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強制退去という言葉を知っているものの「自分には関係ない」と考えている賃貸物件の入居者は少なくありません。
裁判所が毎年公表している「司法統計年報」によると、令和5年に地方裁判所で新たに申し立てられた不動産の強制執行数は5,609件にもなります。
賃貸物件の借主は借地借家法で守られているからといって、強制的に退去を求めることができないわけではありません。
実際に強制退去になると、次の転居先が見つからなかったり、後から高額な請求が来たりする恐れがあるため、注意が必要です。
この記事では、大家から退去を求められた場合や強制退去になった場合に借主が取るべき行動や強制退去のリスク、事前にできる対策を解説します。
大家から強制退去を言い渡されてしまった借主は、ぜひご覧ください。
家賃滞納や騒音トラブルなどで大家から、退去を求められても、その後の借主の態度や対応により退去を回避できる可能性があります。
強制退去を求められた場合、借主がすべき3つの行動は次の通りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
大家から退去を言い渡されたら、まず大家の主張や対応が正しいのか確認しましょう。
大家の中には、不動産の法律関係に精通していない人もいます。
そのため、法的には賃貸借契約を解除することができないにもかかわらず、契約を解除して退去を求めてくることもあります。
たとえば、借主がトラブルに巻き込まれてしまった場合、大家がトラブルの状況を確認せず、一方的に借主を加害者だと決めつけて退去を言い渡している可能性もゼロではありません。
大家が借主を強制退去させるには、トラブルの証明となる証拠や資料を提出し、裁判所に退去させることを認めてもらった上で強制退去の法的手続きを取る必要があります。
大家の対応や強制退去の手順が間違っている場合は、確認を求めて管理会社や専門家へ相談するよう促しましょう。
また家賃滞納という退去を求めるのに理由があったとしても、必ず認められるとは限りません。
たとえば、賃料を滞納していたとしても滞納期間が2カ月以内であれば、大家と借主の信頼関係の破綻が認められず強制退去が認められない可能性もあります。
借主にやむを得ない事情があり、家賃滞納で退去を求められた場合は、謝罪と家賃を支払う意思表示をしましょう。
突発的な出費や収入減など、家賃滞納の原因を大家に説明すれば、理解を得られ、家賃支払いの時間的猶予をもらえる可能性があるためです。
滞納家賃の支払いの猶予を受けている間に、金策を行い滞納家賃を収めれば退去を逃れられるでしょう。
逆に大家から、家賃滞納による退去を言い渡されても、何もアクションをおこさなければ信用を失い「支払う意思がない」とみなされます。
家賃を支払わない場合には滞納家賃がかさみ、厳しい督促を受けるだけでなく強制退去の法的手続きへの移行を招き、強制退去執行を早めてしまう恐れがあります。
強制退去を回避できそうになかったり、家賃を一時的に支払っても賃貸物件に住み続けることが困難だったりする場合は、次の転居先を決めましょう。
強制退去が執行されてしまうと、家賃滞納歴や家賃保証会社のブラックリストに記録され、希望の転居先を見つけても入居審査で落ちやすくなるためです。
運よく転居先が見つかったとしても、引っ越し代や敷金などの転居費用も高額となるため、支払いが困難になる可能性もあります。
詳しくは、後章の強制退去になった場合のリスクで解説します。
家賃滞納やトラブルがあったとしても、大家から突然強制退去を強いられることはありません。
大家が借主を強制退去させるには、法的手続きの流れに沿って、さまざまな準備が必要なためです。
また強制退去の前には、大家からの再三の注意や督促、内容証明郵便による督促や勧告があるのが通常です。
これらを無視してしまうと、強制退去を余儀なくされる恐れがあります。
借主はこれらを無視しないためにも、強制退去になるまでの流れと期間を知っておきましょう。
強制退去の流れ | 期間 |
---|---|
電話・手紙・訪問による家賃支払いの督促や トラブル改善の要求 | 家賃滞納から1カ月程度 |
連帯保証人、または家賃保証会社に連絡 | 家賃滞納から2カ月~3カ月 |
内容証明郵便による督促や注意 | 約1カ月 |
内容証明郵便による賃貸借契約の解除通知 | 約1カ月~2カ月 |
裁判所へ不動産明け渡し請求の申し立て | 約1カ月~2カ月 |
明け渡し請求の訴訟 | |
強制退去執行の申し立て | 約1カ月~2カ月 |
裁判所から立ち退きの督促 | |
強制退去の執行 | – |
強制退去の流れ | 期間 |
---|---|
電話・手紙・訪問による家賃支払いの督促やトラブル改善の要求 | 家賃滞納から1カ月程度 |
連帯保証人、または家賃保証会社に連絡 | 家賃滞納から2カ月~3カ月 |
内容証明郵便による督促や注意 | 約1カ月 |
内容証明郵便による賃貸借契約の解除通知 | 約1カ月~2カ月 |
裁判所へ不動産明け渡し請求の申し立て | 約1カ月~2カ月 |
明け渡し請求の訴訟 | |
強制退去執行の申し立て | 約1カ月~2カ月 |
裁判所から立ち退きの督促 | |
強制退去の執行 | – |
家賃滞納などのトラブル発生から強制退去までの期間は、早くても5~7カ月になります。
強制退去を回避したいならば、大家が法的手続きを行う前に、借主はトラブルを解決する必要があります。
下記の記事では、強制退去の流れを詳しく解説しています。
あわせて参考にしてください。
関連記事:強制退去の流れを7ステップで解説!注意点は費用は?
借主は借地借家法で守られているため、正当な事由がない限り大家は賃貸物件から追い出すことはできません。
しかし、賃料を滞納していたような場合は、以下の事情があれば強制退去の正当な事由として認められ、大家は法的手続きにより借主を強制退去できる可能性があるため確認しておきましょう。
大家は借主が家賃滞納をしてもすぐには退去させられませんが、過去の判例では「家賃滞納が3カ月以上継続している状況」の場合、強制退去が認められています。
もっとも、3カ月というのも1つの目安に過ぎませんので、3カ月滞納していないから解除されないとは限りませんし、3カ月以上滞納しているから解除が認められるとも限りません。
大家が借主に対して再三に渡って家賃の支払いを求めても、全く応じない場合は「貸主と借主の信頼関係の破綻」とみなされ、強制退去が認められる恐れがあるため注意が必要です。
もちろん、賃料を滞納していた以外にも、賃貸借契約に明確な解除条件が記載されていて、借主が契約解除に該当する行為をした場合は「債務不履行」が認められ、強制退去されてしまう可能性はあります。
借主の債務不履行が認められる具体的な行為は、次の通りです。
ただし、賃貸借契約書に解除条件が記載されているからといって、すべてのケースで契約解除ができるとは限りません。
軽微な違反行為だった場合、契約解除や強制退去が認められないこともあります。
借主が家賃を支払う意思を見せなかったり、迷惑行為の改善に努めなかったりすると大家は法的手続きを行い強制退去に踏み切る恐れがあります。
強制退去になった場合、借主に生じるのは次の3つのリスクです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
家賃保証会社と契約しているときに強制退去になった場合、保証会社が立て替えた家賃を期日までに支払わないと借主の情報がブラックリストに登録されます。
また返済が遅くなればなるほど、延滞金が上乗せされるため注意が必要です。
家賃滞納によりブラックリストに登録された借主の情報は、家賃保証会社で情報共有されることも少なくありません。
そうなると新たな転居先でも家賃保証会社を通して、借主がブラックリストに登録された情報が共有され、入居審査に通りにくくなってしまいます。
強制退去になった場合、連帯保証人に多大な迷惑をかけてしまうでしょう。
借主が家賃滞納を理由に強制退去となった場合、連帯保証人にも滞納した家賃や退去にかかる費用の支払い義務が生じるためです。
賃貸物件の連帯保証人になったとはいえ、借主の賃貸物件の大家から突然高額な請求をされてはたまったものではありません。
このことから借主と連帯保証人の信頼関係の破綻は免れないでしょう。
強制退去になると、新たな転居先を見つけるのが難しくなるため注意が必要です。
その理由は次のとおりです。
1つずつ詳しく見てみましょう。
家賃保証会社を連帯保証人として賃貸物件を契約した場合、家賃滞納で強制退去されると、家賃滞納歴が保証会社に記録されるため入居審査が通らなくなります。
強制退去後に新たな物件に契約しようとしても、家賃保証会社が借主の家賃滞納歴を共有しているため、入居審査が通りにくくなるためです。
国土交通省が平成28年に行った「家賃債務保証の現状」調査では次のような結果が出ています。
そのため、強制退去された賃貸物件とは別の不動産会社の賃貸物件を契約しようとしても、家賃保証会社が家賃滞納歴を共有している限りは、新たな転居先への入居は困難になる恐れがあります。
強制退去後に運よく転居後の賃貸物件を見つけることができても、入居に必要な初期費用が足りず転居できない可能性もあります。
大家は強制退去後、民事執行法第42条に従い借主の滞納家賃や引っ越し費用を後から借主に請求することができるためです。
—————-
強制執行の費用で必要なもの(以下「執行費用」という。)は、債務者の負担とする。
このとき、大家は遅延損害金を上乗せして請求することができるため、借主は高額な費用を支払わなければならない恐れがあります。
遅延損害金の利率は民法419条に従い、賃貸借契約に記載した約定利率または法定利率を当てます。
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
たとえば、借主が家賃4万円を5カ月にわたって滞納し20万円の滞納家賃が生じた状態での遅延損害金を計算してみましょう。
なお、遅延損害金の利息率は賃貸借契約で定めることができ、今回は年率10%と定めてあったことにします。
滞納家賃と遅延損害金だけでも20万円以上支払わなければなりません。
さらに退去に伴う費用も家の規模にもよっては40万~60万円かかることから、退去後に100万円近くの支払いが必要となります。
このことから、退去時に費用がなくなり、転居先の初期費用が用意できなくなる可能性から、転居も困難となるでしょう。
強制退去になると転居先の入居審査が通りにくくなったり、大家から高額な費用を請求されたりするリスクが生じます。
ここからは、強制退去になる前に借主が取るべき行動をご紹介します。
それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。
家賃滞納はもちろんのこと、騒音などのトラブルで大家から注意を受けた場合は、まず迷惑行為をしたことを謝罪し改善に努めましょう。
たとえ自分が迷惑行為を自覚していなくても、他の入居者にとっては迷惑行為だと思われていることもあるためです。
ここで大家に怒りの感情をぶつけてしまうと、加害者扱いされて強制退去させられる恐れもあります。
トラブルを拗らせないよう、冷静に対応しましょう。
大家や管理会社に相談しても解決しないときは、専門家に相談するのも1つの方法です。
家賃滞納で強制退去させられそうな場合は、家族や親戚にお金を借りて早急に滞納家賃を支払いましょう。
家賃保証会社が家賃を立て替えた場合、滞納家賃を期日までに支払わないと家賃滞納の履歴がブラックリストに記録されてしまうためです。
家賃滞納の履歴が家賃保証会社のブラックリストに記録されてしまうと、次の転居先探しが困難になります。
連帯保証人を立てていたとしても、家賃滞納が3カ月以上になると、大家から強制退去の法的手続きを取られてしまう恐れもあります。
事情を説明した上で、家族・親戚からの資金援助をお願いしましょう。
ただその場しのぎの資金援助を繰り返すと、家族や親戚からの信頼を失うためご注意ください。
家賃滞納により強制退去させられそうな状況に陥ったら、住み替えの準備をしましょう。
家賃滞納をしてしまうのは、もしかすると今の経済状況に見合わない賃貸物件に住んでいる可能性があるためです。
家賃滞納で強制退去させられると転居探しが困難になりますので、早めの転居がおすすめです。
また、借主が気を付けているのにもかかわらず、騒音主として大家から何度も苦情を受けている場合も、住み替えを検討した方がよいでしょう。
マンションの構造やほかの入居者の音の捉え方は、借主がどんなに配慮しても変えることができないためです。
騒音の改善策を講じても苦情が止まらず、住み続けた場合、トラブルが大きくなり刑事事件に発展してしまう可能性があります。
家賃滞納やトラブルで強制退去になりそうなとき、借主が大家と直接交渉すると感情的になってしまう恐れがあるため弁護士に相談しましょう。
弁護士に任せれば、大家の交渉も代行してもらえるため、精神的な負担を軽減できます。
大家も弁護士と交渉した方が冷静に話せるでしょう。
またトラブルの内容や家賃滞納が強制退去の正当事由に該当するかの判断は大家では難しいので、直接交渉ではトラブルが拗れてしまう恐れがあります。
トラブルを早期解決し、強制退去を避けるためにも、弁護士を介して交渉するのがおすすめです。
借主は借地借家法で守られているため「大家からの強制退去なんてあり得ない」と思い込んでいる人は少なくありません。
しかしながら、実際には年間5,000件の強制退去の申し立てが裁判所で行われています。
今は家賃を毎月収めることができても、何かしらのトラブルにより家賃が支払えなくなる可能性はゼロではありません。
また、家賃滞納でなくても賃貸住宅で発生したトラブルに巻き込まれて、加害者だと決めつけられて強制退去を求められる可能性もあります。
強制退去になると次の転居先探しが困難になるため、強制退去になる前に家賃滞納やトラブルの解決に臨みましょう。
弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属
私のモットーは「誰が何と言おうとあなたの味方」です。事務所の理念は「最高の法務知識」のもとでみなさまをサポートすることです。みなさまが納得できる結果を勝ち取るため、最後まで徹底してサポートしますので、相続問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。