【相続放棄は生前には行えない】代わりにできること・対策について

「親・配偶者の相続放棄を生前にしておきたい」、「子供に相続させたくないため、相続放棄を生前にさせておきたい」と考えているものの、いずれもできないことを知り悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

生前に相続放棄をしたりさせたりはできないものの、代替えとなる手段はいくつかあります。

相続放棄の代わりに生前にできることや、対策などについて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

相続について誰に聞けばいいのか分からない方は、ぜひアクロピースへご相談ください。

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目次

生前に相続放棄はできない

資産


相続放棄とは、被相続人の財産の相続を放棄し、最初から相続人ではなかったことにするものです (民法939 条) 。

相続放棄する理由としては、借金や未払金、保証債務といったマイナスの財産を引き継ぎたくないことですが、相続放棄するとマイナスの財産だけではなく貯金や不動産といったプラスの財産も放棄することになります。

相続放棄は、被相続人の生前に相続人との間で合意したとしても有効にはなりません。

相続放棄するためには、被相続人が亡くなってことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申請する必要があります(民法915条)。

たとえ、正式な書面によって相続放棄契を生前に締結したとしても、相続放棄は認められません。

相続人が相続放棄の代わりにできるのは「遺留分放棄」

判決


相続人は生前に相続放棄はできませんが、遺留分放棄であれば可能です。

遺留分放棄によって、最低限引き継がれる財産である遺留分を放棄できます(民法1049条)。

遺留分放棄を行う理由としては、特定の相続人に遺産を集中的に相続させたいことが挙げられます。

また、一切の財産を相続したくないために、相続人が遺留分放棄を希望する場合もあります。

いずれの場合も、遺留分を請求できる権利者である相続人による申請が必要です。

相続させたくない相続人に遺留分放棄をしてもらった上で、他の相続人に遺産を相続させる旨の遺言を作成しておけば、財産を相続させなかった相続人に遺留分侵害額請求をされることはありません。

遺留分の意味や注意点、手続き方法などについて詳しく見ていきましょう。

そもそも遺留分とは

遺留分とは、相続人が相続することを最低限保証されている相続財産の割合のことです民法1042条1項)。

兄弟を除く相続人に認められているため、被相続人の子や配偶者、両親などが対象です。

たとえば、被相続人の遺言書や生前贈与の影響で、特定の相続人が一切の財産を相続できなかった場合、遺留分侵害額請求をすることで最低限保証された割合分の財産(金銭)を確保できます。

遺留分について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:遺留分と特別受益の関係性とは?

遺留分放棄をしても相続放棄も必要になる可能性が高い

遺留分を放棄した場合でも、相続放棄が必要なケースがあります。

遺留分の放棄は、遺留分を請求する権利を放棄することです民法1049条1項)。

あくまでも相続人であることに代わりはないため、借金や未払金といったマイナスの財産を引き継ぐことになります。

プラスの財産とマイナスの財産を一切引き継ぎたくない場合は、被相続人の死亡後に相続放棄の手続きが必要です。

相続放棄を行うことで、相続人としての地位を完全に放棄し、被相続人のマイナスの財産を相続するリスクを回避できます。

遺留分を放棄する手続き方法

被相続人の生前に遺留分を放棄する場合は、遺留分権利者が家庭裁判所に申請して「遺留分放棄の許可」を受ける必要があります。

一方、被相続人の死亡後に遺留分を放棄する場合は、遺留分を侵害している相続人に対し、遺留分を請求しない旨を伝えるだけで済みます。

被相続人の生前に遺留分放棄する場合に、遺留分権利者による申請と家庭裁判所からの許可が必要な理由は、被相続人が遺留分権利者に対して、不当に遺留分放棄を求める可能性があるためです。

被相続人の生前に遺留分放棄を申請する場合は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ遺留分権利者が申し立てをします(家事事件手続法216条1項2号)。

申し立てる際は、以下の書類の提出が必要です。

  • 家事審判申立書
  • 不動産の目録
  • 財産目録
  • 被相続人予定者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)

申し立ての際は、800円分の収入印紙と結果連絡のための郵便切手が必要です。

郵便切手の有無については家庭裁判所によって異なるため、申請前に確認しておきましょう。

遺留分放棄の申し立ては、必ず認められるわけではありません。

遺留分権利者の自由意思、遺留分を放棄する理由の合理性と必要性、遺留分放棄に対する代償の有無など、さまざまな点を総合的に考慮して認めるかどうかが判断されます。

たとえば、被相続人が単に気に入らない相続人に対して遺留分を渡したくないとして、遺留分権利者に家庭裁判所への遺留分放棄の申し立てを強要した場合、認められない可能性が高いでしょう。

【相続人に財産を渡したくない】生前にできることとは?

相続問題


相続人に財産を渡したくない、または相続財産を抑えたい場合は、次のように対策しましょう。

それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。

遺言書を作成する

遺言書を作成することで、相続させたくない人に対する相続財産を制限できます

ただし、遺言書で相続を制限しても、被相続人の両親や配偶者、子供には遺留分があるため、一切の財産を相続させないことは不可能です。

遺留分は、遺留分権利者が自らの意志で放棄しない限りは保障されます。

そのため、遺言書で相続させないように記載しても、遺留分は法的に請求可能です。

それでも、遺言書で相続財産を制限することで、相続割合を抑えることができるため、作成する意義は大きいと言えるでしょう。

遺言書の効力を発揮させるためには、書式や内容についてルールを理解する必要があります。

遺言書の作成方法について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:遺言書の効力が有効な範囲は?書き方や無効なケース・相談内容を解説

推定相続人廃除をする

推定相続人の廃除とは、被相続人が遺留分を有する相続人から虐待や重大な侮辱などを受けた場合に、その人の相続権を剥奪する手続きのことです民法892条)。

遺留分を請求する権利も剥奪されるため、廃除された推定相続人は財産を一切引き継ぐことができなくなります。

推定相続人の廃除をするためには、被相続人が生前に家庭裁判所に申立てするか、遺言で廃除の意思を表示し、被相続人の死後に遺言執行者が家庭裁判所に申立てをする必要があります。

ただし、必ずしも推定相続人の廃除が認められるとは限りません。

強力な効果があるため、家庭裁判所は廃除を認めるかどうかを慎重に判断します。

被相続人が相続人からの虐待や侮辱を受けたという事実が明確であり、証拠を提出できることは必須です。

そのうえで、さまざまな情報をもとに廃除の可否を判断します。

生前贈与や生命保険の活用によって相続額を減らす

生前贈与や生命保険を活用することで、特定の人物の相続額を減らすことができます。

生前贈与は、自身と相手方の同意のもとで、自身の財産を無償で提供する方法です(民法549条)。

相続財産が減るため、結果的に特定の人物への相続額を減らすことができます。

ただし、被相続人が亡くなった日までの一定期間内に贈与した分は、下記のいくつかのルールに従い相続財産に持ち戻しをする必要があります。

遺留分との関係

相続人に対する贈与であれば相続開始前の10年間にされた贈与(ただし婚姻、養子縁組、生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)がもち戻しの対象(民法1044条3項)。

相続人以外の者に対する贈与であれば相続開始前の1年間にされた贈与がもち戻しの対象(民法1044条1項)。

特別受益との関係

婚姻、養子縁組、生計の資本として受けた贈与であればどれだけ昔のものであっても相続財産への持ち戻しの対象になる(民法903条1項)。

また、これは相続税の計算上の話ですが、生前贈与の3~7年前までの贈与については、相続税の計算上遺産の額にもち戻されることになります。

これを「生前贈与加算(持ち戻し)」といいます。

2023年度税制改正で、生前贈与加算の対象期間が3年から7年に延長されました。

ただし、4~7年目までに受けた贈与のうち、100万円までは持ち戻しの対象外です。

また、生命保険金は相続財産ではなく個人の財産とみなされるため、生命保険の受取人を相続させたい人に指定することで、特定の人物への相続割合を減らすことができます。

さらに、遺留分侵害額請求をされたとしても、生命保険金は遺留分計算に含まれません。

ただし、遺産の額に比べてあまりにも保険金の金額が多い場合には、贈与と同じように持ち戻しの対象とされる場合があります。

保険金が持ち戻しの対象になるかどうかは、概ね遺産額の40%~50%を超える保険金かどうかが目安と思ってください。

養子をとって遺留分の割合を少なくする

養子を迎え入れることで法定相続人が増えるため、相続させたくない相続人の遺留分が減少します。

養子縁組は、お互いの合意に基づいて法律上の親子関係を形成することです。

市町村役場に縁組届を提出することで、実の親子でない人同士が法的に親子となります。

このような場合、被相続人の孫や相続人の妻などを養子にするケースが多く見られます。

養子は実子と同じ立場として、法定相続分や遺留分が認められます。

子どもが相続人になる場合、遺留分割合は「2分の1×法定相続分」です。

養子縁組によって子どもが増えると法定相続分の額が少なくなるため、遺留分の割合も抑えることができます。

相続欠格に該当する場合は対応は不要

相続欠格とは、欠格事由に該当する場合に相続権が失われる制度のことです(民法891条)。

以下のような事由に該当する場合、申し立てや意思表示などをせずとも該当者は相続権を失います。

  • 被相続人や他の相続人を故意に殺害した
  • 被相続人が他者に殺害されたことを知りながら告発や告訴をしなかった
  • 被相続人による遺言書の作成を詐欺や脅迫によって妨害した
  • 詐欺や脅迫によって被相続人に遺言書を作成させた
  • 遺言書を捨てたり隠したりした

相続人に借金を相続させたくない場合は債務整理する

精算


相続人に借金を相続させたくないために、相続放棄について調べているのであれば、下記の債務整理を検討しましょう。

それぞれの内容について解説します。

任意整理

任意整理とは、債権者との合意に基づいて、将来利息の免除や返済期間の延長などを行うことです(民法695条)。

一般的には、3~5年で全額返済できることが条件とされています。

借金が返済されなければ債権者にとっては損失となるため、交渉の余地があります。

個人再生

個人再生は、裁判所に提出した再生計画に基づき、すべての借金をまとめて5分の1~10分の1程度にまで減額し、3~5年で完済を目指す手続きです(民事再生法221条)。

安定収入や住宅ローンを除く借金が5,000万円以内など、さまざまな条件を満たす必要があります。

自己破産

自己破産は、裁判所の判断によって借金を全額免除する手続きです(破産法2条)。

99万円以下の現金や生活必需品などを除き、すべての財産が没収されます。

そのため、任意整理と個人再生を選択しても完済できないほどの借金がある場合に検討します。

相続人が相続放棄をしたい2つの理由

お金


相続人が相続放棄を希望する理由は、次の3つです。

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

借金まで相続したくない

相続では、プラスの財産だけではなく借金や未払金といったマイナスの財産も相続することになるため、借金まで相続したくないとの理由で相続放棄を希望する場合があります。

おそらくこれが相続放棄を考えるのに一番多いパターンではないでしょうか。

このような場合、限定承認について確認しておくことが大切です。

限定承認とは、プラスの財産でマイナスの財産を精算し、残っているプラスの財産を相続する方法です(民法922条)。

自宅のような生活基盤となる相続財産を相続しつつ、借金を相続せずに済みます。

ただし、限定承認は全ての相続人で行う必要があり、また遺産目録の作成、遺産の清算の方法、不利なみなし譲渡所得税の課税など、かなり複雑な手続きを行う必要があります。

実際に限定承認をするケースは、マイナスの財産も多いが、特定の財産(例えば実家)だけは残したいというような場合が多いです。

不仲のため財産を相続したくない

相続人が被相続人と不仲なために、「そのような人から財産は相続したくない」と考え、相続放棄を希望する場合があります。

不仲になる原因の例は、被相続人が不倫をしたことを相続人である子供が非難しているケース、過去に暴力をふるわれたケースなどです。

親交がなかったため財産を相続したくない

親交のない親戚の相続人になってしまった場合、財産や債務の状況がよくわからないこと等により、相続放棄をしたいと考える方もいます。

そのような場合には、弁護士に依頼してその方の財産や債務の状況を調べてもらうこともできます。

本人が遺族に財産を相続させたくない2つの理由

拒否


本人が遺族に財産を相続させたくない理由としては、以下の2つが考えられます。

それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。

素行が悪い・個人的感情により財産を渡したくない

相続人の1人の素行が悪く、渡した財産をギャンブルで使い果たすことを懸念しているために、相続放棄させたいと考える場合があります。

また、過去に意見が対立したり暴言を吐かれたりしたことによる個人的感情によって、財産を渡したくないと考える場合もあるでしょう。

他の相続人に財産を上手く活用できる人物がいる

財産が多額の場合、被相続人は無駄づかいをする人物ではなく、賢く運用して増やし、将来的には後世に引き継ぐことのできる人物に財産を相続させたいと考えることがあります。

例えば、被相続人が複数の相続人の中で特定の人物が財務管理や投資に長けていることを知っている場合、その人物に財産を相続させることを望むかもしれません。

相続放棄の代替手段をうまく活用しよう

穏やかな表情で電話する来る服の女性


生前に相続放棄はできないものの、生前贈与や生命保険などの活用、遺留分放棄など、代替え手段があります。

代替え手段をうまく活用して、相続分を減らしたり相続させないようにしたりすることを検討しましょう。

相続放棄を含め、相続に関することは専門家に相談するのがおすすめです。

相続放棄や代替え手段についてお悩みの方は、ぜひ弁護士法人アクロピースにご相談ください。

相続問題に強い弁護士が丁寧に対応いたします。


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この記事がみなさまの参考になれば幸いです
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この記事を執筆した人

弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属

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