後遺障害の併合と加重とは?基礎知識を解説

交通事故の被害にあってしまい、その後の治療によってもそれ以上改善しない後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定申請を自賠責事務所に申請することで、後遺障害等級認定を受けて賠償金を受け取ることになります。

後遺障害等級は1級から14級まで存在し、それぞれの等級に応じた金額を請求することになります。

ところで、後遺障害が一箇所のみならず複数箇所に残った場合、現在の後遺障害等級にはない診断名の後遺障害の場合、交通事故以前から有していた既往症があるところさらに事故によって後遺障害が加わった場合は、後遺障害等級認定に際してそれぞれ併合、相当、加重という特別のルールが用いられます。

この記事では、これらの併合、相当、加重についての基礎知識を解説します。

目次

併合とは

後遺障害等級表に記載されている症状は、体の各部位ひとつずつについて記載されています。しかし、交通事故被害の状況によっては、後遺障害が1つだけではなく複数部位に残ってしまうことがあります。

こうした場合、被害者が負った全ての後遺障害等級を合わせて考慮して等級が認定されることになります。このルールを併合といいます。

併合の原則ルール

基本的には複数ある後遺障害のうち、最も重い症状の等級をさらに繰り上げて認定します。

後遺障害等級は1級から14級のいずれか一つに定めなければならないところ、二つ以上の後遺障害がある場合、それらをあますことなく総合評価するためです。併合の具体的ルールとして、以下の四つの原則があります。

1点目として、後遺障害第5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、その中で最も重い等級を3つ繰り上げて認定します。

2点目として、後遺障害等級第8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、その中で最も重い等級を2つ繰り上げて認定します。

3点目として、第13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、その中で最も重い等級を1つ繰り上げて認定します。

4点目として、1番低い等級である第14級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、複数であったとしても第14級のままで認定されます。

併合の例外ルール

複数の部位の後遺症については、原則としては上記のように併合の考え方に基づき後遺障害が認定されます。

ただし、併合の例外として以下に説明する「みなし系列」「組み合わせ等級」に該当するケースがあります。

みなし系列とは、系列(後遺障害等級認定基準におけるグループわけ)が異なる複数の後遺障害があったとしても、同一部位に後遺症となって残った場合は併合ではなく、同一の系列として取り扱うことをいいます。この例外のことを、系列が異なるものを同一系列としてみなすので、みなし系列といいます。

みなし系列として扱われるものとして、①両眼球の視力、調節、運動、視野障害の相互間、②同じ上肢の機能障害と手指の欠損、機能障害および③同じ下肢の機能障害と足指の欠損、機能障害があります。

みなし系列内で複数の障害が残存した場合には、併合繰り上げの方法を用いてまず同一系列内で等級評価をし、その後みなし系列全体の等級評価をします(これを準用等級といいます。)。

例えば、「1手の母指を失い」(第9級8号)、かつ、同一上肢の3大関節中の2関節について「1関節の用を廃し」(第8級6号)、他の「1関節の機能に著しい障害を残した」(第10級9号)場合には、上肢の障害である2関節の障害について併合の方法を用いて準用7級を定め、更に、手指の障害である「母指を失った」障害との併合の方法を用いて準用第6級に認定されます。

もう一つの例外である組み合わせ等級とは、両上肢・手指の欠損や機能障害、両下肢・足指の欠損や機能障害、両まぶたの欠損や機能障害については、系列部位ともに異なる2つの後遺症ではあるものの、後遺障害等級表によって組合せ等級として後遺障害が定められている場合には、まとめ一つの後遺障害として評価するというルールです。

例えば、1下肢をひざ関節以上で失い(第4級5号)、かつ他の下肢を膝関節で失った(第4級の5)の場合には、併合の方法を用いるのではなく、まとめて「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」(第1級8号)として認定することになります。

加重とは

交通事故前から、既往症などで障害をお持ちの方が、交通事故被害により更に後遺症となる症状を負ってしまった場合に適用されるルールを加重といいます。

後遺症の場所は、既往症と同じ部位であることも、別部位や系列に残ることもあり得ます。

加重のルールが適用されると、公平の観点から、支払われる後遺症の賠償金から既往症についての保険金等が控除された金額が支払われることになります。

既往症については、交通事故と因果関係がないからです。また、既往症がある場合には、逸失利益の算定上も既往症を考慮しなくてはならなくなります。

どのように考慮するかについてはケースバイケースですが、賠償金の支払いに向けては重要な問題となります。

相当とは

後遺障害等級の表には、それぞれの等級に該当する具体的な病名や症状名が列挙されていますが、すべてのものが網羅されているわけではありません。

味覚や嗅覚の喪失・減退、外傷性散瞳は等級表には掲載されていませんが、列挙されている後遺障害に匹敵するレベルであれば、それぞれ後遺障害等級11級~14級の後遺障害として認定されることとなります。これを相当といいます。

例えば、嗅覚脱失や味覚脱失については、神経系統の障害に近い障害として、第12級12号を準用して、準用第12級として取り扱われます(減退の場合には準用第14級となります。)。

最後に

いかがでしたでしょうか。複数の後遺障害がある場合の考え方である併合、後遺障害等級表にはない症状について後遺障害等級が認められうる相当、既往症がある場合に後遺障害が残った場合の加重という三つの考え方は、後遺障害の賠償金額の多寡に影響する重要なポイントとなりますので、被害者の方としても基礎知識を知っておきたいところです。

保険会社都の示談交渉においても、該当の有無については大きな争点の一つになります。

また、具体的にご自身の状況に当てはまるかどうかを判断するためには専門知識が必要になりますので、後遺障害等級認定に詳しい弁護士等にご相談されることをお勧めします。

この記事がみなさまの参考になれば幸いです
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この記事を執筆した人

弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属

私のモットーは「誰が何と言おうとあなたの味方」です。事務所の理念は「最高の法務知識」のもとでみなさまをサポートすることです。みなさまが納得できる結果を勝ち取るため、最後まで徹底してサポートしますので、交通事故問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。

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