
また、裁判官は当事者の「言い分」だけでは判断できず、客観的な証拠に基づいて事実を認定します。事故状況を証明する証拠が不十分な場合、たとえ自分の主張が正しくても、裁判でそれを認めてもらうことは困難です。
さらには、交通事故に精通した弁護士であれば、特定のケースでは示談交渉の方が訴訟よりも有利な可能性があると判断できる場合もあります。
交通事故の裁判にかかる費用
裁判を起こすためには、裁判所に納める費用と、弁護士に依頼する場合の費用が必要です。具体的にどのような費用が発生するのか、内訳を見ていきましょう。
裁判所に支払う費用
裁判を起こす際、原告(訴える側)は、まず裁判所に「実費」を納める必要があります。
裁判所に支払う実費は、主に「収入印紙代」と「郵便切手代」の2つです。
| 申立手数料(収入印紙代) | 訴訟を起こす際に、訴状に貼付する手数料です。 請求する金額(訴額)に応じて、法律で細かく定められています。 |
|---|---|
| 予納郵券(郵便切手代) | 裁判所が訴状や証拠書類などを相手方(被告)に郵送するために使う切手代です。 裁判所にあらかじめ数千円程度分の郵便切手を納めます。 |
収入印紙代は、請求額が大きくなるほど高額になります。ただし、単純な比例ではなく、金額の区分ごとに異なる計算率が適用されるため、計算はやや複雑です。
収入印紙代の主な区分は、以下のとおりです。
| 訴額(請求する金額) | 収入印紙代 |
|---|---|
| 100万円まで | 10万円ごとに1,000円 |
| 100万円超 500万円まで | 20万円ごとに1,000円 |
| 500万円超 1,000万円まで | 50万円ごとに2,000円 |
| 1,000万円超 1億円まで | 100万円ごとに3,000円 |
収入印紙代は、民事訴訟費用等に関する法律別表第一により、訴額に応じて細かく定められています。具体的な金額は、裁判所Webサイトの「手数料額早見表」で確認しましょう。
一方で予納郵券(郵便切手代)の費用は、各裁判所が独自に定めているのが特徴です。また、裁判が終了した時点で使われなかった切手はすべて原告に返還(還付)されます。



予納郵券(郵便切手代)の具体的な費用が知りたい場合は、裁判所か弁護士に相談しましょう。
なお、弁護士費用特約がある場合には、保険からこれらの必要経費を支出してもらうこともできますので、保険の内容を弁護士とよく相談しましょう。
弁護士に支払う費用
弁護士に裁判を依頼する場合は、裁判所に支払う費用とは別で費用が発生します。主な費用は、以下のとおりです。
| 相談料 | 正式に依頼する前の法律相談にかかる費用です。 初回相談無料の事務所も多くあります。 |
|---|---|
| 着手金 | 依頼が成立した時点(裁判の開始時)で支払う費用です。 ただし、交通事故の場合には、弁護士費用特約でカバーされる場合も多く、実質的に着手金は支払わなくてよいことも多いです。 支払われたものは裁判の結果(勝敗)にかかわらず、返金されないのが原則です。 |
| 報酬金 | 裁判が終了し、賠償金(経済的利益)が得られた場合に支払う成功報酬です。 「回収額の〇〇%」といった形で計算されます。 これも、弁護士費用特約がある場合には、300万円までは保険でカバーされます。 |
| 実費・日当 | 上記とは別に、裁判所への交通費・通信費などの実費や、弁護士が裁判所に出廷するための日当が発生する場合があります。 |
一般的な費用の目安は、以下のとおりです。
| 費用の種類 | 費用の目安 |
|---|---|
| 相談料 | 無料~10,000円/時間 |
| 着手金 | 20万~30万円程度 |
| 報酬金 | 獲得金額の10~20% |
| 実費・日当 | 数千円~数万円程度 |
費用体系は法律事務所によって異なるため、必ず事前に確認しましょう。複数事務所の事前相談を利用し、事前に見積もりをもらうことが大切です。
弁護士費用特約がある場合には費用がかかりませんが、弁護士費用特約がない場合には費用対効果が合うかを確認することも重要です。
弁護士費用と裁判費用を踏まえた際、「回収できる増額見込みが20〜30万円未満」の場合は、費用倒れのリスクが高くなるのが一般的な目安です。
逆に、むちうちでも後遺障害等級が認定されている場合や、過失割合に大きな争点がある場合は、裁判の増額幅が大きくなる傾向があります。
費用対効果は事案ごとに異なるため、着手前に弁護士に増額見込みを具体的に試算してもらうことが重要です。
関連記事:交通事故で弁護士に依頼して後悔するケースは?よくある失敗例と対処法を徹底解説
交通事故で裁判をするべきか悩んでいる方は、一度弁護士法人アクロピースにご相談ください。
交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、あなたのケースに合わせて適切な解決方法をご提案いたします。
初回60分の無料の相談も実施しているのでお気軽にご相談ください。
\ 相談実績7000件以上/
【無料相談受付中】365日対応
交通事故の裁判費用は誰が支払う?
裁判にかかる費用を誰が負担するかについては、費用の種類によって扱いが異なります。
まず、弁護士費用(着手金や報酬金)は、原則として依頼した本人が負担します。
ただし、メリットで述べた通り、勝訴すれば判決で認められた損害額の約10%を「弁護士費用相当額」として相手に請求することが可能です。これにより、自己負担額の一部を補填できる可能性があります。
次に、裁判所に納めた訴訟費用(収入印紙代や郵便切手代)は、判決において「敗訴者負担」となるのが原則です(民事訴訟法第61条)。全面勝訴した場合、訴訟費用額確定処分の申立て(同法第71条)により、相手方に請求できます。
ただし、実際の回収には別途「訴訟費用額確定処分」の申し立てが必要です。



一部勝訴の場合は、勝訴した割合(認容額の割合)に応じて按分されるのが特徴です。
交通事故の裁判にかかる期間
交通事故の裁判は、どのくらいの時間がかかるのでしょうか。裁判所の統計データを見ると、平均的な審理期間がわかります。
最高裁判所事務総局のデータによると、令和4年(2022年)に地方裁判所で終結した交通損害賠償事件の平均審理期間は13.3か月です。
つまり、提訴してから判決や和解に至るまで、平均で約1年かかっていることになります。
ただし、これはあくまで平均値です。争点が少ない単純な事案であれば、もっと早く解決する可能性があるでしょう。



いずれにせよ、裁判は示談交渉に比べ、解決までに時間がかかることは覚悟しておく必要があります。
出典:最高裁判所事務総局|裁判の迅速化に係る検証に関する報告書
【ステップで解説】交通事故の民事裁判の流れ
交通事故の裁判は、テレビドラマのように毎回法廷で議論が交わされるわけではありません。実際には、書面の提出と準備が中心となり、非常に専門的な手続きが進められます。
ここでは、訴訟提起から終結までの大まかな5ステップを解説します。
ステップ1|訴状の作成・提出
裁判は、原告(被害者側)が「訴状」を裁判所に提出することから始まります。
訴状とは、以下の内容を記載した裁判所への申立書です。
- 誰を相手に(被告:加害者や保険会社)
- どのような請求をするのか(損害賠償金〇〇円を支払え)
- なぜその請求が認められるべきか(事故の状況、損害の内訳)
提出の際、請求の根拠となる証拠(診断書、事故証明書など)の写しも添付します。
提出先は、原則として被告の住所地、または事故発生地を管轄する裁判所です。請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所となります。
ステップ2|第1回口頭弁論(裁判所に出頭)
訴状が受理されると、裁判所は約1〜2か月後に「第1回口頭弁論期日」を指定します。
被告(加害者側)には、裁判所から訴状と呼出状が郵送されます。被告は、指定された期日までに、訴状に対する反論を「答弁書」として提出しなければなりません。
第1回口頭弁論では、原告が訴状の内容を、被告が答弁書の内容をそれぞれ陳述します。
ただし、被告が答弁書を提出していれば、初回の期日は欠席することが多いです。また、弁護士に依頼している場合、本人が裁判所に出頭する必要は基本的にありません。
ステップ3|争点整理と証拠提出(書面のやり取り)
第1回口頭弁論の後は、法廷ではなく非公開の準備室で手続きが進むことが多いです。これを「弁論準備手続」と呼びます。
原告と被告は、約1か月に1回のペースで、お互いの主張を「準備書面」という書面にまとめ、証拠と共に提出し合うのが特徴です。
裁判所は、これらの書面を通じて、両者の主張のどこが一致し、どこが食い違っているのかを明確にします。



この書面のやり取りが、裁判期間の大半を占めることになるでしょう。
ステップ4|尋問(当事者・証人)
書面での主張と証拠提出が尽くされ、争点が明確になった段階で、裁判のハイライトとも言える「尋問」が行われます。
尋問は、当事者本人(原告・被告)を尋問する「当事者尋問」と、事故の目撃者や医師などを尋問する「証人尋問」の2種類です。
尋問は公開の法廷で行われ、まず自分の弁護士からの質問(主尋問)に答えます。次に、相手方の弁護士からの厳しい質問(反対尋問)に回答しなければなりません。
最後に、裁判官から補充の質問(補充尋問)がなされることもあります。
尋問での証言は裁判官が判決を下す上で非常に重要な証拠となるため、質問されたからといって安易に話してはいけません。事前に弁護士と相談しておきましょう。
ステップ5|和解または判決
尋問が終わり、すべての審理が終了すると、裁判所は「判決」または「和解」によって事件を終結させます。
| 判決 | 裁判官が、証拠と法律に基づき、最終的な判断(「被告は原告に対し金〇〇円を支払え」など)を下します。 |
|---|---|
| 和解 | 裁判官が、判決に至る前に、双方の主張や証拠を踏まえた妥当な解決案(和解案)を提示し、当事者双方の合意による解決を促すことです。 |
日本の民事裁判では判決まで行くケースは少なく、約7割が「和解」で終了するのが特徴です。実際、裁判所のデータによると、令和4年(2022年)の交通損害賠償事件に占める和解率は65.3%でした。
出典:最高裁判所事務総局|裁判の迅速化に係る検証に関する報告書



和解が成立すれば、その内容を記した「和解調書」が作成されます。
示談交渉決裂後の「裁判以外」の解決方法
保険会社との示談交渉が決裂したからといって、すぐに裁判をしなければならないわけではありません。
裁判は時間も費用もかかる最終手段です。その前に、以下のような解決方法も検討しましょう。
以下、それぞれ具体的に解説します。
弁護士を通じた「示談交渉(再交渉)」
被害者本人が交渉している間は強気だった保険会社も、弁護士が代理人として介入した途端、態度を軟化させることは珍しくありません。
弁護士が出てくるということは、「交渉が決裂すれば裁判も辞さない」という被害者の強い意志の表れだからです。
弁護士は、裁判になった場合の見通し(弁護士基準での賠償額)を踏まえて交渉します。保険会社側も、裁判になれば弁護士基準での支払いが命じられる可能性が高いことを理解しています。
そのため、裁判に移行する前に、弁護士基準に近い金額での示談(再交渉)に応じるケースが少なくありません。
また、弁護士をつけて任意交渉をした場合には、訴訟前の任意交渉の方が裁判所で戦うよりも有利な解決を得られる場合もあります。ただ、これについては慎重な判断を要しますので、交通事故に精通した弁護士と十分な協議の上で進めてください。
関連記事:弁護士に依頼すると交通事故の解決までの期間は早くなる?期間の目安・早くなる理由を解説
交通事故紛争処理センター(ADR)の利用
交通事故紛争処理センターは、中立・公正な立場で交通事故の紛争解決をサポートする公益財団法人です。弁護士や法学者が調停委員となり、無料で相談や和解のあっせんを行ってくれます。
このセンターの最大の特徴は、和解が不成立となった場合「審査会」による審査を受けられる点です。
審査会が提示する「裁定」に対し、被害者側が同意すれば、センターと協定を結んでいる損害保険会社・共済組合は裁定を尊重する義務を負います(片面的拘束力)。これにより、被害者が同意した裁定内容で示談を成立させることが可能です。



弁護士基準に近い、適正な賠償額での解決が期待できる有効な手段といえるでしょう。
出典:公益財団法人 交通事故紛争処理センター|法律相談、和解 斡旋あっせん および審査の流れ
民事調停の申し立て
民事調停は、簡易裁判所で行われる話し合いの手続きです。
裁判官1名と、民間の良識ある専門家(調停委員)2名以上が間に入り、当事者双方の言い分を聞きながら、合意による解決を目指します。
調停は非公開で行われるため、プライバシーが守られます。また、裁判のように厳格な証拠調べはなく、柔軟な解決(分割払いの合意など)が可能です。
調停が成立すると「調停調書」が作成されます。これは、判決と同じ効力を持つ点が特徴です。
ただし、相手方が出席を拒否したり、合意に至らなければ、調停は不成立となり終了します。
交通事故の裁判までに準備すべき証拠
民事裁判では「証拠がすべて」と言っても過言ではありません。裁判官は事故現場を見ていないため、提出された証拠だけを頼りに事実を認定します。
また、加害者に損害賠償を請求する側(原告)が、事故の発生と損害の大きさを証拠によって証明する責任を負います。以下に紹介する証拠を適切に集めることが大切です。
事故状況に関する証拠|実況見分調書・ドライブレコーダー映像など
事故状況に関する証拠は、主に「過失割合」を証明するために必要な証拠群です。事故がどのような状況で発生したのかを客観的に示す資料が重要になります。
具体的な証拠は、以下のとおりです。
| 実況見分調書 | 警察が事故直後に作成する詳細な現場の記録。刑事事件の記録として検察庁に保管されます。(弁護士を通じて取得可能) |
|---|---|
| ドライブレコーダーの映像 | 事故の瞬間が記録されている場合、最も強力な証拠の一つとなります。 |
| 事故現場の写真 | 車両の損傷状況やブレーキ痕、道路の見通しなどがわかる写真が効果的です。 |
| 目撃者の証言 | 第三者の客観的な証言は、裁判官の判断に影響を与えます。 |
| 当事者の車両の修理見積書・写真 | 車両の損傷箇所や程度から、事故の衝撃の大きさを推測できます。 |
損害に関する証拠|診断書・後遺障害等級認定書・休業損害証明書など
損害に関する証拠は、主に「損害賠償額」を算定するために必要な証拠群です。事故によってどれだけの損害(身体的・経済的)を被ったかを具体的に立証するために使用します。
具体的な証拠は、以下のとおりです。
| 診断書・診療報酬明細書 | 事故による怪我の内容や、治療にかかった費用・期間を証明します。 |
|---|---|
| 後遺障害診断書 | 症状固定時に医師に作成してもらう、後遺障害の具体的な内容を記した診断書です。 |
| 後遺障害等級認定書 | 自賠責保険の調査機関が認定した後遺障害の等級(1級〜14級)を示す通知書です。 |
| 休業損害証明書・源泉徴収票 | 事故による休業日数と、事故前の収入(基礎収入)を証明するために必要です。 |
| その他(付添看護料・介護費用・装具代などの領収書) | ケガが原因で支払った費用の領収書も、重要な証拠となる可能性があります。 |
交通事故の裁判に関するよくある質問
最後に、交通事故の裁判に関して多く寄せられる疑問に回答します。裁判について理解を深めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
むちうち(後遺障害14級・12級)でも裁判で慰謝料は認められる?
むちうちであっても、症状が残り「後遺障害等級14級9号」や「12級13号」が認定されている場合、裁判において重要な証拠となります。
保険会社は、むちうちの症状を軽視し、後遺障害慰謝料や逸失利益を低く見積もる傾向があります。しかし、裁判所は等級認定の結果を尊重するのが特徴です。
等級認定を受けていれば、裁判基準(弁護士基準)に基づいた高額な後遺障害慰謝料が認められる可能性が高いでしょう。弁護士基準であれば、14級で約110万円、12級で約290万円(※)を受け取れます。



保険会社に認められなかったからと諦めず、まずは弁護士に相談してみることが大切です。
※書籍『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準|(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部編集』から引用
相手(加害者)が裁判に出頭しない場合はどうなる?
相手方(被告)が、訴状を受け取ったにもかかわらず、答弁書も提出せず、第1回口頭弁論期日にも出頭しない場合も珍しくありません。
この場合、被告が原告の主張を争わなかったものとして、擬制自白(民事訴訟法第159条第1項)が成立し、裁判所は弁論を経ずに判決を下せます(同法第159条第3項)。
結果、裁判は第1回期日で終結し、原告の請求(訴状に書いた内容)を全面的に認める判決(原告勝訴)が出されます。
このことからも、加害者が不誠実な対応を取る場合、裁判は被害者にとって非常に有効な手続きといえるでしょう。
裁判の判決に不満がある場合はどうすればよい?
第一審(地方裁判所など)の判決内容に不服がある場合、判決書を受け取った日から2週間以内であれば「控訴」ができます。
控訴すると、事件は高等裁判所(第二審)に移り、もう一度審理を受けることが可能です。
控訴の手続きは非常に専門的であり、第一審の判決を覆すためには、新たな主張や証拠が必要となる場合が多いです。
そのため、控訴を検討する場合は、判決後すぐに弁護士と詳細な打ち合わせを行いましょう。
また、控訴をせずに2週間が経過すると、判決が「確定」して内容を争うことはできなくなるため、注意が必要です。
まとめ|交通事故の裁判をするなら、まずは弁護士に相談しよう
交通事故の裁判は、保険会社の不誠実な対応や納得のいかない賠償額提示に対する、法的に認められた解決手段です。
賠償額が最も高額な「弁護士(裁判)基準」で算定されるうえ、保険会社の主張する不当な過失割合を是正できます。また、弁護士費用の一部や遅延損害金(年3%)を上乗せ請求することも可能です。
ただ、交通事故の裁判は、訴状の作成から証拠の収集、法廷での主張まで、高度な専門知識と経験が不可欠です。被害者本人が一人で対応するのは困難であると言わざるを得ません。
もし保険会社との交渉がうまくいかず裁判を検討しているなら、まずは交通事故問題に精通した弁護士に相談してみましょう。あなたの状況を法的な観点から分析し、裁判に勝つ見込みや、本当に裁判が最善の選択なのかを的確にアドバイスしてくれるはずです。
交通事故で裁判をするべきか悩んでいる方は、一度弁護士法人アクロピースにご相談ください。
交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、あなたのケースに合わせて適切な解決方法をご提案いたします。
初回60分の無料の相談も実施しているのでお気軽にご相談ください。
\ 相談実績7000件以上/
【無料相談受付中】365日対応









