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居住権はどれくらい強い権利なのでしょうか?
借地借家法では、居住権を強力に保護しており、正当事由なしに立ち退きを求めることは難しいとされています。
そのため、不動産オーナーが立ち退き交渉に臨む際、賃借人の持つ居住権について理解していれば、不要なトラブルを回避できるでしょう。
本記事では、「居住権はどれくらい強い権利ですか?」という疑問に答えつつ、オーナーが立ち退きを求める際に押さえるべき法律のポイントを解説します。
強い居住権を持つ賃借人に立ち退きを求める際の手順についても解説していますので、最後までお読みください。
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居住権とは、他人が所有する家屋に継続して住み続けることを可能にしてくれる権利です。
主に「賃借人の居住権」と「配偶者居住権」の2つがあり、それぞれが強力な法的保護を受けています。
賃借人の居住権は、借地借家法に基づく賃借権という権利で、賃借人が居住する権利を保障します。
不動産オーナーから正当な理由がない限り、立ち退きを求められないように保護してくれます。
一方、2020年に新設された配偶者居住権は、建物の所有者が亡くなっても、配偶者がそれまでと同じように無償で住み続けられるようにしてくれる権利です。
この権利により、相続において建物の所有権と居住権の分離が可能となりました。
これにより、残された配偶者は住み慣れた自宅を相続する代わりに、預貯金などを諦めなければならない事態を防げるようになりました。
賃借人の居住権は、借地借家法で定められた賃借権という権利です。
これは手厚く保護された強い権利で、賃借人が亡くなった場合でも、消滅せず相続が可能です。
賃借権には、以下の特徴があります。
賃借人が死亡した場合、配偶者が賃借権を相続できます。
民法第896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利や義務を相続すると定めています。
賃借権は、「財産」に含まれるため、賃借人が死亡したら、相続人に引き継がれます。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。 ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 出典:e-Govポータル|民法 |
民法第896条が定める「権利」や「義務」には、賃借権だけでなく、家賃の支払義務なども含まれます。
被相続人の賃借権は、一旦、法定相続人全員(配偶者、子ども、親など)が相続します。その上で、話し合いにより賃借権を相続する人を決定することになります。
たとえば、夫が契約した賃貸住宅に夫婦で住んでいた場合(子は別居)、賃借人であった夫が亡くなったときは、妻と子が賃借権を相続します。
その後、話し合いにより、実際に住んでいた妻が賃借権を相続するということが可能です。
賃借人が死亡した際、一緒に暮らしていた内縁のパートナーが居住権を相続することはできません。
これは、法律婚をしていない関係では、相続権が発生しないためです。
ただし、借地借家法第36条1項により、以下の条件をすべて満たす場合は、内縁のパートナーにも賃借権の相続が認められます。
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。 出典:e-Govポータル|借地借家法 |
借地借家法第36条では、内縁関係や事実婚といった非公式な関係にある同居者の権利を保護しています。
この規定により、法律上の婚姻関係がない場合でも、実質的な家族として築いてきた生活の場が守られます。
ただし、これは相続人が存在しない場合に限られる措置です。
配偶者居住権とは、民法改正により2020年から施行された制度で、配偶者の住まいを守る権利です。
住宅の所有者である配偶者が亡くなった後も、残された配偶者がそれまで住んでいた自宅に住み続けられるようになりました。
配偶者居住権は、法律婚をしている配偶者のみに認められる権利です。
民法第1028条1項で規定されており、被相続人が所有する建物に住んでいた婚姻関係にある配偶者は、終身または一定期間、無償でその家に住み続けられます。
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。 ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。 出典:e-Govポータル|民法 |
配偶者居住権は、婚姻関係にある配偶者の生活基盤を守るための制度です。
遺産分割によって自宅の所有権が他の相続人に移った場合でも、配偶者の居住が保障されます。
ただし、この権利を取得するには、相続開始時にその建物に居住していることが条件です。
また、配偶者居住権を取得後も、たとえば建物をリフォームする場合には、所有者の承諾を得なければいけません。
さらに、第三者への対抗要件として、配偶者居住権の登記が必要です。
配偶者居住権が認められるのは、被相続人が所有していた建物に限定されます。
そのため、賃貸物件には適用されません。
配偶者居住権の施行前は、自宅の評価額が配偶者の遺産分割の取得分を超えてしまうと、他の相続人に代償金を支払う必要があり、これが困難である場合には自宅を手放さざるを得ないケースがありました。
さらに、自宅の評価額が配偶者の取得分以内であっても、自宅を取得すると流動性の高い預貯金などが相続できず、不安定な生活を強いられることもあったのです。
しかし、配偶者居住権の新設で、残された配偶者は自宅の所有権を取得しなくても、居住権を選択することで預貯金などの他の資産を相続しやすくなりました。
この制度により、配偶者は生活資金を確保しつつ、自宅にも住み続けられるというバランスが取れるようになったのです。
居住権なかでも賃借権は、賃借人の生活を守る強力な法的権利です。
借地借家法では、賃借人の居住の安定性を重要視しており、貸主の一方的な判断による退去要求から賃借人を保護しています。
たとえば、オーナーが「建物を売却したいから退去してほしい」といった理由だけでは、賃借人に退去を求めるられません。
このように、居住権なかでも賃借権は借地借家法によって保護されており、賃借人が安心して住み続けられる環境を法的に保障しているのです。
▼居住権が主張できる条件について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
居住権を主張する親族の立ち退きを求めるには?居住権の理由と対処法を解説
賃借人の居住権は法律で強力に保護されているため、不動産オーナーが退去を求める際には、「正当事由」が必要です。
オーナーが居住権で守られている賃借人に退去を求める条件には、以下のものがあります。
賃借人の居住権は借地借家法で守られています。
しかし、賃借人に重大な契約違反があり、信頼関係が破壊されたと認められる場合、オーナーは法的手続きを経て物件の明け渡し請求が可能です。
信頼関係が破壊されたと判断される主なケースとして、以下の契約違反が挙げられます。
ただし、これらの契約違反があっても、即座に退去を求められるわけではありません。
違反の程度や期間、改善の見込みなどを考慮して、信頼関係の破壊が判断されます。
また、違反が軽微な場合や、賃借人が誠実に改善に努めている場合は、明け渡し請求は認められない可能性が高いです。
建物の賃貸借契約において、オーナーが賃借人に立ち退きを求める場合、借地借家法第28条に規定された「正当事由」が必要です。
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。 出典:e-Govポータル|借地借家法 |
正当事由の判断では、以下の要素が考慮されます。
建物の老朽化により建て替えが必要な場合や、オーナー自身が居住を要する場合などが正当事由として挙げられます。
しかし、これらの事情があっても、賃借人の生活基盤を考慮し、適切な立退料の提供がなければ正当事由が認められないケースもあります。
オーナー都合による立ち退き要求は、賃借人の居住権保護の観点から、厳格な要件と適切な補償が必要です。
▼こちらの記事は、立ち退きを求めるための正当事由について書かれています。
立ち退きの正当事由として老朽化は認められるのか?トラブルを防ぐコツを紹介
オーナーが立ち退きを求める際の手順は、ケースによって対応が異なります。
「賃借人に賃貸借契約違反のある場合」と「オーナー都合で立ち退きを求める場合」で退去を求める手順を解説します。
賃貸借契約違反のある賃借人に退去を求める手順は、次の通りです。
家賃滞納が発生した場合、まず電話等で状況確認を行い、その後速やかに(おおむね1週間以内)賃借人宛てに支払を督促する文書を送付します。
この文書には、未納家賃の金額、支払期限、支払方法を明確に記載します。
内容証明郵便での送付が推奨されます。
内容証明郵便による督促文書の発送は、後の法的手続きの証拠としても重要な役割を果たす重要な手続きです。
督促文書の送付から約1カ月が経過しても支払がない場合は、連帯保証人への督促状送付へと移行します。
連帯保証人宛ての文書では、賃借人の滞納状況と保証債務の履行を求める旨を具体的に記載します。
この場合も、内容証明郵便の利用が望ましいでしょう。
なお、これらの督促状に支払がない場合の法的措置の可能性についても言及すると、支払を促す効果が期待できます。
ただし、威圧的な表現は避け、事実に基づいた冷静な文面を心がけてください。
家賃の滞納が3カ月以上続くと、オーナーと賃借人との間の信頼関係が破壊されたと判断される可能性が高くなります。
オーナーは、複数回の督促状送付や支払交渉を経ても家賃の支払がない場合、賃貸借契約を解除するために賃借人に契約解除通知を発送します。
契約解除通知は、法的手続きの証拠として重要なため、必ず内容証明郵便で送付してください。
契約解除通知書には「◯月◯日までに滞納家賃〇〇円の支払がない場合、本通知をもって賃貸借契約を解除する」という具体的な文言を明記します。
また、支払期限として相当な期間(1~2週間程度)の設定が重要です。
契約解除通知に記載された支払期限までに滞納家賃の支払がない場合、契約解除の効果が発生します。
なお、支払期限までの期間が短すぎる場合、支払いのための相当な期間が与えられたとはいえないことから、契約解除の効力が認められる時期が後ろ倒しになる可能性があります。
賃貸借契約の解除後も賃借人が自主的に退去しない場合、オーナーは明け渡し訴訟を提起します。
明け渡し訴訟の流れは、以下の通りです。
口頭弁論では、オーナー側(原告)と賃借人側(被告)の双方に主張・立証の機会が与えられます。
裁判所が提示する和解案には、一般的に建物の明け渡し期限や未払い家賃の分割払いなどの条件が含まれます。
和解が成立せず、オーナー側の主張が認められる判決が下されることになります。
裁判で明け渡しを命じる判決が確定しても、賃借人が住居から自主的に退去しないときは、オーナーは裁判所に強制執行を申立てます。
強制執行の申し立てが受理されると、裁判所は賃借人に明け渡しの催告を行います。
明け渡し催告とは、執行官が現地を訪問して賃借人に明け渡し期限を説明し、強制執行日が記載された公示書を室内に貼り付ける手続きです。
明け渡し催告が行われても賃借人が退去しない場合は、裁判所の執行官による強制執行が断行されます。
▼家賃を滞納した賃借人の強制退去までの流れについて詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
家賃滞納者は強制退去できない?家賃を督促する流れや滞納を未然に防ぐ対策を紹介
正当事由がありオーナーの都合で賃借人に立ち退きを求める手順は、以下の通りです。
※契約期間満了の際に、更新拒絶する場合を例にして説明しています。
オーナーの都合で賃借人に立ち退きを求める最初のステップは、理由の説明から始まります。
多くの賃借人にとって立ち退き要請は予期せぬ事態であり、生活基盤を揺るがす重大な問題です。
そのため、オーナーは一方的な通告を避け、賃借人の立場に配慮しながら立ち退きを求める理由を丁寧に説明し、十分な協議の機会を設ける必要があります。
オーナーが賃借人との契約更新を拒絶する場合、借地借家法の規定により、契約満了日の1年前から6カ月前までの期間内に、更新拒絶の通知を行う必要があります。
この期間を過ぎた通知は法的効力をもたず、契約は自動更新されてしまうため、タイミングが重要です。
更新拒絶通知には、建物の老朽化による建て替えの必要性や、オーナー自身の使用など、法律で認められた正当事由を具体的に記載しなければいけません。
また、通知は後日の紛争を防ぐため、内容証明郵便で送付してください。
立ち退き交渉は、慎重な対応が求められる重要なプロセスです。
転居の時期や立退料などの条件を提示し、賃借人と具体的な交渉をスタートします。
特に立退料については、賃借人の実際の損害や負担を考慮した現実的な金額の提案が必要です。
引っ越し費用の補償だけでなく、新居での家賃差額なども考慮に入れる必要があるでしょう。
また、賃借人にとって立ち退きは生活基盤の大きな変更を伴うため、十分な転居準備期間の確保が欠かせません。
さらに、円滑な交渉のためには、具体的な代替物件の提案も有効です。
仲介手数料の補償に加え、立地や家賃、設備などの条件が現在の物件と近い物件の提案は、賃借人の不安を軽くし、合意形成の促進につながります。
立ち退き交渉で解決できない場合、明け渡し訴訟という選択肢があります。
この訴訟は、オーナーが裁判所に訴状を提出して始まります。
訴状には、立ち退きを求める正当事由や、これまでの交渉経緯などを具体的に記載することが必要です。
裁判所は提出された訴状の確認後、賃借人に特別送達という方法で訴状を送付し、裁判所で口頭弁論が開かれ、双方が主張と証拠を提示します。
この過程で裁判所は、立ち退きの必要性や賃借人の事情を慎重に検討します。
オーナーの正当事由の存在が認められれば、訴えの提起から約2カ月程度で、明け渡しを命じる判決が下されます。
▼賃借人に立ち退きを拒否されたときの対応について詳しく知りたい人は、こちらの記事もご覧ください。
賃借人には借地借家法に基づく強い居住権があり、賃貸物件からの立ち退き要求は、解決が難しい問題であるため、弁護士にサポートを依頼するのが賢明です。
立ち退き交渉は原則として、オーナー本人もしくは弁護士が行う必要があり、不動産管理会社や他の士業などが行うと非弁行為として弁護士法第72条に抵触する可能性があります。
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 出典:e-Govポータル|借地借家法 |
弁護士は立ち退き交渉において、以下のような専門的サポートを提供します。
立ち退き交渉は法的知識だけでなく、高度な交渉スキルが必要とされるため、豊富な経験のある弁護士への依頼をおすすめします。
正当事由の立証や立退料の算定など、専門的な判断が必要な場面では、実績に裏打ちされた弁護士のアドバイスが問題解決の鍵となるでしょう。
▼立ち退き交渉を弁護士に依頼する際の注意点については、以下の記事もお読みください。
立ち退きを弁護士に依頼するデメリットは何?費用や選び方のポイントを解説
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本記事では居住権の権利としての強さと、その権利を有する賃借人に、不動産オーナーが立ち退きを求める際の方法について解説しました。
居住権で強く保護されている賃借人に退去を求めるなら、借地借家法を熟知し、立ち退き交渉に実績のある弁護士に依頼しましょう。
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