生前にもらったお金は相続税・贈与税の対象?計算方法や特別受益について解説

親に相続税の節税のためと言われて生前贈与を受けたものの、本当に相続税を抑えることができるのか疑問に思うこともあるでしょう。

生前贈与を受けたタイミングや金額、被相続人が存命かどうかによって、相続税や贈与税の有無や金額が異なります。

本記事では、生前にもらったお金に対する税金の扱いや計算方法、知っておきたい特別受益について詳しく解説します。

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目次

生前にお金をもらったお金には相続税か贈与税がかかる場合がある

遺産相続


生前にもらったお金には、相続税か贈与税がかかる場合があります。

生前に、被相続人から財産を受け取ることを生前贈与といいます(民法549条)。

以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 生前贈与では、1月1日~12月31日までに110万円を超える贈与を受けた場合に贈与税がかかる(相続税法21条の5、租税特別措置法第七十条の二の四)
  • 110万円の範囲内であっても、生前贈与を受けた場合には、将来的に相続税が発生する可能性がある
  • 生前贈与でもらったお金が特別受益にあたる場合も、受け取った時期によっては相続税がかかる

このように、生前にもらったお金に対し、相続税や贈与税がかかる可能性があります。

生前贈与加算によって相続税がかかる場合がある

お金 計算


生前贈与加算とは、被相続人が亡くなる7年前までに被相続人から暦年課税で生前贈与を受けた場合に、その贈与財産を相続財産に持ち戻して計算する制度のことです相続税法19条)。

生前贈与加算によって、暦年課税による生前贈与財産を、相続財産に持ち戻しするのは、法定相続人や受遺者のみです。

なお、暦年課税は相続時精算課税と並ぶ贈与税の課税方式のことです。

年間110万円までの贈与が非課税となり、相続税もかかりません。

一方、相続時精算課税は贈与者1人につき2,500万円までが非課税で、令和6年1月1日以降の贈与には年110万円の基礎控除もありますが、相続税が別途かかります。

相続時精算課税は、贈与する年度の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母が贈与者で、受贈者は贈与された年度の1月1日時点で20歳以上の子または孫であることが条件です(相続税法21条の9)。

生前贈与加算の対象や計算方法について、詳しく見ていきましょう。

生前贈与で相続税の対象となるのは7年以内のもの

生前贈与で相続税の対象となるのは、被相続人が亡くなった日の7年前までに贈与された資産です。

令和5年度税制改正によって、相続税の対象となる贈与の加算対象期間が相続開始日より3年以内から7年以内と延長されました。

また、延長される4年間(相続開始前3年から7年以内の期間)に受けた贈与については、総額100万円まで相続財産に加算しない措置が設けられます。

ただし、経過措置があり、贈与者の相続開始日が令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間であれば、生前贈与加算の対象期間は相続開始日前3年間と変わりません。

そのため、実際の加算期間の延長は、令和9年1月1日以降の相続から生じることとなり、加算期間が7年となるのは、令和13年1月1日以降の相続となります。

生前贈与加算の計算方法

生前贈与加算の際は、贈与を受けた資産の額を正確に把握する必要があります。

ここで問題となるのが、有価証券や不動産のような評価額が変動する資産を贈与した場合です。

生前贈与加算においては「贈与を受けた時点での評価額」をもとに計算します。

被相続人が亡くなった時点ではないことに注意しましょう。

たとえば、贈与を受けた時点で5,000万円の価値がある株式の贈与を受けた場合、現時点で4,000万円まで価値が落ちていたとしても、5,000万円が生前贈与加算の対象です。

生前贈与加算の対象外となる財産

生前贈与加算は、次の財産は対象外です。

名称意味
相続時精算課税制度累計2,500万円の控除と令和6年1月1日以降の贈与では年110万円の基礎控除を受けることができる
贈与税の配偶者控除婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金の贈与を行った場合に、2,000万円までが非課税になる
住宅取得等資金の贈与の非課税額住宅を取得するための資金を父母や祖父母から一括で贈与を受けた場合、1,000万円まで非課税となる(令和8年12月31日まで)
教育資金の一括贈与の非課税額父母や祖父母から教育資金を一括で贈与を受けた場合に、1,500万円まで非課税となる(令和8年3月31日まで)
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税額父母や祖父母から結婚・子育ての資金を一括で贈与を受けた場合に、1,000万円まで贈与税が非課税となる(令和7年3月31日まで)
贈与税の非課税財産扶養義務者の間での生活費や教育費の贈与
離婚に伴う財産分与
法人から贈与された財産
公益事業用の財産 など

上記、いずれも要件を満たした場合にのみ利用できる制度です。

生前にもらったお金は特別受益となる可能性がある

贈与


特別受益とは、相続人が被相続人の生前に贈与や遺贈、死因贈与などによって受け取った財産のことです(民法903条)。

生前に特定の相続人が財産を受け取ると、他の相続人との間で不公平が生じるため、要件を満たした財産については特別受益として相続財産に加算します。

特別受益には時効がないため、数十年前にもらったお金も持ち戻す必要があります。

2023年4月1日の民法改正により、被相続人が死亡(相続開始)してから10年が経過すると、原則として、特別受益の主張ができなくなり、法定相続分を基準とした遺産分割しかできなくなります(民法904条の3)。

また、相続人が最低限取得できる財産である「遺留分」における遺留分侵害額請求をする際、10年以上前の贈与は基礎財産に加算できません。

つまり、遺産分割協議をする場合には特別受益に時効はありませんが、遺留分の計算には10年間の期限があります。

特別受益の対象となる場合・ならない場合

特別受益の対象となる場合(なる可能性がある場合)とならない場合は以下のとおりです。

なる場合(なる可能性がある場合)ならない場合
婚姻または養子縁組のための贈与生命保険金・死亡退職金※例外に注意
扶養の範囲を超える生活費の贈与遺言で特別受益の持ち戻し免除を意思表示されている財産
住宅購入のための贈与婚姻期間20年以上の配偶者への居住不動産の贈与
借金を肩代わりするための贈与
家業を継ぐ子への事業用資産の贈与

特別受益の対象となる場合(なる可能性がある生前贈与)・ならない場合の例を紹介します。

【対象】婚姻または養子縁組のための贈与

婚姻や養子縁組のための生前贈与は特別受益に該当する場合があります。

少額の贈与や一般的な婚姻費用は扶養範囲内とされ、特別受益とは見なされないことが一般的です。

養子縁組においても同様で、実親が多額の持参金を持たせるような場合は特別受益にあたる可能性があります。

【対象】扶養の範囲を超える生活費の贈与

子供に扶養の範囲内とみなされる額の贈与は、特別受益にはなりません。

しかし、扶養の範囲を超えるとみなされるほどに多額を贈与した場合は、特別受益とみなされる可能性があります。

現金だけではなく、ジュエリーや車、不動産、株式なども対象です。

【対象】相続人への遺贈

遺贈とは、遺言書で特定の人物への贈与を指定することです。

原則的に全額が特別受益になります。

【対象】住宅購入のための贈与

同居していない子供の住宅購入のための資金を贈与した場合、特別受益に該当する可能性があります。

【対象】借金を肩代わりするための贈与

相続人の借金を被相続人が肩代わりする際にかかった費用は、特別受益に該当する可能性があります。

ただし、金額や特段の事情に応じて異なります。

【対象】家業を継ぐ子への事業用資産の贈与

被相続人が経営者で、家業を継ぐ子供に株式や事業用の不動産などを贈与した場合、特別受益に該当する可能性があります。

【対象外】生命保険金・死亡退職金

生命保険金や死亡退職金は被相続人を介さずに受取人に渡されるため、特別受益にはなりません。

ただし、受取人である相続人とそのほかの相続人との間で、特別受益の趣旨に照らして到底是認できないほどの不公平が生じた場合には、例外的に特別受益に該当する可能性があります。

【対象外】遺言で特別受益の持ち戻し免除の意思表示をされている場合

特別受益に該当する贈与や遺贈があったとしても、被相続人が遺言書で「特別受益の持ち戻しを免除する」と意思表示した場合は、持ち戻しできなくなります(民法903条3)。

【対象外】婚姻期間20年以上の配偶者への居住不動産の贈与

婚姻期間が20年以上の夫婦のいずれかに対し、居住用不動産を贈与や遺贈した場合、遺言書で持ち戻し免除の意思表示をしていなくとも、意思表示をしたと推定されます(民法903条4)。

特別受益の判断のポイント

特別受益の判断には、被相続人の収入や財産額、相続人との関係、相続人同士の不公平の有無と程度など、さまざまな要因が関与します。

そのため、特別受益にあたるかどうかは、その内容を踏まえて個別に判断する必要があります。

特別受益になるかどうかを考える際は、相続に詳しい弁護士のサポートを受けることが大切です。

特別受益者がいる場合の具体的相続分の計算方法

特別受益者がいる場合の、それぞれの相続分は、以下のように算出します。

  • 特別受益がある相続人……(相続財産+特別受益分)×法定相続分-特別受益分(贈与額や遺贈額)
  • 特別受益がない相続人……(相続財産+特別受益分)×法定相続分

法定相続分は、以下のとおりです(民法900条)。

  • 配偶者(2分の1)と子(2分の1)
  • 配偶者(3分の2)と直系尊属(3分の1)
  • 配偶者(4分の3)と兄弟姉妹(4分の1)

たとえば、配偶者と子1人が相続人で、相続財産が8,000万円、子が受けた特別受益分が1,000万円とします。

この場合、相続財産8,000万円+特別受益分1,000万円で9,000万円となり、配偶者は2分の1にあたる4,500万円を受け取ります。

一方、特別受益を受けた子は、2分の1の4,500万円から1,000万円を差し引いた3,500万円を相続します。

特別受益がある場合の計算方法や計算例について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:3分で理解できる!特別受益の計算方法・計算例をわかりやすく解説

特別受益による相続財産に持ち戻す流れ

特別受益を相続財産に持ち戻す際は、次の流れで対応します。

  1. 特別受益の証拠を集める
  2. 遺産分割協議で主張する
  3. 合意しなかった場合は調停や審判へ進む

特別受益があったことを示す証拠を集めます。

預貯金通帳や口座の取引履歴、不動産の登記簿や契約書などが挙げられます。

ただし、特別受益を受けた人物が証拠がなくても認めた場合、証拠は不要です。

しかしながら、実際よりも多額や少額の可能性もあるため、なるべく証拠は集めておいた方がよいでしょう。

遺産分割協議で特別受益を主張し、話し合いで合意が得られれば、特別受益分を考慮して遺産分割を進めます。

話し合いがまとまらない場合は、裁判所に遺産分割調停の申立てを行います。

調停では調停委員が話し合いを進め、合意が得られれば調停成立となりますが、合意が得られない場合は審判に移行し、裁判所が最終的な判断を下します。

まとめ

生前贈与


生前にもらったお金は、特別受益に該当する可能性があります。

特別受益に該当するかどうかは、金額や被相続人の収入、特別受益を受けた相続人と他の相続人との相続のバランスなど、さまざまな要因が関与します。

  • 生前贈与で相続税の対象となるのは、被相続人が亡くなった日の7年前までに贈与された資産
  • 生前贈与加算においては「贈与を受けた時点での評価額」をもとに計算する
  • 特別受益とは、相続人が被相続人の生前贈与や遺贈、死因贈与などによって受け取った利益のこと
  • 特別受益にあたるかどうかは、個別に判断する必要がある

生前にもらったお金が特別受益に該当するかどうかは、慎重に判断する必要があります。

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この記事を執筆した人

弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属

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