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居住権を主張して居座り続ける相手を退去させるには?立ち退き請求の進め方を弁護士が解説

「退去してほしいと伝えたのに『居住権がある』と言って居座られている」
「話し合いに応じてもらえず、どう手続きを進めればいいかわからない」
所有する不動産に居座る相手への対応で、このような不安を抱えていないでしょうか。
相手が主張する「居住権」は、場合によっては借地借家法で強力に守られている権利であり、オーナー側の都合だけで無理やり追い出すことはできません。
しかし、法的な知識がないまま放置したり、逆に感情的になって実力行使に出たりすると、トラブルが泥沼化する恐れがあります。
本記事では、「居住権」の法的な正体や、居座る相手をスムーズに退去させるための条件と手順を弁護士が詳しく解説します。
トラブルを避け、自身の資産を守るための正しい行動を整理しましょう。
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居住権とは

居住権とは、他人が所有する家屋に継続して住み続けることを可能にしてくれる権利です。
主に「賃借人の居住権」と「配偶者居住権」の2つがあり、それぞれが強力な法的保護を受けています。
賃借人の居住権は、借地借家法に基づく賃借権という権利で、賃借人が居住する権利を保障します。
不動産オーナーから正当な理由がない限り、立ち退きを求められないように保護してくれます。
一方、2020年に新設された配偶者居住権は、建物の所有者が亡くなっても、配偶者がそれまでと同じように無償で住み続けられるようにしてくれる権利です。
この権利により、相続において建物の所有権と居住権の分離が可能となりました。
これにより、残された配偶者は住み慣れた自宅を相続する代わりに、預貯金などを諦めなければならない事態を防げるようになりました。

居住権=“住み続ける利益”を法が守る仕組みです。賃借権・配偶者居住権のどの権利で居住しているのかをまず特定し、成立要件(誰が・いつから・どの建物か)と対抗要件(登記等)の有無を整理しておくと、交渉や相続対応がスムーズです。


賃貸借契約による居住権


賃借人の居住権は、借地借家法で定められた賃借権という権利です。
これは手厚く保護された強い権利で、賃借人が亡くなった場合でも、消滅せず相続が可能です。
賃借権には、以下の特徴があります。
賃借人が死亡しても相続人が賃借権を相続できる
賃借人が死亡した場合、相続人が賃借権を相続できます。民法第896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利や義務を相続すると定めています。
賃借権は、「財産」に含まれるため、賃借人が死亡したら、相続人に引き継がれます。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
出典:民法
民法第896条が定める「権利」や「義務」には、賃借権だけでなく、家賃の支払義務なども含まれます。
被相続人の賃借権は、一旦、法定相続人全員(配偶者、子ども、親など)が相続します。その上で、話し合いにより賃借権を相続する人を決定することになります。
たとえば、夫が契約した賃貸住宅に夫婦で住んでいた場合(子は別居)、賃借人であった夫が亡くなったときは、妻と子が賃借権を相続します。
その後、話し合いにより、実際に住んでいた妻が賃借権を相続するということが可能です。
婚姻関係のない場合、賃借権は相続されない
賃借人が死亡した際、一緒に暮らしていた内縁のパートナーが居住権を相続することはできません。
これは、法律婚をしていない関係では、相続権が発生しないためです。
ただし、借地借家法第36条1項により、以下の条件をすべて満たす場合は、内縁のパートナーにも賃借権の相続が認められます。
- 賃借人が相続人なしで死亡したこと
- 同居者が賃借人と事実上の夫婦関係または養親子関係にあったこと
- 同居者が、賃借人の死亡を知ってから1カ月以内に建物の賃貸人に対して反対の意思表示をしていないこと
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
出典:借地借家法
借地借家法第36条では、内縁関係や事実婚といった非公式な関係にある同居者の権利を保護しています。
この規定により、法律上の婚姻関係がない場合でも、実質的な家族として築いてきた生活の場が守られます。
ただし、これは相続人が存在しない場合に限られる措置です。



賃借権は相続される財産権です。相続開始後は“いったん全相続人で承継→話合いで承継者を特定”が実務運用。賃貸人への迅速な通知と、承継者の賃料支払体制を早期に整えることで、紛争と未収を防げます。


配偶者居住権


配偶者居住権とは、民法改正により2020年から施行された制度で、配偶者の住まいを守る権利です。
住宅の所有者である配偶者が亡くなった後も、残された配偶者がそれまで住んでいた自宅に住み続けられるようになりました。
法律上の配偶者に適用される
配偶者居住権は、法律婚をしている配偶者のみに認められる権利です。
民法第1028条1項で規定されており、被相続人が所有する建物に住んでいた婚姻関係にある配偶者は、終身または一定期間、無償でその家に住み続けられます。
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。
ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
出典:民法
配偶者居住権は、婚姻関係にある配偶者の生活基盤を守るための制度です。
遺産分割によって自宅の所有権が他の相続人に移った場合でも、配偶者の居住が保障されます。
ただし、この権利を取得するには、相続開始時にその建物に居住していることが条件です。
また、配偶者居住権を取得後も、たとえば建物をリフォームする場合には、所有者の承諾を得なければいけません。
さらに、第三者への対抗要件として、配偶者居住権の登記が必要です。
被相続人の持ち家が対象
配偶者居住権が認められるのは、被相続人が所有していた建物に限定されます。
そのため、賃貸物件には適用されません。
配偶者居住権の施行前は、自宅の評価額が配偶者の遺産分割の取得分を超えてしまうと、他の相続人に代償金を支払う必要があり、これが困難である場合には自宅を手放さざるを得ないケースがありました。
さらに、自宅の評価額が配偶者の取得分以内であっても、自宅を取得すると流動性の高い預貯金などが相続できず、不安定な生活を強いられることもあったのです。
しかし、配偶者居住権の新設で、残された配偶者は自宅の所有権を取得しなくても、居住権を選択することで預貯金などの他の資産を相続しやすくなりました。
この制度により、配偶者は生活資金を確保しつつ、自宅にも住み続けられるというバランスが取れるようになったのです。



配偶者居住権は所有権と居住権の分離で生活を守る制度。取得要件(相続開始時に居住)・登記・期間(終身/一定期間)・修繕と承諾関係を事前に確認しましょう。遺産分割設計では、居住権+預貯金の確保というバランスが鍵です。
「居住権」を主張して居座り続ける行為は法的に認められる?


相手が「居住権があるから出ていかない」と主張する場合、その行為が法的に認められるかどうかは、相手が主張している「居住権の正体(法的根拠)」によって決まります。
そもそも居住権とは、法律上の単一の権利ではなく、「他人が所有する家屋に継続して住み続けることができる権利の総称」です。
法的な保護の強さは権利の種類によって大きく異なるため、まずは相手の主張が以下の3つのうちどれに当てはまるかを見極めましょう。
「賃借権(賃貸借契約)」を主張されている場合
賃貸借契約を結び、家賃を支払って住んでいる場合の権利は「賃借権」と呼ばれます。これは借地借家法によって強力に守られた権利であり、オーナーの一方的な都合で退去させることはできません。
立ち退きを求めるには厳格な正当事由が必要となるほか、相続においても以下のような強い効力を持ちます。賃借権の主な法的特徴は以下のとおりです。
- 借地借家法の適用があり、借主の権利が強く保護される
- 借主が死亡しても権利は消滅せず、相続人に承継される
- 相続人なしに死亡した場合に限り、内縁のパートナーや事実上の養親子が権利を承継できる(借地借家法第36条)
このように、賃借権は「財産」として扱われるため、簡単に退去を迫れないのが実情です。法的に非常に強い「居座る正当性」がある状態といえるでしょう。
「配偶者居住権」を主張されている場合
配偶者居住権とは、建物の所有者が亡くなった後も、残された配偶者が無償で住み続けられるよう2020年に新設された権利です。これにより「所有権」と「居住権」が分離され、配偶者の生活基盤が守られるようになりました。(参照:法務省|配偶者居住権とは何ですか?)
遺産分割協議や遺言でこの権利が認められている場合、その居住は正当な権利行使となります。通常の所有権との違いを整理すると以下のようになります。
| 権利の種類 | 概要 |
|---|---|
| 所有権 | 建物を自由に使用・収益・処分できる完全な権利 |
| 配偶者居住権 | 所有者が変わっても、終身または一定期間住み続けられる権利原則として退去を求められない |
たとえ建物の名義(所有権)が他の相続人に移ったとしても、配偶者居住権が設定されている限り、無理に退去させることはできません。
親子や兄弟間などの「使用貸借」の場合
一方で、親族や友人が無償、あるいは相場より著しく安い金額で住んでいる場合は、法的に「使用貸借」とみなされます。賃借権とは異なり借地借家法の適用がないため、法的な保護は弱くなります。
「貸主の好意」で成り立つ契約であるため、信頼関係の破綻や使用目的の終了をもって、退去を求められる可能性が高いのが特徴です。
具体的には、以下のような事由があれば権利が消滅したとみなされます。
- あらかじめ定めた使用期間が満了した
- 「親の介護」など、当初の同居目的が達成された
- 長期間の使用により、通常必要とされる期間が経過した
- 暴言や暴力などにより、当事者間の信頼関係が破綻した



このケースでは、相手が「居住権」という言葉を使っていても、実態がこの「使用貸借」であれば、法的には居座る正当性が低いと判断される可能性があります。
▼居住権が主張できる条件について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
居住権を主張する親族の立ち退きを求めるには?居住権の理由と対処法を解説
居住権を主張して居座り続ける相手に「立ち退き請求」できる条件とは?


相手が主張する権利が「賃借権」か「使用貸借」かによって、立ち退きを求められる法的な条件は大きく異なります。
借地借家法で守られる賃借人には「正当事由」や「信頼関係の破壊」が必須ですが、親族間の使用貸借では異なる基準が適用されるのが特徴です。
本章では、以下3つの退去条件を解説します。
賃借人に家賃滞納などの賃貸借契約違反がある(賃貸借契約)
賃借人の居住権は借地借家法で守られています。
しかし、賃借人に重大な契約違反があり、信頼関係が破壊されたと認められる場合、オーナーは法的手続きを経て物件の明け渡し請求が可能です。
信頼関係が破壊されたと判断される主なケースとして、以下の契約違反が挙げられます。
- 家賃滞納
- 他の入居者や近隣住民に迷惑をかける過度な騒音行為
- 無断でのペット飼育
- 無断転貸 など
ただし、これらの契約違反があっても、即座に退去を求められるわけではありません。
違反の程度や期間、改善の見込みなどを考慮して、信頼関係の破壊が判断されます。
また、違反が軽微な場合や、賃借人が誠実に改善に努めている場合は、明け渡し請求は認められない可能性が高いです。
オーナー側の都合で立ち退きを求める際に正当事由がある(賃貸借契約)
建物の賃貸借契約において、オーナーが賃借人に立ち退きを求める場合、借地借家法第28条に規定された「正当事由」が必要です。
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
出典:借地借家法
正当事由の判断では、以下の要素が考慮されます。
- オーナー側の建物使用の必要性
- 賃借人側の生活や営業の状況
- 建物の利用状況
- 立退料の提供
建物の老朽化により建て替えが必要な場合や、オーナー自身が居住を要する場合などが正当事由として挙げられます。
しかし、これらの事情があっても、賃借人の生活基盤を考慮し、適切な立退料の提供がなければ正当事由が認められないケースもあります。
オーナー都合による立ち退き要求は、賃借人の居住権保護の観点から、厳格な要件と適切な補償が必要です。



違反型は信頼関係破壊の立証、オーナー都合型は正当事由+相当な立退料が核心。通知・交渉・証拠化(騒音記録、督促履歴、建替え必要性の技術資料等)を時系列で整備するほど有利になります。
▼こちらの記事は、立ち退きを求めるための正当事由について書かれています。
立ち退きの正当事由として老朽化は認められるのか?トラブルを防ぐコツを紹介
使用貸借の目的が終了した・信頼関係が破綻した(親族・兄弟など)
親族が無償で住んでいる「使用貸借」の場合、借地借家法は適用されません。そのため、使用貸借契約に定められた終了事由(使用目的の達成や期間満了など)に該当する場合には、立ち退き料の支払いなしで退去を求めることが可能です。
ただし、契約終了事由が存在しない状態で一方的に退去を求める場合は、権利濫用とみなされる可能性があります。このような場合、退去請求が認められるためには正当な理由が必要となります。
法的に使用貸借を終了させ、退去を請求できる主なタイミングは以下の通りです。
- あらかじめ決めていた返還時期が到来した
- 「子供が成人するまで」「一時的な住居として」など、契約時に定めた使用目的が達成された
- 使用収益をするのに足りる期間(相当期間)が経過した
- 借主が死亡した
- 期間・目的未定の場合の貸主による解除
- 借主による暴力や暴言などで信頼関係が崩壊した
「居住権」を主張して居座る賃借人への立ち退き請求の手順


立ち退き請求の具体的な進め方は、相手が居座る理由や契約関係によって全く異なります。
借地借家法が適用される「賃貸トラブル」なのか、民法上の「親族間トラブル」なのかを見極め、適切な法的ルートを選択しなければなりません。
ここではトラブルになりやすい3つのケース別に、解決までの正しい手順と法的措置を解説します。
家賃滞納などの契約違反があり、不法に居座る場合
賃貸借契約違反のある賃借人に退去を求める手順は、次の通りです。
1.支払を督促する文書の発送
家賃滞納が発生した場合、まず電話等で状況確認を行い、その後速やかに(おおむね1週間以内)賃借人宛てに支払を督促する文書を送付します。
この文書には、未納家賃の金額、支払期限、支払方法を明確に記載します。
内容証明郵便での送付が推奨されます。
内容証明郵便による督促文書の発送は、後の法的手続きの証拠としても重要な役割を果たす重要な手続きです。
督促文書の送付から約1カ月が経過しても支払がない場合は、連帯保証人への督促状送付へと移行します。
連帯保証人宛ての文書では、賃借人の滞納状況と保証債務の履行を求める旨を具体的に記載します。
この場合も、内容証明郵便の利用が望ましいでしょう。
なお、これらの督促状に支払がない場合の法的措置の可能性についても言及すると、支払を促す効果が期待できます。
ただし、威圧的な表現は避け、事実に基づいた冷静な文面を心がけてください。
2.契約解除通知の送付
家賃の滞納が3カ月以上続くと、オーナーと賃借人との間の信頼関係が破壊されたと判断される可能性が高くなります。
オーナーは、複数回の督促状送付や支払交渉を経ても家賃の支払がない場合、賃貸借契約を解除するために賃借人に契約解除通知を発送します。
契約解除通知は、法的手続きの証拠として重要なため、必ず内容証明郵便で送付してください。
契約解除通知書には「◯月◯日までに滞納家賃〇〇円の支払がない場合、本通知をもって賃貸借契約を解除する」という具体的な文言を明記します。
また、支払期限として相当な期間(1~2週間程度)の設定が重要です。
契約解除通知に記載された支払期限までに滞納家賃の支払がない場合、契約解除の効果が発生します。
なお、支払期限までの期間が短すぎる場合、支払いのための相当な期間が与えられたとはいえないことから、契約解除の効力が認められる時期が後ろ倒しになる可能性があります。
3.明け渡し訴訟
賃貸借契約の解除後も賃借人が自主的に退去しない場合、オーナーは明け渡し訴訟を提起します。
明け渡し訴訟の流れは、以下の通りです。
- 訴状の提出と訴訟提起
- 被告(賃借人)への訴状送達
- 裁判所において口頭弁論が行われる
- 裁判所は必要に応じて和解案を提示
- 和解が成立しない場合、裁判所が判決を下す
口頭弁論では、オーナー側(原告)と賃借人側(被告)の双方に主張・立証の機会が与えられます。
裁判所が提示する和解案には、一般的に建物の明け渡し期限や未払い家賃の分割払いなどの条件が含まれます。
和解が成立せず、オーナー側の主張が認められる判決が下されることになります。
4.強制退去
裁判で明け渡しを命じる判決が確定しても、賃借人が住居から自主的に退去しないときは、オーナーは裁判所に強制執行を申立てます。
強制執行の申し立てが受理されると、裁判所は賃借人に明け渡しの催告を行います。
明け渡し催告とは、執行官が現地を訪問して賃借人に明け渡し期限を説明し、強制執行日が記載された公示書を室内に貼り付ける手続きです。
明け渡し催告が行われても賃借人が退去しない場合は、裁判所の執行官による強制執行が断行されます。



家賃を滞納した賃借人の強制退去までの流れについて詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
家賃滞納者は強制退去できない?家賃を督促する流れや滞納を未然に防ぐ対策を紹介
オーナー都合の立ち退きで、居住権を主張され居座る場合
正当事由がありオーナーの都合で賃借人に立ち退きを求める手順は、以下の通りです。
※契約期間満了の際に、更新拒絶する場合を例にして説明しています。
1.賃借人に立ち退きの理由を説明
オーナーの都合で賃借人に立ち退きを求める最初のステップは、理由の説明から始まります。
多くの賃借人にとって立ち退き要請は予期せぬ事態であり、生活基盤を揺るがす重大な問題です。
そのため、オーナーは一方的な通告を避け、賃借人の立場に配慮しながら立ち退きを求める理由を丁寧に説明し、十分な協議の機会を設ける必要があります。
2.賃貸借契約の解約通知(更新拒絶通知)の発送
オーナーが賃借人との契約更新を拒絶する場合、借地借家法の規定により、契約満了日の1年前から6カ月前までの期間内に、更新拒絶の通知を行う必要があります。
この期間を過ぎた通知は法的効力をもたず、契約は自動更新されてしまうため、タイミングが重要です。
更新拒絶通知には、建物の老朽化による建て替えの必要性や、オーナー自身の使用など、法律で認められた正当事由を具体的に記載しなければいけません。
また、通知は後日の紛争を防ぐため、内容証明郵便で送付してください。
3.立ち退き交渉
立ち退き交渉は、慎重な対応が求められる重要なプロセスです。
転居の時期や立退料などの条件を提示し、賃借人と具体的な交渉をスタートします。
特に立退料については、賃借人の実際の損害や負担を考慮した現実的な金額の提案が必要です。
引っ越し費用の補償だけでなく、新居での家賃差額なども考慮に入れる必要があるでしょう。
また、賃借人にとって立ち退きは生活基盤の大きな変更を伴うため、十分な転居準備期間の確保が欠かせません。
さらに、円滑な交渉のためには、具体的な代替物件の提案も有効です。
仲介手数料の補償に加え、立地や家賃、設備などの条件が現在の物件と近い物件の提案は、賃借人の不安を軽くし、合意形成の促進につながります。
4.交渉が決裂した場合は明け渡し訴訟を提起
立ち退き交渉で解決できない場合、明け渡し訴訟という選択肢があります。
この訴訟は、オーナーが裁判所に訴状を提出して始まります。
訴状には、立ち退きを求める正当事由や、これまでの交渉経緯などを具体的に記載することが必要です。
裁判所は提出された訴状の確認後、賃借人に特別送達という方法で訴状を送付し、裁判所で口頭弁論が開かれ、双方が主張と証拠を提示します。
この過程で裁判所は、立ち退きの必要性や賃借人の事情を慎重に検討します。
オーナーの正当事由の存在が認められれば、訴えの提起から約2カ月程度で、明け渡しを命じる判決が下されます。



手順は“通知の適法性→協議→和解案→訴訟・執行”の一本道。内容証明の文言とタイミング、更新拒絶の期間要件、和解条項の明渡期日・違約条項・原状回復範囲の詰めが、成否を分けます。
▼賃借人に立ち退きを拒否されたときの対応について詳しく知りたい人は、こちらの記事もご覧ください。
親族・元配偶者が居座る場合
親族や元配偶者が居座り続ける場合、法的には「使用貸借契約」の終了や「親族間の紛争」として扱われます。
親族間であるため感情的な対立が起きやすく、法的手続きは慎重に進める必要があります。以下の4つのステップに沿って対応していきましょう。
1. 話し合いによる退去要請と「使用貸借」の解約通知
まずは当事者間の話し合いによる円満な退去が理想です。しかし、身内だからこそ感情的になりやすく、当事者だけで解決するのは困難な場合が少なくありません。
話し合いが停滞した際は、書面にて「使用貸借契約の解約」と「退去期限」を明確に通知します。親族間では口約束になりがちですが、後の法的措置を見据えて証拠を残すことが重要です。
必ず内容証明郵便を利用し、使用目的の終了や信頼関係の破壊といった解約事由を明記した上で、毅然と明け渡しを求めましょう。
2. 家庭裁判所への調停申し立て(親族関係調整・離婚調停)
内容証明郵便を送付しても応じない場合、円満な解決を目指すため、家庭裁判所へ調停を申し立てることも選択肢の一つです。調停は法的に必須ではありませんが、第三者が間に入ることで、感情的な対立を抑えながら合意形成を図ることが可能になります。
主な調停の種類は以下の通りです。
| 調停の種類 | 概要 |
|---|---|
| 親族関係調整調停 | 親子や兄弟間での対立を整理し、円満な解決を目指す手続き |
| 夫婦関係調整調停 | 離婚協議に伴い、財産分与や慰謝料とセットで明け渡しを協議する手続き |
このように、相手との関係性(親子・兄弟か、夫婦か)によって申し立てるべき調停が異なります。ご自身の状況に合った手続きを選択しましょう。
3. 調停不成立の場合は訴訟(明け渡し請求)を提起
調停での話し合いがまとまらず「不成立」となった場合は、最終手段として地方裁判所へ「建物明け渡し請求訴訟」を提起することになります。
訴訟手続きでは、法廷で互いの主張と証拠を出し合い、裁判官による法的な判断を仰ぎます。ここでは「使用貸借契約が終了している事実」や「所有権に基づく返還請求権」を法的に立証しなければなりません。
審理の過程で裁判所から和解を打診されることもありますが、合意に至らなければ、最終的に退去を命じる判決が下されます。
4. 判決または調停調書に基づく強制執行
訴訟で勝訴判決を得る、あるいは調停で退去の合意が成立して「調停調書」が作成されると、それらは強制執行の根拠となる「債務名義」となります。
この債務名義を取得しても相手が居座り続ける場合は、裁判所に強制執行を申し立てましょう。たとえ親族であっても、所有者が勝手に荷物を搬出する行為は「自力救済」として禁止されています。



申し立てが受理されれば、裁判所の執行官が現地へ赴き、国の権限において強制的に荷物を搬出して明け渡しを完了させます。
不動産における不公平や不動産関係者のトラブルでお悩みの方は、
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賃借人に立ち退きを求める際は弁護士のサポートを受ける


賃借人には借地借家法に基づく強い居住権があり、賃貸物件からの立ち退き要求は、解決が難しい問題であるため、弁護士にサポートを依頼するのが賢明です。
立ち退き交渉は原則として、オーナー本人もしくは弁護士が行う必要があり、不動産管理会社や他の士業などが行うと非弁行為として弁護士法第72条に抵触する可能性があります。
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出典:借地借家法
弁護士は立ち退き交渉において、以下のような専門的サポートを提供します。
- 借地借家法に基づく正当事由の整理と説明
- 地域相場や判例を踏まえた適切な立退料の算定
- 現実的な退去時期の提案
- 両者の利害関係をバランスさせた解決策の提示
- 必要に応じた訴訟対応 など
立ち退き交渉は法的知識だけでなく、高度な交渉スキルが必要とされるため、豊富な経験のある弁護士への依頼をおすすめします。
正当事由の立証や立退料の算定など、専門的な判断が必要な場面では、実績に裏打ちされた弁護士のアドバイスが問題解決の鍵となるでしょう。



立退交渉は非弁リスクを避け、弁護士が前面に立つのが安全です。相場に基づく立退料算定、実現可能な退去スケジュール、訴訟移行時の勝訴見込みを同時並行で設計し、最短距離の解決を図ります。
▼立ち退き交渉を弁護士に依頼する際の注意点については、以下の記事もお読みください。
立ち退きを弁護士に依頼するデメリットは何?費用や選び方のポイントを解説
居住権の主張や居座りに関するよくある質問
居座る相手を追い出すために、必ず「立ち退き料」を支払う必要がありますか?
必ずしも支払う必要はありません。家賃滞納などの契約違反を理由とする場合は原則不要です。
一方、建物の建て替えなどオーナー側の都合で立ち退きを求める場合は、正当事由を補うために支払いが必要になるケースが大半です。
親族間の居座り(使用貸借)では法的義務はありませんが、早期解決のための「解決金」として、引っ越し費用相当額を支払って和解することも実務上よく行われます。
話し合いで解決しない場合、どのような条件なら「強制立ち退き」が認められますか?
裁判で「明け渡し判決」を得て、裁判所に「強制執行」を申し立てた場合のみ認められます。
判決を得るには、数ヶ月分の家賃滞納や、親族間であれば信頼関係の完全な破綻など、契約を継続しがたい重大な事由が必要です。
なお、どんなに正当な理由があっても、オーナー個人が勝手に鍵を変えたり荷物を運び出したりする行為は「自力救済」として違法になるため、必ず法的手続きを経る必要があります。


立ち退き料(解決金)を払うことになった場合、相場はいくらですか?
法律で決まった金額はありませんが、契約形態によって目安が異なります。
一般的な居住用賃貸借契約でオーナー都合による立ち退きの場合、家賃の6ヶ月分から1年分に加え、引っ越し費用などが上乗せされる傾向にあります。(店舗や事務所などの業務用物件の場合は、家賃の2〜3年分が相場となります。)
一方、親族間の使用貸借であれば、法的な支払い義務はないため、早期退去への協力金として「引っ越し実費程度(数十万円)」を渡して和解するケースが一般的です。
まとめ|居住権を主張して居座る相手への立ち退き請求は弁護士に相談しよう


「居住権がある」と主張されても、相手が家賃を払う「賃借人」か、無償で住む「親族」かによって、退去を求める法的根拠や手続きは全く異なります。
借地借家法の壁や家族間の感情的対立がある中で、誤った判断による強引な追い出しを行うと、逆に法的責任を問われるリスクがあるため注意が必要です。
不動産問題の相談はアクロピース
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