交通事故の慰謝料とは?計算方法や慰謝料相場・注意点を弁護士が徹底解説

「保険会社から提示された示談金、思ったよりも少なくて納得できない」
「早く終わらせたいけれど、この金額でサインして本当に後悔しないだろうか?」
交通事故に関する示談交渉は、治療や通院と並行する必要があるため、手続上の負担が大きくなりやすい分野です。
実は、交通事故の慰謝料には「3つの計算基準」が存在し、どの基準が用いられているかを知っているだけで、受け取れる金額が数百万円も変わることがあります。保険会社が最初に提示する金額は、過去の裁判例に基づく弁護士基準(裁判基準)よりも低額となるのが一般的です。
本記事では、交通事故の慰謝料の仕組みや相場、適正な金額を受け取るための交渉術を徹底解説します。
弁護士 佐々木一夫提示された金額が妥当かどうかを判断し、納得のいく解決をするためにも、ぜひ参考にしてみてください。
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交通事故で受け取れる「慰謝料」とは?基本情報を解説
交通事故の被害に遭った際、加害者側に請求できるお金にはいくつかの種類があり、その定義は法律で明確に区別されています。
多くの人が混同しやすい「慰謝料」「示談金」「損害賠償金」の違いを正しく理解することは、適正な補償を受けるための基礎です。
まずは言葉の定義と、それぞれの関係性について整理していきましょう。
慰謝料とは|精神的苦痛に対する損害賠償金
慰謝料とは、交通事故によって被害者が負った「精神的苦痛」を金銭的に償うために支払われる損害賠償金の一部です。怪我の治療費や車の修理代といった「財産的損害」とは異なり、目に見えない心の痛みに対して支払われます。
具体的には、事故による恐怖、入通院のストレス、後遺症が残ったことによる将来への悲観などが評価の対象となります。精神的な苦痛は数値化できないため、実務上は怪我の程度や通院期間、後遺障害等級などの客観的な指標に基づいて金額が算出される点が特徴です。
あくまで客観的な事実に基づいて算定されるため、「悲しみが深いから金額が上がる」という主観的な事情は考慮されにくいのが現実です。診断書や通院実績といった「事実の積み重ね」が、適正な金額を勝ち取るための唯一の根拠となります。
関連記事:もらい事故で慰謝料はいくらもらえる? 相場や計算方法、請求の流れを解説【弁護士監修】
慰謝料と示談金・損害賠償金の違い
「慰謝料」はあくまで賠償金の一部であり、全体像を表す「示談金」や「損害賠償金」とは範囲が異なります。
示談金とは、事故の解決のために当事者間の合意(示談)に基づいて支払われるお金の総額を指し、その中に慰謝料も含まれます。損害賠償金はさらに広い概念で、示談だけでなく裁判で認められる賠償金も含んだ総称です。
それぞれの用語の違いと関係性は、以下のとおりです。
| 用語 | 意味・定義 |
|---|---|
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する補償。損害賠償金の一部。 |
| 示談金 | 示談により合意した解決金の総額。慰謝料+治療費+休業損害など。 |
| 損害賠償金 | 加害者が支払うべき賠償金の総称。治療費や逸失利益なども含む。 |



慰謝料は「示談金」を構成する重要な要素の一つであると認識しておきましょう。
示談金として保険会社から提示された総額が高く見えても、治療費などが多く含まれているだけで、慰謝料部分が不当に低いケースも少なくありません。「合計金額」だけで判断せず、内訳にある「慰謝料」の項目が適正かどうかを必ずチェックすることが大切です。
交通事故で受け取れる慰謝料の種類
交通事故の慰謝料は、被害者が受けた損害の内容に応じて大きく3つの種類に分類されます。
すべての事故で3種類すべてが受け取れるわけではなく、怪我の程度や結果(完治、後遺症、死亡)によって請求できる項目が決まります。
自身の状況がどの慰謝料の対象になるのか、以下の分類で確認してみてください。
関連記事:交通事故の慰謝料はどうやって計算する?弁護士基準の相場と通院期間ごとの早見表【弁護士監修】
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、事故で怪我を負い、病院へ入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛への対価です。骨折や打撲はもちろん、むちうちなどの目に見えにくい怪我であっても、医師の診断を受け治療を行っていれば請求対象となります。
金額は「入院・通院の期間」や「実通院日数」を基礎として計算されるのが一般的です。怪我が完治する、または症状固定(治療を続けてもこれ以上良くならない状態)と診断されるまでの期間が対象となります。
受診していない期間や、自己判断で治療を中断した期間は認められないため注意が必要です。また、通院期間が長くても、実際の通院日数が極端に少ない場合は、減額の対象となることがあります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、治療を尽くしても身体に障害が残り、「後遺障害等級」として認定された場合に支払われる慰謝料です。単に「痛みが残っている」だけでは請求できず、専門機関による審査を経て等級(1級〜14級)が認定される必要があります。
認定される等級によって慰謝料の額は大きく異なり、最も重い1級では数千万円規模になる一方、最も軽い14級では百万円程度となります。適正な賠償額を受け取るためには、適正な等級認定を受けることが重要です。



医師が書く後遺障害診断書の内容によって結果が変わるため、作成時には弁護士のアドバイスを受けましょう。
関連記事:後遺障害等級認定とは?手続きの流れ・適切な等級獲得のポイントを弁護士が解説
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者が交通事故によって死亡した場合に、本人および遺族が被った精神的苦痛に対して支払われるものです。被害者本人の無念さはもちろん、近親者(配偶者、子、父母など)が大切な家族を失った悲しみも補償の対象となります。
金額の算定においては、被害者が一家の支柱(主たる稼ぎ手)であったか、独身であったか、高齢者であったかなど、家庭内での役割が考慮されます。
なお、即死ではなく、事故から死亡までの間に激しい苦痛があった場合は、その期間の傷害慰謝料も別途請求可能です。
交通事故の慰謝料額を決める「3つの基準」
交通事故の慰謝料計算には以下の3つの異なる基準が存在します。
どの基準を用いて計算するかによって、最終的に手元に残る金額には大きな差が生じます。それぞれの特徴を理解し、適切な金額を受け取りましょう。
自賠責保険基準|最低限の補償
自賠責保険基準は、すべての自動車保有者に加入が義務付けられている「自賠責保険」に基づく計算基準です。この保険の目的は被害者の「最低限の救済」にあるため、3つの基準の中で最も低い金額設定となっています。
自賠責保険基準はあくまで国が定めた最低ラインの補償であり、十分な被害回復を目的とした金額ではありません。傷害部分の支払限度額は被害者1名につき120万円と定められており、この限度額には治療関係費(治療費、通院交通費等)や休業損害、慰謝料のすべてが含まれます。
これを超える部分については、自賠責保険からは支払われず、加害者の任意保険または加害者本人への請求となります。
加害者が任意保険に加入していない場合や、補償を急ぐ場合に利用されることがありますが、金額面では不十分なケースが大半です。
任意保険基準|保険会社独自の提示額
任意保険基準は、各保険会社が独自に定めている内部的な支払い基準のことで、非公開となっているのが一般的です。自賠責基準よりは多少高く設定されていますが、あくまで保険会社の支出を抑えるための「営利企業の基準」といえます。
被害者が弁護士をつけずに個人で交渉する場合、保険会社はこの基準で算出された金額(示談金)を提示してきます。これを「相場」だと信じてサインしてしまうと、本来受け取れるはずの適正額よりも大幅に低い金額で解決することになるため注意が必要です。



法的根拠のある上限額ではないため、交渉次第で増額させる余地は十分にあります。
弁護士基準(裁判基準)|過去の裁判例に基づく適正額
弁護士基準(裁判基準)は、過去の裁判例に基づいて算出された、法的に適正と認められる賠償額の基準です。この基準は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」に記載されており、実務上広く参照されています。
3つの基準の中で最も金額が高く、自賠責基準や任意保険基準の2倍になることも珍しくありません。
本来、被害者が受け取るべき正当な金額はこの「弁護士基準」ですが、弁護士が介入しない限り保険会社がこの基準を提示することはまずありません。弁護士が代理人となることで、保険会社も「裁判になれば負ける」と判断し、この基準に近い金額での示談に応じるようになります。
「弁護士に依頼すると費用倒れになるのでは」と心配される方もいますが、事案によっては増額幅が弁護士費用を上回り、手元に残る金額が増える場合があります。



弁護士費用特約が利用できる場合は、費用負担なく依頼することも可能です。具体的な見通しについては、個別に弁護士へご相談ください。
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【早見表】慰謝料の計算方法と相場|自賠責基準・弁護士基準で比較
ここでは、実際に慰謝料がどの程度の金額になるのか、最も低い「自賠責基準」と最も高い「弁護士基準」を比較して解説します。
比較する慰謝料は、以下の3つです。
同じ事故、同じ怪我であっても、計算基準が違うだけで差が出ることを数字で確認しましょう。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料は、通院期間や入院期間の長さに応じて算出されます。
自賠責基準では、令和2年4月1日以降に発生した事故については日額4,300円という固定単価で計算されます(それ以前の事故は日額4,200円)が、弁護士基準では期間に応じた算定表を用います。
むちうちで通院3か月(実通院数30日)の場合、慰謝料相場は以下のとおりです。
| 基準 | 計算式・概要 | 相場(目安) |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 4,300円×対象日数(実通院数×2と治療期間の少ない方) | 約25.8万円 |
| 弁護士基準 | 軽傷(むちうち等)の算定表に基づく | 約53万円 |
このように、むちうちの3か月通院というよくあるケースでも、基準が違うだけで約2倍の差が生じます。
骨折などの重傷で入院が必要なケースでは、この差はさらに数百万円単位で開くことになります。
出典:国土交通省|自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料は、認定された等級(1〜14級)に応じた基準額が定められています。等級ごとの金額差が大きく、また基準による差も顕著に現れるのが特徴です。
後遺障害慰謝料の相場は、以下のとおりです。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 要介護1級 | 1,650万円 | 2,800万円を超える事例あり |
| 要介護2級 | 1,203万円 | 2,370万円を超える事例あり |
| 第1級 | 1,150万円 | 2,800万円 |
| 第2級 | 998万円 | 2,370万円 |
| 第3級 | 861万円 | 1,990万円 |
| 第4級 | 737万円 | 1,670万円 |
| 第5級 | 618万円 | 1,400万円 |
| 第6級 | 512万円 | 1,180万円 |
| 第7級 | 419万円 | 1,000万円 |
| 第8級 | 331万円 | 830万円 |
| 第9級 | 249万円 | 690万円 |
| 第10級 | 190万円 | 550万円 |
| 第11級 | 136万円 | 420万円 |
| 第12級 | 94万円 | 290万円 |
| 第13級 | 57万円 | 180万円 |
| 第14級 | 32万円 | 110万円 |
出典:国土交通省|自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
最も認定数が多い「14級」であっても、弁護士基準であれば自賠責基準の3倍以上の金額が認められます。後遺障害が残った場合は、弁護士基準での請求が不可欠といえるでしょう。
また、等級が1つ違うだけで数百万円の差が出るため、認定結果に納得がいかない場合は「異議申し立て」を行いましょう。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、被害者の家庭内での立場によって金額が変動します。自賠責基準では遺族の人数などで画一的に決まりますが、弁護士基準では被害者の役割(一家の支柱など)が重視されます。
死亡慰謝料の相場は、以下のとおりです。
| 被害者の属性 | 自賠責基準(遺族1人の場合) | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 一家の支柱 | 950万円※ | 2,800万円 |
| 母親・配偶者 | 950万円※ | 2,500万円 |
| 独身・子供など | 950万円※ | 2,000万円〜2,500万円 |
※弁護士基準は、書籍『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準|(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部編集』から引用。上記基準額は遺族分も含めた死亡慰謝料総額の目安。
※出典:国土交通省|自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
死亡事故という取り返しのつかない事態において、残された遺族の生活を守るためにも、弁護士基準による適正な賠償請求が重要です。
関連記事:交通事故で死亡した場合の慰謝料は? 子どもや高齢者の死亡事故とその慰謝料相場について
相場よりも慰謝料が増額されるケース
上記の相場はあくまで目安であり、事故の態様や被害者の事情によっては、さらに増額が認められるケースがあります。
以下、それぞれ具体的に解説します。どのような場合に増額の可能性があるのかを知っておきましょう。
関連記事:【弁護士監修】交通事故の慰謝料を増額する方法は?増額できるケースや注意点を解説
加害者の態度が悪質(ひき逃げ・飲酒運転など)な場合
事故の原因が加害者の故意や重過失にある場合、慰謝料の増額事由として考慮されます。具体的な項目は、以下のとおりです。
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 著しいスピード違反
また、事故後の対応が極めて不誠実である場合(謝罪がない、証拠隠滅を図ったなど)も評価の対象となり得ます。ただし、単に「態度が気に入らない」という主観的な理由だけでは認められず、客観的な事実が必要です。
増額の程度は事案ごとに異なり、一律の基準は存在しません。具体的な増額可能性については、個別の事実関係に基づく専門的判断が必要です。
被害者の精神的苦痛が甚大な場合(流産・精神疾患など)
事故の衝撃やストレスにより、身体的な怪我以上の特別な被害が生じた場合も増額の対象です。妊娠中の女性が事故により流産・中絶を余儀なくされた場合などは、その深い悲しみに対して別途慰謝料が考慮されます。
また、事故の恐怖からPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患を発症した場合も同様です。これらを認めてもらうには、精神科医の診断書や、生活への具体的な影響を記した陳述書などが重要になります。
たとえば、将来を嘱望されたスポーツ選手が後遺症で夢を絶たれた場合なども、逸失利益とは別に慰謝料で調整されることがあります。



「特別な事情」は自ら主張しなければ保険会社は考慮してくれないため、弁護士を通じて積極的に訴えていく姿勢が大切です。
交通事故の慰謝料が減らされる?「過失割合」による過失相殺とは
被害者であっても、事故の発生に何らかの原因を作ったと判断されれば、その分だけ慰謝料が減らされることがあります。これを「過失相殺」と呼び、最終的な受取額に大きく影響する重要な要素です。
ここでは、過失割合の仕組みと、納得できない場合の対処法について解説します。
過失割合とは|事故の責任の割合
過失割合とは、発生した交通事故に対する責任の重さを、当事者双方に数値(%)で割り振ったものです。「赤信号を無視した」「前方不注意があった」などの違反行為や不注意の度合いによって決定されます。
過失割合は、警察ではなく、当事者間の協議または裁判所の判断により決定されます。警察は事故状況を記録した実況見分調書等を作成しますが、これは刑事手続のための資料であり、民事上の過失割合を決定する権限はありません。
一般的に保険会社が過失割合を提示してきますが、保険会社が提示する割合はあくまで彼らの主張であり、絶対的な決定事項ではありません。
そのため、保険会社の言い分を鵜呑みにせず、ご自身でも事故状況と照らし合わせて妥当性を検証することが大切です。
関連記事:交通事故の過失割合を徹底解説|ケース別の相場と納得できない時の対処法
被害者にも過失があると慰謝料は減額される
被害者に過失割合がつくと、その割合分だけ損害賠償金の総額から差し引かれます(過失相殺)。たとえ重傷を負っていても、自分に責任があれば、その分は自己負担となるのが原則です。
ここでは、損害総額が1,000万円の場合の具体的な計算例を見てみましょう。
| 過失割合 | 計算式 | 最終的な受取額 | 減額される金額 |
|---|---|---|---|
| 10対0 | 1,000万円×100% | 1,000万円 | 0円 |
| 9対1 | 1,000万円×90% | 900万円 | 100万円 |
| 8対2 | 1,000万円×80% | 800万円 | 200万円 |
わずか1割の過失であっても、損害額が大きい場合は数百万円単位で受取額が減ってしまうことがあります。そのため、提示された過失割合が適正かどうかを見極めることは非常に重要です。
また、過失相殺は慰謝料だけでなく、治療費や休業損害を含めた全体の賠償金に対して適用されます。過失割合が大きい場合、相手方の修理費等を逆に支払わなければならない「逆転現象」が起きることもあるため注意が必要です。
過失割合に納得できない場合の対処法
保険会社から提示された過失割合に納得できない場合、安易に合意してはいけません。
一度合意してしまうと、後から覆すことは極めて困難だからです。修正を求めるには、客観的な証拠を集めて反論する必要があります。
具体的な証拠としては、以下のようなものが有効です。
- ドライブレコーダーの映像
- 防犯カメラの映像
- 目撃者の証言
- 実況見分調書(警察で作成される書類)
個人の力で保険会社の主張を覆すのは難しいため、弁護士に依頼し、法的な観点から正しい割合を主張してもらうのが確実です。保険会社は基本となる類型(判例タイムズなど)を機械的に当てはめてくることが多いですが、実際の事故には「修正要素」が存在します。
「夜間で見通しが悪かった」「相手が合図を出さなかった」などの修正要素を積み上げることで、有利な割合に変更できる可能性があるでしょう。
関連記事:交通事故の過失割合納得いかない!適正化を弁護士に任せるべき理由
もらい事故(過失割合10対0)の場合の注意点
信号待ちでの追突など、被害者に全く非がない「10対0」の事故(もらい事故)では、特有の注意点があります。「被害者側の保険会社が示談交渉を代行できない」という点です。
法律上、保険会社は「自社の支払責任がない(被害者に過失がない)」事故の交渉に介入することが禁じられています。保険会社が自社の保険金支払義務を負わない事案において報酬目的で示談交渉を行うことが、弁護士法第72条に抵触するためです。
そのため、被害者は以下のいずれかの方法で対応しなければなりません。
- 自分一人で加害者側の保険会社と交渉する
- 弁護士に依頼して交渉を任せる
プロである相手方の保険担当者と対等に渡り合うのは精神的にも大きな負担となるため、弁護士への依頼を推奨します。この場合、「弁護士費用特約」を利用すれば、経済的な負担なく弁護士を雇うことが可能です。
もっとも被害者に有利なはずの「もらい事故」こそ、プロの助けがないと不利な示談を強いられるリスクが高いことを覚えておきましょう。
【ステップで解説】交通事故発生から慰謝料を受け取るまでの流れ
交通事故に遭ってから解決するまでには、一定の手順と時間がかかります。全体像を把握しておくことで、今やるべきことや次に来る手続きが見え、不安を軽減できるはずです。一般的な人身事故の解決フローを整理しました。
| 段階 | やるべきこと・内容 |
|---|---|
| ステップ1:事故発生 | 車両の停止・けが人の救護・安全確保・警察への届け出、加害者の情報確認、保険会社への連絡 |
| ステップ2:治療・通院 | 完治または症状固定(これ以上良くならない状態)まで治療を継続 |
| ステップ3:症状固定 | 医師から「症状固定」の診断を受ける。後遺症がなければ示談へ |
| ステップ4:後遺障害等級認定 | 後遺症が残った場合、等級認定の申請を行う |
| ステップ5:示談交渉 | 最終的な損害賠償額(慰謝料など)について交渉する |
| ステップ6:示談成立・入金 | 合意書にサインし、約2週間程度で賠償金が振り込まれる |
重要な点は、ステップ2の治療期間中に適切な頻度で通院し、証拠を残しておくことです。治療の実績がなければ、適正な慰謝料を受け取ることはできません。
また、ステップ5の示談交渉は、原則として治療がすべて終了し、損害額が確定してから開始されます。治療中にお金が必要な場合は、「内払い」や「仮渡金」という制度を利用して、当面の生活費を確保することも可能です。
交通事故の慰謝料に税金はかかる?確定申告が必要なケース・不要なケース
交通事故の慰謝料には原則として所得税などの税金はかかりません。これは、慰謝料が「利益」ではなく、精神的苦痛というマイナスをゼロに戻すための「損害賠償金(非課税所得)」として扱われるためです。
したがって、会社員であっても個人事業主であっても、慰謝料を受け取ったことによる確定申告は基本的に不要です。
ただ、社会通念上、不当に高額すぎる慰謝料や、自営業者が「商品の損害」に対する賠償を受け取った場合(事業所得扱い)などは、税金がかかる可能性があります。
個々のケースによって異なる場合があるため、国税庁のタックスアンサーや税務署に相談して確認してみてください。
正当な慰謝料を受け取るための注意点
慰謝料請求において「知らなかった」では済まされない落とし穴がいくつか存在します。適切な行動を取らなかったばかりに、数百万円も損をしてしまうケースは後を絶ちません。
被害者が注意すべき点は、以下の5つです。
以下、それぞれ具体的に解説します。
自覚症状が軽くても必ず受診する
事故直後は興奮状態で痛みを感じにくいことがありますが、数日後に痛みが出るケースは非常によくあります。「大したことない」と判断せず、事故当日から翌日には必ず整形外科を受診しましょう。
事故から受診までに期間が空くと、「事故と怪我の因果関係がない」と判断され、慰謝料が支払われない可能性があります。
また、医師による診断書がなければ、後の慰謝料請求において致命的な不利を招きます。整骨院や接骨院に通いたい場合でも、まずは必ず整形外科(医師)の診断を受けることが大切です。
自己判断で治療を中断せず、医師の指示通りに通院する
仕事や家事が忙しいからといって通院をサボったり、自分の判断で治療をやめてはいけません。通院期間や頻度が少ないと、「怪我は大したことがない」「もう治った」とみなされ、慰謝料が減額されたり、怪我と事故との因果関係が否定されたりすることがあります。
医師が「治療終了」と言うまでは、定期的に通院を続けましょう。とくに、1か月以上通院が空いてしまうと、その時点で「治癒した」と判断され、それ以降の治療費が支払われなくなる可能性が高いです。



リハビリのみの通院であっても、継続して実績を作っておくことが大切です。
安易に示談書にサインせず、「弁護士基準」で交渉する
保険会社から送られてくる「免責証書(示談書)」に一度サインをしてしまうと、原則としてやり直しはできません。
示談書には通常「清算条項」が含まれており、これに署名すると「今後一切の請求を放棄する」という法的な効力を持ちます。事実を覆せるだけの客観的証拠がなければ追加請求ができなくなるため、内容は慎重に確認しましょう。
提示された金額は、最低ラインである「自賠責基準」や「任意保険基準」で計算されていることが大半です。サインする前に、その金額が「弁護士基準」と比べてどれくらい低いかを確認し、増額交渉を行う余地があるか検討しましょう。
「弁護士費用特約」の加入有無を確認する
自身の自動車保険や火災保険に「弁護士費用特約」が付帯しているかの確認も重要です。
弁護士費用特約が付帯されている場合、多くの契約では弁護士への相談料(上限10万円程度)や依頼費用(上限300万円程度)が補償されます。ただし、具体的な補償内容・限度額は保険契約により異なるため、自身の保険証券または約款をご確認ください。
弁護士費用特約を使用すれば、実質0円で弁護士に依頼できるうえ、使っても翌年の保険料等級には影響しません。家族の保険に付いている特約が使えるケースもあるため、約款を隅々までチェックすることをおすすめします。



「自分は被害者だから保険は関係ない」と思わず、まずはご自身の保険証券を確認してみてください。
関連記事:交通事故で弁護士特約は使った方がいい?トラブルで利用できる「弁護士費用特約」についてわかりやすく解説
不安なことがあればすぐに弁護士に相談する
治療の打ち切りを打診されたり、過失割合で揉めたりした際は、すぐに専門家の意見を聞きましょう。対応が遅れると証拠が散逸したり、不利な状況が固定化してしまったりします。
「症状固定」の前段階で相談することで、有利な後遺障害認定を受けるための方法など、具体的なアドバイスを受けられます。トラブルが起きてからではなく、トラブルを未然に防ぐために弁護士を活用するのが賢い方法です。



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交通事故の慰謝料に関するよくある質問
加害者が任意保険に加入していない場合の対処法は?
加害者が無保険(任意保険未加入)の場合でも、自賠責保険の範囲内(傷害120万円まで)であれば請求可能です。自賠責の限度額を超える損害については、加害者本人に直接請求することになります。
ただし、加害者に支払い能力がない場合は回収が困難になるため、「自身の保険の人身傷害補償特約」を使うなど、自己防衛策の検討が必要です。
万が一、自賠責にも入っていない場合は、政府が被害者を救済する「政府保障事業」に請求する手段があります。
いずれにせよ回収の手間とリスクが高まるため、早急に弁護士に相談し、加害者の資産調査などを検討しましょう。
物損事故でも慰謝料は発生する?
原則として、車が壊れただけの「物損事故」で慰謝料は発生しません。物は修理や買替によって損害が回復できると考えられており、精神的苦痛は認められないためです。
ただし、ペットが死傷した場合など、例外的に慰謝料が認められるケースもごく稀に存在します。また、当初は物損事故として届け出ていても、後に身体の痛みが出た場合は「人身事故」へ切り替えることで慰謝料請求が可能になります。
いずれにせよ、物損事故扱いのままでは自身の治療費や慰謝料は切請求しにくいため、必ず警察で手続きを行うようにしましょう。
慰謝料請求に期限(時効)はある?
損害賠償請求権には、消滅時効があります。主な期限(時効)は、以下のとおりです。
民法第724条:
- 被害者が損害及び加害者を知った時から3年間※
- 不法行為時から20年間
※人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については5年(民法第724条の二)
引用:e-Gov法令検索|民法
この期間を過ぎると請求権が消滅するため、時効が迫っている場合は内容証明郵便を送るなどして時効の完成を猶予させる必要があります。
時効の管理は複雑なため、治療が長引いている場合はとくに注意し、期限ギリギリにならないよう手続きを進めましょう。
むちうちの場合の入通院慰謝料の相場は?
むちうちの場合、弁護士基準での入通院慰謝料の相場は以下のとおりです(他覚所見がない一般的なむちうちの場合)。
- 通院3か月:約53万円
- 通院6か月:約89万円
これに対し、自賠責基準や任意保険基準では半額以下になることもあります。むちうちは軽く見られがちですが、立派な傷害ですので、適正な補償を求めるべきです。
MRI画像などで神経圧迫といった他覚的所見が証明できれば、「軽傷」ではなく「重傷」の基準が適用され、さらに金額が上がります。
「たかがむちうち」と遠慮せず、詳細な検査を受けて証拠を残すことが大切です。
専業主婦や学生・子供でも慰謝料は請求できる?
専業主婦や学生・子供でも慰謝料は請求可能です。慰謝料は精神的苦痛に対する補償なので、職業や年齢に関係なく発生します。
専業主婦(主夫)の休業損害については、厚生労働省『賃金構造基本統計調査』(賃金センサス)の女性労働者全年齢平均賃金を基礎として算定することが可能です。
学生の場合も、事故によって留年したり就職が遅れたりした場合は、その損害を含めて請求できる可能性があります。
「働いていないから請求できない」と諦めるのではなく、主婦や学生の方もしっかりと権利を主張しましょう。
まとめ|交通事故の慰謝料を適切に受け取るためにも、まずは弁護士に相談しよう
交通事故の慰謝料には3つの計算基準があり、保険会社の提示額を鵜呑みにすると損をする可能性が高いことを解説しました。
事故後の対応は精神的にも大きな負担となりますが、適切な知識と専門家のサポートがあれば、納得のいく解決に近づけます。「自分のケースではいくら増額できるのか」を知るだけでも大きなアドバンテージとなるでしょう。
ただ、交通事故の慰謝料はさまざまな要因が複雑に絡み合って計算されるため、知識がなければ正確な金額を割り出すのは困難です。自身のケースで具体的な慰謝料を知りたい場合は、交通事故に強い弁護士に相談してみましょう。
交通事故の慰謝料がどれくらいになるか知りたい方は、一度弁護士法人アクロピースにご相談ください。
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