家賃値上げを拒否されたらどうすればいい?オーナーが増額請求で失敗しない対応方法

家賃値上げを拒否されたらどうすればいい?オーナーが増額請求で失敗しない対応方法

家賃の値上げを入居者に拒否されたら、どのような対応方法をとればよいのか頭を悩ますでしょう。

できるだけ退去者を出さずに、家賃の増額を成功させるためには、入居者の心情に寄り添った交渉が必要です。

この記事では、入居者に家賃値上げを拒否された際に、不動産オーナーが賃料増額の正当性を主張するための条件と、とるべき具体的な対策について解説します。

家賃の値上げ交渉でお悩みの方は、不動産のトラブルに強い弁護士法人アクロピースにご相談ください。
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目次

家賃値上げを入居者は拒否できる?

拒否の意思表示

不動産オーナーには、物価の上昇や租税の負担の増加などを理由に、入居者に家賃値上げを提案する権利があります。

一方、入居者も家賃値上げを拒否できます。

裁判による解決によらず、家賃の値上げをするには双方の合意が必要であり、オーナーが一方的に増額することは出来ません。

もし、オーナーの増額請求を入居者に拒否された場合は、家賃を値上げしなければならない理由を丁寧に説明し、理解を得ることが必要です。

交渉が難航し合意に至らないときは、裁判所が間に入って話を進める賃料増額の民事調停や、判決によって紛争の解決を図る賃料増額訴訟に発展するケースもあります。

一般的に賃料増額の民事調停には約3カ月、賃料増額訴訟だと1年以上かかるといわれ、時間と労力を考えると、交渉で合意が成立するのが望ましいといえるでしょう。

家賃値上げ請求の主な条件

家賃値上げの条件

賃貸物件の家賃値上げを可能にする条件は、借地借家法第32条1項に定めがあります。

第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
出典:e-Govポータル|借地借家法

オーナーが入居者に賃料増額の請求ができるのは、従前の賃料を強制することが以下の諸事情を考慮しても、当事者に酷となる場合です。

また、ただし書きの一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がないか注意が必要です。

土地・建物の租税とその他の負担増

借地借家法第32条1項には、土地と建物の租税やその他の費用の負担増との記載があります。

家賃値上げの条件に関連する土地と建物の租税とは、主に固定資産税と都市計画税で、不動産の所有に対して毎年かかる税金です。

固定資産税と都市計画税の税額は、固定資産税評価額をもとに算出されます。

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税の種類税率
固定資産税固定資産税評価額×1.4%(原則)
市町村は必要に応じて1.4%とは異なる税率を条例で定められる
面積が200㎡以下の小規模住宅用地などには特例措置が適用される場合がある
都市計画税固定資産税評価額×0.3%(制限税率)
市町村は税率0.3%を上限に税率を条例で定められる
小規模住宅用地と一般住宅用地には特例措置が適用される場合がある
出典:総務省 地方税制度|固定資産税
出典:総務省 地方税制度|都市計画税

固定資産評価額は3年に1度評価替えといわれる見直しが行われ、直近では2024年に実施されました。

また、その他の負担増とは、賃貸物件の管理費や修繕費、損害保険料などが該当します。

費用項目内容
管理費物件の管理を業務委託した際の管理委託料など
修繕費破損カ所・不具合の修繕など
損害保険料火災保険・地震保険・施設賠償責任保険など

​​このように土地と建物にかかる租税や賃貸物件の維持費用の負担増は、家賃の値上げの考慮事項となります。

土地・建物の価格の上昇と経済事情の変動

所有する土地や建物の資産価値の上昇や物価が高騰しているかが考慮されます。

不動産の価値が上昇すると、オーナーは投資に見合った収益を得るために家賃を調整する必要があります。

また、物価の高騰は金銭価値の低下(インフレーション)を意味するため、家賃を増額しないとオーナーの実質的な収入は目減りするでしょう。

以上の理由から、不動産価格や物価の上昇は賃料増額請求の考慮事項となります。

近隣の類似物件の家賃相場より低い

近隣の類似する賃貸物件の家賃相場より、所有する物件の家賃が低いか否かが考慮されます。

賃貸市場は需要と供給のバランスで成り立っているため、近隣の似た物件の家賃相場が高いことは、その地域の賃貸需要の活況を示しています。

市場の変化に応じて周辺の家賃は上昇しているのに、所有する賃貸物件は値上げしないままでいる状況は、収益機会の損失を招いているといってよいでしょう。

需要に見合った価格にするため、入居者に家賃の増額を申し出ることは正当性があるといえます。

賃貸借契約に家賃を増額しない特約がない

家賃の値上げを請求する際には賃貸借契約で一定期間は家賃を増額しない旨の特約(不増額特約)がないことが求められます。

不増額特約がある場合は、事情の変更よりも特約の条項が優先されるため、値上げの請求ができません。

借地借家法第32条1項には、「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」という内容も記されています。

一方、不増額特約の期間が長期にわたるもので、当事者の予測を大きく超えるような経済的事情の激変があった場合は、増額請求ができるという裁判例(横浜地判昭和39年11月28日)もあります。

賃貸借契約に不増額特約があったとしても、予想不能な社会事情の変更があり、契約内容をそのまま強制するのは不合理であると認められるときは、賃料増額請求は可能です。

家賃値上げを拒否されて交渉で失敗しないための注意点

家賃値上げ交渉を失敗しないためのポイント

家賃値上げ交渉は、話し合いによる解決を目指すのが、時間や費用の面でもっとも効率のよい方法といえます。

オーナーが交渉で入居者に家賃値上げを拒否されないための注意点には、以下の内容があります。

家賃値上げの通知は早めに送る

急な家賃値上げの要求は、入居者の反発を招く可能性があります。​​

そのため、通知を早めに送り、入居者に値上げを受け入れるのか、賃貸借契約を解約するのかを判断する十分な時間を与えることが重要です。

家賃値上げは、入居者の家計に負の影響を与えます。

そのため、オーナーはできる限り入居者に配慮して、円満な解決を図らなくてはいけません。

また、早めの通知は、オーナーにとっても入居者とじっくりと交渉する時間の確保につながります。

家賃値上げ交渉は、入居者の気持ちに寄り添う姿勢を示しながら臨んでください。

家賃値上げ幅は適正な金額にとどめる

家賃の大幅な値上げは、入居者に拒否されるリスクが高く、関係の悪化や退去を招く可能性が高まります。

値上げ幅は入居者が受け入れやすい適度な金額にとどめ、合意が引き出せるよう慎重に決めなければいけません。

日本を代表する経営者の1人である故 稲盛和夫氏は「値決めは経営である」という言葉を残しています。

この言葉が示す通り、経営にとって価格設定は事業の根幹部分です。

不動産オーナーであれば、家賃設定は入居率と収益に直結し、賃貸経営の成否を分ける重要な要素です。

そのため、家賃の値上げ幅は入居者の納得が得られ、かつ、賃貸経営の継続が可能な金額に設定する必要があります。

家賃値上げと入居者のメリットを組み合わせる

家賃値上げ交渉を円滑に進めるには、入居者にとってのメリットを同時に提示するのも効果的です。

共用部分の改修や室内に新しい設備の導入などを、家賃の値上げとセットで提案することも検討に値します。

入居者にメリットがある具体的な施策には、以下のものがあります。

  • インターネット環境の改善
  • エントランスの改装
  • セキュリティ設備の強化
  • 省エネ設備の導入 など

共用部分や室内設備のリニューアルにより、入居者満足が向上し、物件価値も上がる可能性があります。

結果的に、家賃値上げの理解が得られやすくなり、オーナーと入居者ともにWin-Winの関係が築けるでしょう。

家賃値上げを入居者に求める対応方法

家賃値上げ入居者への対応方法

家賃の値上げは、オーナーと入居者の合意が必要です。

オーナーは話し合いの中で増額の理由を丁寧に説明し、入居者に納得してもらわなければいけません。

しかし、双方の合意が得られず交渉がまとまらない場合は、民事調停や訴訟に発展するケースもあります。

家賃値上げ交渉は、以下の手順で行います。

  1. 賃料増額請求を意思表示する
  2. 入居者に家賃値上げの理由を丁寧に説明する
  3. 交渉がまとまらない場合は賃料増額請求の調停申立を行う
  4. 調停が不成立なら賃料増額訴訟を提起する
  5. 家賃値上げが裁判で認められたときは差分を請求する

1.賃料増額請求の意思表示をする

家賃値上げの最初のステップは、入居者への賃料増額請求の意思表示です。

オーナーがもつ賃料増額請求権は、権利者の一方的な意思表示によって法律関係を変動させられる形成権です。

形成権の性質により、オーナーの意思表示が入居者に到達したときから法的な効果が生じます。

そのため、賃料増額請求の意思表示の到達時期を明確にする必要があり、通知書は内容証明郵便で発送するのが一般的です。

2.入居者に家賃値上げの理由を丁寧に説明する

入居者にとって家賃の値上げは、家計に影響を与え、日々の生活を圧迫する要因になりかねません。

そのため、オーナーは入居者の声にしっかり耳を傾けながら、値上げの根拠を示し、話し合いを進める必要があります。

交渉の場では、値上げの理由について具体的な指標を交えて丁寧に説明すると、入居者の納得を得られる可能性が高まります。

また、入居者の生活への影響を配慮して、段階的な値上げの提案も検討するとよいでしょう。

賃貸経営は、オーナーと入居者の信頼関係が重要です。

双方が納得する結果が得られるように、丁寧で粘り強い交渉を行ってください。

3.交渉がまとまらない場合は賃料増額請求の調停申立を行う

家賃の値上げが話し合いで解決しない場合は、裁判所に賃料増額請求の調停申立を行います。

借地借家法に基づく賃料増額請求事件では、民事調停法第24条の2第1項により、訴訟を提起する前に調停を申し立てなければならないと定められています。

第二十四条の二 借地借家法(平成三年法律第九十号)第十一条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第三十二条の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。
出典:e-Govポータル|民事調停法

調停では、裁判官の他に通常不動産鑑定士が調停員として加わり、双方の主張を聞き取ったあと、公平な立場から適正賃料の試案が提示されます。

調停員から出された試案でも合意に至らない場合は、調停委員会は民事調停法17条に基づき、調停に代わる決定を下すことがあります。

第十七条 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。
出典:e-Govポータル|民事調停法

当事者は、この決定に対して2週間以内に異議の申し立てが可能です。

異議の申し立てがない場合は、決定内容に同意したものとみなされます。

4.調停が不成立なら賃料増額訴訟を提起する

家賃値上げの調停が不成立、または、調停に代わる決定に異議申し立てがある場合は、賃料増額訴訟を提起します。

賃料増額訴訟は、一般的に以下の流れで進行します。

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1訴状の提出オーナーが裁判所に訴えを提起
2答弁書の提出入居者側の反論
3準備書面のやりとり双方が主張を展開
4不動産鑑定必要に応じて不動産鑑定士などの専門家が物件を評価

これらの手続きを経て、裁判上の和解の成立か判決が下されます。

不動産オーナーと入居者の民事調停や訴訟は、建て替えによる立ち退き交渉でも発生する可能性があります。

アパートの老朽化による立ち退き交渉で困りの方は、こちらの記事もご覧ください。

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5.家賃値上げが裁判で認められたときは差分を請求する

裁判所が賃料の増額を認めた場合、借地借家法第32条2項に基づき、増額請求時に遡って差額賃料と年利10%の遅延損害金が請求できます。

第三十二条2 建物の借賃増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、すでに支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
出典:e-Govポータル|借地借家法

この規定は、長期化する可能性のある賃料増額交渉で、オーナーの利益を保護する役割を果たしています。

賃料増額請求の調停と訴訟の費用

簡易裁判所

裁判所に賃料増額請求の判断を下してもらう場合、調停の申立てと訴訟の提起には費用がかかります。

調停と訴訟の費用の内訳は、以下の通りです。

申立手数料と郵便料金

賃料増額請求の調停と訴訟には、申立手数料と予納郵券の納付が必要で、費用は家賃の値上げを求めるオーナーが負担します。

調停の申立ては、物件の所在地を管轄する簡易裁判所に行い、申立手数料は印紙、予納郵券は切手で納めます。

賃料増額請求の申立手数料の計算式は、次の通りです。

(改定賃料-現行賃料)×平均審理期間(12カ月)で調停価額を算出し各裁判所の早見表で申立手数料を確認

改定賃料が15万円、現行賃料が10万円の場合の千葉簡易裁判所を例にすると、調停申立手数料は以下のように計算します。

{15万円(改定賃料)-10万円(現行賃料)}×12カ月(平均審理期間)=60万円
算出した調停事項の価額から千葉簡易裁判所の早見表で確認すると申立手数料は3,000円

予納郵券は申立て人数と相手方の人数の合計で異なり、千葉簡易裁判所の例では、以下の通りです。

申立て人数+相手方の人数が2人の場合2,648円
申立て人数+相手方の人数が3人の場合3,932円
申立て人数+相手方の人数が4人の場合5,206円
申立て人数+相手方の人数が5人の場合6,470円
申立て人数+相手方の人数が6人の場合7,734円
出典:裁判所-Courts inJapan 簡易裁判所に「賃料等調停の申立て」をしたい方のために

訴訟を提起する場合も、申立手数料と予納郵券を原告であるオーナーが納付する必要があります。

訴訟の申立手数料も改定賃料と現行賃料の差額に平均審理期間を掛け算し、算出した訴額から早見表で申立手数料を確認します。

改定賃料15万円、現行賃料10万円、平均審理期間12カ月で訴額が60万円の場合、手数料早見表で確認すると6,000円です。

賃料増額請求訴訟の予納郵券は東京地方裁判所を例にすると、原告と被告それぞれ1名の場合は6,000円、1名増えるごとに2,388円追加して納めます。

出典:裁判所-Courts inJapan 東京地方裁判所への民事訴訟事件又は行政訴訟事件の訴え提起における郵便切手の予納額について

不動産鑑定士費用

賃料増額訴訟でオーナーと入居者の和解が成立せず、裁判所が判決を下す際、適正な賃料を認定するため、不動産鑑定士に鑑定を依頼する場合があります。

裁判所が依頼する不動産鑑定士の公的鑑定書の費用は50万円程度かかるのが一般的です。

不動産鑑定士は、国家資格を有する不動産の経済価値を判定する専門家です。

裁判官は不動産に関する専門的な知識をもっているわけではないため、不動産鑑定士に適正賃料を鑑定させて判断を下します。

弁護士費用

賃料増額請求で調停申立を弁護士に依頼する場合の費用は、着手金が20万〜50万円、報酬金が20万〜50万円が相場です。

弁護士への依頼は費用がかかりますが、法律的な観点から現在の家賃が不当に低いことを主張し、早期解決を図ることで、結果的に賃貸経営のコスト削減につながる可能性があります。

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不動産トラブルで弁護士に依頼する際の費用について知りたい方は、こちらもご覧ください。

関連記事:不動産トラブル解決のための弁護士費用

まとめ|家賃値上げ交渉は弁護士に依頼する

家賃値上げ交渉は弁護士に依頼

家賃の値上げを入居者に拒否された場合の、対応方法について解説しました。

  • 裁判によらず賃料を値上げするには入居者の合意が必要
  • 家賃値上げの際には、租税や管理費用の上昇、物件価格や物価の高騰、近隣の類似物件よりも家賃が低い事情などが考慮される
  • 家賃の値上げ交渉をスムーズに進めるには「賃料増額の通知を早めに送る」「値上げを少額にとどめる」など入居者に寄り添う姿勢が重要
  • 家賃の値上げを請求する流れは「1.家賃増額の意思表示」「2.入居者との話し合い」「3.賃料増額請求の調停申立て」「4.賃料増額訴訟」の順
  • 賃料増額請求にかかる裁判費用には、申立手数料、予納郵券、不動産鑑定料、弁護士費用などがある

家賃の値上げを入居者に申し出て拒否された場合は、不動産のトラブルに強い弁護士に依頼して、交渉を有利に進めましょう。

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この記事を執筆した人

弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属

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