交通事故は「人身事故」扱いにすべき?人身事故にすべき理由や切り替え手続きを解説

「人身事故の被害に遭った場合はどう対処すればいい?」
「物損事故と人身事故ではどれくらい違う?」
交通事故で怪我をした場合、これを「人身事故」として扱うべきか迷うかもしれません。物損事故との違いや、手続きの遅れが将来の補償にどう響くか不安になりますよね。
この記事では、交通事故における人身事故の基礎知識から解説します。事故後にすべき対処法、物損事故からの切り替え手続き、よくあるトラブルまで紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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軽い交通事故でも「人身事故」扱いにすべき3つの理由
加害者から「警察を呼ばずに示談で解決したい」「軽い怪我だから物損事故にしてほしい」と頼まれることがあります。
しかし、被害者がこの申し出に応じるメリットは一つもありません。
軽い事故に見えても、人身事故として届け出るべき明確な理由を3つ解説します。
以下、それぞれ詳細に解説します。
適正な損害賠償を受けられる
人身事故として届け出る最大の理由は、適正な損害賠償(補償)を受けるためです。物損事故のままでは、前述した「慰謝料」や「休業損害」の請求が難しくなります。
保険会社は「物損事故(=怪我人なし)として処理されている」ことを理由に、支払いを拒否する可能性が高くなるためです。
治療費についても、支払いを拒否されたり、早期に打ち切られたりするリスクが高まります。
弁護士 佐々木一夫被害者が受けた損害に見合った補償を受けるには、人身事故の届出が不可欠です。
後遺障害が残った場合に「後遺障害等級認定」を受けやすくなる
事故直後は軽傷だと思っても、数か月治療しても痛みが取れないケースは少なくありません。とくに「むちうち」などは、後から症状が悪化することも多いです。
治療を続けても完治しない場合、「後遺障害等級認定」を申請します。この認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益といった将来分の補償も請求可能です。
ただ、物損事故のままでは、損害保険料率算出機構(損保協会系機関)による後遺障害等級認定が極めて困難になります。将来のリスクに備えるためにも、人身事故の扱いが必須です。
後遺障害等級について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せて参考にしてみてください。
関連記事:後遺障害等級とは?等級一覧表から申請方法、慰謝料の相場まで弁護士が徹底解説
事故状況の客観的な証拠(実況見分調書)が作成される
人身事故として届け出ると、警察は詳細な現場検証を行います。これは「実況見分」と呼ばれ、その結果は「実況見分調書」という公的な書類にまとめられます。
事故現場の状況・ブレーキ痕・天候・見通しなどが客観的に記録されるため、後の示談交渉の際に重要な証拠となるでしょう。
とくに、どちらにどれだけの責任があるか(過失割合)を決める際に重要です。
物損事故ではこの調書が作成されない可能性が高いため、証拠が乏しくなる恐れがあります。
交通事故を人身事故扱いにする場合の加害者・被害者のデメリット
交通事故を人身事故扱いにすると、加害者・被害者の双方に大きな影響があります。
まず加害者側のデメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 刑事責任を問われる可能性がある
- 行政処分の対象となる
- 自動車保険の等級ダウンによる保険料の増加
警察による実況見分や検察への書類送検が行われ、罰金刑や免許停止・取消しなどのリスクが生じます。また、自動車保険の等級ダウンによる保険料の増加も避けられません。
一方、被害者側にも、以下のようなデメリットが存在します。
- 手続きが煩雑になる
- 通院や診断書提出などが負担になる
人身事故として届け出ると、警察の現場検証や医師の診断書提出などが必要となるうえ、通院や治療内容の証明に時間を要します。
損害賠償の交渉などの手続きを円滑に進めるためには、弁護士など専門家への相談が重要です。
人身事故の被害者が請求できる主な賠償項目
人身事故として扱われると、物損事故では認められない損害賠償も請求できます。代表的な賠償項目を理解し、請求漏れがないようにしましょう。
人身事故の被害者が請求できる賠償項目は、主に以下のとおりです。
以下、それぞれ具体的に解説します。
治療費
事故による怪我の治療にかかった実費全般を請求できます。治療費として請求可能な費用は、主に以下のとおりです。
- 病院での診察費
- 検査費(CT、MRIなど)
- 投薬費
- 入院費
- 手術費
- リハビリテーション費
- 整骨院・接骨院での施術費
ただ、保険会社が「医学的根拠が乏しい」「通院頻度が多すぎる」として支払いを渋るケースも少なくありません。
そのため、通院前に必ず医師に相談し、「整骨院での施術可」などの同意を診療記録や紹介状で残しておくことが重要です。
なお、治療費の支払い方法は、大きく分けて次の2パターン存在します。
- 加害者側の任意保険会社による「一括対応」
- 被害者が立て替えたうえで後日請求する方法(自賠責・健康保険併用など)
どちらの方法になるかは事故の状況や保険会社の対応によって異なります。
休業損害
事故による怪我の治療や入院のために、仕事を休まざるを得なくなった場合の減収分です。
これは、会社員や公務員だけでなく、自営業者やパート、アルバイトも対象です。
専業主婦(主夫)であっても、家事労働ができなかった分は休業損害として認められます。
休業損害の計算方法は、以下のとおりです。
1日あたりの基礎収入 × 休業日数
会社員であれば事故前3か月の給与から、自営業者であれば前年の確定申告書から基礎収入を算出します。



休業の必要性を証明するため、医師の診断書や会社の休業損害証明書が必要です。
慰謝料(入通院・後遺障害)
慰謝料とは、事故によって受けた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。物損事故では原則請求できないため、人身事故の大きな特徴ともいえるでしょう。
慰謝料は、主に以下の3種類に分類されます。
| 入通院慰謝料(傷害慰謝料) | 入院や通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する補償です。 基本的に、入通院の期間や日数に応じて金額が算定されます。 |
|---|---|
| 後遺障害慰謝料 | 治療を尽くしても完治せず、後遺障害が残った場合の精神的苦痛に対する補償です。 認定された後遺障害等級に応じて、金額の目安が定められています。 |
| 死亡慰謝料 | 被害者が死亡した場合に、被害者本人および遺族の精神的苦痛に対して支払われます。 |
慰謝料額は「入院・通院日数」「実際の治療期間」「治療の内容」などをもとに算定されます。その際、算定基準として次の3つが存在します。
- 自賠責基準:法的に最低限の補償額
- 任意保険基準:保険会社が独自に設定する金額で、自賠責よりやや高い水準
- 弁護士基準(裁判基準):裁判例に基づく最も高額な基準
同じ入通院期間でも、どの基準を用いるかによって支払われる金額は大きく異なる点に注意が必要です。



最も高額な弁護士基準(裁判基準)で計算したい場合は、弁護士に相談しましょう。
関連記事:交通事故の損害賠償額の決め方とは?交通事故の慰謝料の計算方法を弁護士が解説
逸失利益
逸失利益とは、もし交通事故に遭わなければ、将来得られるはずの収入や利益のことです。後遺障害が残り、以前のように働けなくなった(労働能力が低下した)場合に請求できます。
また、被害者が死亡した場合にも、将来得られたはずの収入として請求対象となります。
逸失利益の計算は非常に専門的です。被害者の基礎収入や年齢、労働能力の喪失率、将来働ける期間(就労可能年数)などを基に算出されます。
計算方法は、以下のとおりです。
後遺障害が残った場合の逸失利益:
逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
被害者が死亡した場合の逸失利益:
逸失利益 =(基礎収入 − 被害者本人の生活費)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
逸失利益の計算は一見シンプルに見えますが、実際には「どの基礎収入を採用するか」「どの等級が妥当か」「どの期間を認めるか」など、専門的な判断が必要です。
後遺症が残る恐れがある場合は、早期に専門医や弁護士へ相談し、適正な等級認定と損害額の算定を行いましょう。
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後から症状が出た場合は切り替えが可能!物損事故から人身事故にする手続き
すでに物損事故として届け出てしまった後でも、諦める必要はありません。
後から痛みが出てきた場合は、速やかに「人身事故」への切り替え手続きを行いましょう。事故から時間が経過するほど手続きは難しくなるため、迅速な行動が大切です。
ここからは、切り替えのための3つのステップを解説します。
ステップ1:病院で診断書を取得する
まず、痛みや違和感のある症状を診てもらうため、病院(整形外科など)を受診します。
医師には、いつ、どのような事故に遭ったかを正確に伝えましょう。
診察の結果、怪我が確認されれば「診断書」を発行してもらえます。診断書には、傷病名や治療にかかる期間などが記載されており、物損事故から人身事故へ切り替えるための証拠になります。
警察は、診断書なしでは切り替えを受理してくれないため、必ず受診して診断書を取得しましょう。
ステップ2:事故現場を管轄する警察署へ届け出る
発行してもらった診断書を持参し、事故現場の住所を管轄する警察署の交通課へ向かいます。窓口で「物損事故から人身事故への切り替えをお願いしたい」と申し出ましょう。
事故の当事者双方が揃って出頭するのが理想ですが、難しい場合はまず被害者だけでも訪問することが大切です。
人身事故への切り替えについて、法令上の明確な期限は定められていません。ただし、事故発生から時間が経過するほど、事故と傷害の因果関係を証明することが困難になり、警察が受理を渋る可能性が高まります。



そのため、診断書が発行されたら、できるだけ早く警察署へ行くことが重要です。
ステップ3:保険会社(自分・相手)に人身事故に切り替えた旨を連絡する
警察で人身事故への切り替え手続きが受理されたら、速やかに保険会社へ連絡します。相手方(加害者)の保険会社には、人身事故に切り替わった事実を伝えましょう。
これにより、治療費の支払いや慰謝料の交渉など、人身事故としての対応を正式に求めることが可能です。
同時に、自分が加入している保険会社にも報告を入れましょう。弁護士費用特約や人身傷害保険など、利用できる保険がないかを改めて確認するためです。
弁護士に相談すれば、適切に手続きができるようサポートしてくれます。人身事故への切り替え手続きに不安がある場合は、弁護士に相談することが大切です。
関連記事:交通事故で弁護士に依頼して後悔するケースは?よくある失敗例と対処法を徹底解説
交通事故の人身事故でよくあるトラブルとその対処法
人身事故の手続きや示談交渉は、スムーズに進むとは限りません。
加害者側や保険会社の対応によっては、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
以下、よくあるトラブルのパターンとその対処法を詳しく解説します。主なトラブルは、以下の5つです。
いざというとき冷静に対処するためにも、ぜひ参考にしてみてください。
加害者・保険会社と連絡が取れない
治療費の請求や交渉を進めたいのに、相手方の保険会社担当者と連絡が取れなくなるケースは少なからず存在します。
このような不誠実な対応には、まず内容証明郵便を送付し、交渉の意思を明確に伝えることが大切です。
また、加害者が任意保険に未加入で、本人とも連絡が取れない場合もあります。その際は、加害者の自賠責保険会社に対して直接賠償金を請求する「被害者請求」という手続きが可能です。



いずれにせよ、対応が難しいと感じたら弁護士への依頼を検討しましょう。
加害者が物損事故を選択したがる
事故直後、加害者が「警察を呼ばずに内密に」「物損事故で処理してほしい」と懇願してくるパターンも珍しくありません。
被害者がこれに応じてしまうと、治療費や慰謝料が一切補償されない最悪の事態も招きかねないため注意が必要です。
その場の同情や口約束をせず、「怪我をしているので人身事故として処理します」と、毅然とした態度で対応しましょう。
提示された過失割合に納得できない
示談交渉において、賠償金額を大きく左右するのが「過失割合」です。
加害者側の保険会社は、加害者の主張や過去の裁判例に基づき、被害者側にも一定の過失があったと主張してくることがあります。
提示された過失割合に納得できない場合は、その場で同意してはいけません。一度同意をすると、後から覆すことが難しくなります。
実況見分調書やドライブレコーダーの映像など、客観的な証拠に基づいて反論しましょう。ただ、過失割合の交渉は非常に専門的であり、法律知識のない個人が保険会社と対等に渡り合うのは困難です。



不利な過失割合を押し付けられそうな場合は、弁護士に相談することが大切です。
関連記事:交通事故の過失割合納得いかない!適正化を弁護士に任せるべき理由
保険会社が提示した慰謝料の金額が低い
治療が終わり、保険会社から示談金(慰謝料など)の提示額が送られてくることがあります。その金額が「思ったより低い」と感じる被害者は少なくありません。
それもそのはずで、慰謝料の算定基準は1つではないためです。
| 基準の種類 | 概要 |
|---|---|
| 自賠責基準 | 法律で定められた最低限の補償 |
| 任意保険基準 | 各保険会社が独自に設定(非公開) |
| 弁護士基準(裁判基準) | 過去の裁判例に基づく法的に適正な基準 |
保険会社が提示してくるのは、通常「任意保険基準」です。計算の基準は非公開な場合が多いうえ、最低額の自賠責基準に近い金額を提示されることも珍しくありません。
被害者が適正な補償を受けるには「弁護士基準」で請求する必要があります。弁護士に依頼し、弁護士基準での増額交渉を行ってもらいましょう。
以下の記事では、交通事故の慰謝料を増額する方法について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【弁護士監修】交通事故の慰謝料を増額する方法は?増額できるケースや注意点を解説
合意内容が曖昧なまま示談締結をして後悔する
保険会社の担当者から説明を受け、よく理解できないまま示談書(免責証書)に署名してしまうケースも少なくありません。
示談は一度成立すると、法的な拘束力を持ちます。原則として、後から「やっぱり痛みが再発した」「賠償金が少なかった」と主張しても、追加の請求は認められません。
示談書に署名する前に、必ず以下の点を確認しましょう。
- 賠償金の項目(治療費、慰謝料、休業損害など)に漏れはないか
- 金額は適正か
- 「後遺障害が発覚した場合は別途協議する」といった条項があるか



少しでも不明点があれば、サインする前に弁護士にリーガルチェックを依頼しましょう。
交通事故の人身事故に関するよくある質問
ここでは、人身事故の被害者が抱きがちな疑問について、Q&A形式で回答します。手続きの細かな点で不安を感じた際の参考にしてください。
警察から「人身事故への切り替えは難しい」と言われた場合の対処法は?
事故から日数が経過していると、警察が人身事故への切り替えに難色を示すことがあります。捜査の手間や、事故と怪我の因果関係の証明が難しくなるためです。
しかし、被害者が診断書を提出すれば、警察は原則として受理する義務があります。まずは諦めずに診断書を提出し、人身事故としての捜査を強く要請することが大切です。
それでも受理されない場合は、保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」を提出しましょう。人身事故の証明書がなくても、保険会社が人身事故として対応してくれる可能性があります。
人身事故に切り替えるまでの治療費は自費で立替が必要?
人身事故に切り替えるまでは、一時的に立て替える必要が生じる可能性はあります。
その際、病院の窓口では「健康保険」を使用することが大切です。その際、健康保険組合(協会けんぽ等)に「第三者行為による傷病届」を提出しましょう。
健康保険を使うメリットは、自由診療(10割負担)よりも治療費の単価が安くなることです。立て替えた治療費は、人身事故として認められれば、後で相手の保険会社に全額請求できます。
人身事故にすると自分の保険料も上がる?
自分の保険料が上がるかどうかは、事故の状況によります。
被害者に全く過失がない「10対0」の事故であれば、基本的に保険料は上がりません。加害者側の保険からのみ賠償を受けるためです。
ただし、以下のようなケースでは自分の保険料が上がる可能性があります。
- 自分にも過失がある事故で、自分の車両保険や人身傷害保険を使った場合
- 相手が無保険で、やむを得ず自分の保険を使った場合



なお、「弁護士費用特約」だけを使用した場合は、等級は下がらず保険料は上がりません。
まとめ|交通事故で怪我をした場合は、速やかに人身事故として届け出よう
交通事故で少しでも怪我をした場合、物損事故で済ませることには大きなリスクが伴います。適正な治療費や慰謝料が受け取れないだけでなく、後遺障害が残った際にも補償を請求できなくなる恐れがあるでしょう。
事故に遭ったら、必ず警察に連絡して病院で診断書をもらい、「人身事故」として届け出ることが大切です。
また、示談交渉や保険会社とのやり取りに不安を感じたり、提示された内容に納得がいかなかったりする場合は、一人で抱え込まないことも重要です。交通事故問題に精通した弁護士に相談し、適切な解決方法を教えてもらいましょう。
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