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入居者に対して立ち退き要請をするからには、大家には相応の理由があるということなのですが、入居者を退去させる必要性が十分にあると見なされなければ、立ち退きは認められません。
裁判所としては、入居者の居住権を上回る事情ではないとされる場合でも、退去にまつわる代償を支払うことで立ち退きを認める傾向があります。
ここでは、立ち退き料の相場について、過去の判例を交えながらご説明します。
大家としては相場を参考として立ち退き料の準備をしたいところですが、入居者が持つ居住権等は価格に換算することができません。
物のやり取りとは異なり、生活や仕事の拠点として建物や土地を使用している以上、そこには入居者個人の事情や生活背景が存在し、これらを加味して補償を計算する必要があるからです。
そのため相場を数値化することは非常に難しく、標準的な立ち退き料というものがありません。
ただし、立ち退き要請にあたり大家は入居者に対して1年前から6ヶ月前までに退去の告知を行う必要があることから、この期間に相当する家賃6ヶ月分から12か月分程度を立ち退き料として支払うケースが多く見られます。
一般的には、入居者の生活事情をよく考慮しながら、退去による不利益分を補える金額を算出していきます。
例えば引っ越し代や新居の賃貸契約経費、事業所の立ち退きでは引っ越し中の休業補償や新店舗における営業補償、新たな広告費用に至るまでカバーするケースもありますが、決して一様ではなく交渉や訴訟が進行する中で価格が大きく変化することも珍しくはありません。
一般住宅の立ち退き料として実際に支払われた例から、その内訳を参考としてみます。
この時立ち退き料は約34万円支払われており、1ヶ月の家賃は5万円でした。
入居者は引っ越し費用の見積もりを大家に提出し、大家は額面通りの金額を支払ったケースになります。
2ヶ月分の敷金に加え、1ヶ月分の前家賃、入居時の日割り家賃、火災保険、不動産屋に支払う家賃1ヶ月分の仲介手数料について見積もりを取り寄せた結果、予算は約27万円となることがわかりました。
このケースでは約7万円の見積もりとなりました。実際には居住人数が増えるほど荷物の数も増えるため、見積価格は流動的だと言えます。
一方、入居者が原因となる信頼関係破壊が認められた場合は、立ち退き料の考え方も変わります。
貸借人は借地に家を建て生活の場としていたところ、土地所有者が自らの三世代住宅を建てたいという要望により立ち退きを求められたケースです。
本件では貸借人が借地を無断でまた貸ししていた事実が発覚し、これが信頼関係を破壊したと認められたため、本来の借地権価格である1300万円よりはるかに低い約700万円を立ち退き料として支払うこととなりました。
訴訟に至った場合、裁判所は賃貸契約期間に加えて双方の家庭事情等を考慮した上で、個々のケースに対して適切と思われる立ち退き料を提示します。
つまり、ほぼ全ての立ち退き案件で立ち退き料の金額は異なることになります。
上記の例でも見られるように、引っ越し費用、契約に関わる費用、日割り家賃、新居の家賃が上がる場合の差額等が立ち退き料の算出要素になっていることが多いですが、必ずしもこれらの項目を全て考慮しなければいけないわけではありません。
入居者にとっては、立ち退きがなければ生じることのなかった負担について、各入居者の事情に合わせて必要な額を家主が補うという考え方になります。
特に新居への引っ越しでは、物件探しから契約、引っ越し後の新生活準備に至るまで、多大な労力と時間を要し、精神的にも大きなプレッシャーがかかり続けます。
このように実費負担だけではまかなえないと判断できる場合には、別途迷惑料や慰謝料という名目の補償を行うこともあります。
一般住宅の立ち退きでは、敷金・礼金、前家賃、日割り家賃、家賃差額、火災保険、仲介手数料、引っ越し業者への依頼費用が立ち退き料の基本的な補償範囲となっています。
一方店舗や事業所の立ち退きでは、敷金・礼金、仲介手数料、家賃差額といった引っ越し関連費用の他に、営業補償料、休業補償料、内装工事費用、広告告知費用等、事業所特有の経費が広範囲にかかりますので、これらを立ち退き料として負担するケースが多いと言えます。
いくら大家にとって正当事由だと思われることであっても、入居者にとっては生活や営業の場を奪われることに他なりません。
このため、入居者に家賃滞納等の債務不履行がない限り、大家は立ち退き料を支払うことで正当事由を補い、退去要請する必要があります。
例えば「築40年となりひどく老朽化したため取り壊したい」という理由から立ち退きを求める場合について考えてみます。
建物の老朽化は自然かつ当然のことですから、本来であれば大家が常に対策を施しておくべきことと見なされます。
従って入居者には何ら落ち度がなく、大家の主張する正当事由としては弱いとされ、立ち退き料を支払って補うことになります。
また「古い建物のため耐震基準を満たしておらず立て替えたい」という場合も先程と同様の考え方になります。
古い建物であることは老朽化したということであり、本来なら大家が定期的に耐震基準を確認し、必要に応じて耐震補強工事を行うべきとされます。
やはり入居者には何ら落ち度がない事柄になるため、大家の主張する正当事由としては弱く、立ち退き料による補完が必要になります。
正当事由を補うために立ち退き料を支払うことの重要性は、過去の判例からも理解できるところです。以下の4種類の裁判事例から、立ち退き要請の背景と立ち退き料の判断傾向を参考にしてみましょう。
借家の所有者である大家は転勤中に自宅を貸し出しており、借り手である入居者が生活を営んでいました。しかし長期の転勤から戻った大家が、自宅での生活を望んだことから立ち退きを要請します。
この時、入居者には引っ越しできるだけの経済的な余裕があるとされ、大家の正当事由は決して強くはないが、200万円の立ち退き料を支払うことで補完されると認められました。
手狭になったマンションから借地上の建物に移転するため、大家は入居者に立ち退きを要請しました。
しかし借り手である入居者は借地に建つ建物からすでに退去し使用していない状態だったため、大家は借地に対する立ち退き料700万円を支払って正当事由が補完されました。
大家は自ら経営する新聞販売店の従業員宿舎を建設する目的で、隣接する借地に住む貸借人に借地からの立ち退きを要請しました。
正当事由としては弱いものの借地について6450万円の立ち退き料を支払い、正当事由が補完されました。
大家は老朽化を理由として、入居者に対し家賃4年分以上の立ち退き料を支払うことを提案しましたが、裁判所としては、大家が老朽化対策を施してこなかったことに加え、築年数としては老朽化に当たらず耐用可能と認め、立ち退きについて却下しました。
いずれのケースでも、立ち退きを求める大家側の理由は単独では認められておらず、立ち退き料をもって補完されています。
また、場合によっては立ち退き要請自体が却下される可能性もあるため、訴訟前の段階から入居者と丁寧に交渉を重ね、歩み寄っていかに合意に近付くかが非常に重要であることがわかります。
立ち退き料の金額を決める際、大家側の事情に加え入居者がどのような状況にあるかによっても大きく変化するため、予め弁護士に相談し過去の判例に基づく見立てを持っておくことはとても大切です。
立ち退いてもらう理由が曖昧な場合や、入居者が個々の事情から立ち退きを拒否している場合、訴訟の場でも認められにくいことが想定されます。
このため当事務所では、大家がどのような理由から立ち退きを求めたいのか、入居者にはどういう人物がいてそれぞれどのような事情を持っているのか、丁寧にヒアリングしていき、過去の判例を振り返りながら、適切な立ち退き料を想定していき、交渉のサポートを行います。
立ち退きに関する交渉は法律知識や交渉経験が求められますので、交渉が暗礁に乗り上げる前に、当事務所の弁護士までぜひご相談ください。
弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属
私のモットーは「誰が何と言おうとあなたの味方」です。事務所の理念は「最高の法務知識」のもとでみなさまをサポートすることです。みなさまが納得できる結果を勝ち取るため、最後まで徹底してサポートしますので、不動産問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。