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賃借人が家賃を滞納したまま退去してしまった場合、賃借人の行方もわからず家賃回収が難しくなるケースも多くあります。
家賃回収の成功率を上げるには、正しい手順で手続きを進めることが重要です。
この記事では、家賃の回収に頭を悩ませている賃貸物件のオーナーの方に向けて、次の内容について詳しく解説しています。
家賃回収のために何から始めたら良いかわからないという方は、ぜひ最後までご覧ください。
賃借人が家賃を滞納したまま退去した場合、賃貸人としては家賃の回収と建物の原状回復という2つの問題を抱えることになります。
賃借人が無断で退去した場合でも、賃貸借契約が自動的に解除されることはありません。
そのため、賃貸人が勝手に部屋の中に入ったり、中の荷物を捨てたりすると、逆に住居侵入罪や器物損壊罪で処罰される可能性があります。
2つの問題を解決するためには、賃貸人は、家賃を回収するための手続きだけでなく、賃貸借契約を解除して物件を使える状態に戻すための手続きも進める必要があります。
賃貸借契約における賃借人の権利は、借地借家法で強く保護されています。
賃貸人が自身の権利を主張する際は、さらなる問題を発生させないよう法律に従って正しい手順で手続きを進めることが重要です。
賃借人が家賃を滞納したまま退去してから、家賃を回収し物件を使える状態に戻すまでには、次の流れで手続きを進めます。
家賃回収の成功率を高め、早く物件を使える状態にするには、各段階で必要となる具体的な手続きを理解しておくことが重要です。
ここからは、それぞれの段階の手続きについて詳しく解説します。
まずは、電話や郵便などで連帯保証人や本人との接触を試みることから始めてください。
連帯保証人には、本人に代わって滞納している家賃を支払う義務があります。
住所や勤務先がはっきりしている連帯保証人がいれば、家賃の回収はスムーズに行える場合も多いでしょう。
賃貸借契約を締結する際に、賃借人が所在不明になったときに連帯保証人に賃貸借契約の解除権を付与する特約を結んでいたときには、連帯保証人が賃貸借契約を解除することもできます。
ただし、連帯保証人に賃貸借契約の解除権を付与する特約は、消費者契約法10条に違反するものとして無効になる可能性があるため注意が必要です。
本人と連絡が取れないときや、連帯保証人が賃貸借契約の解除に対応できないときには、次のステップに進むことになります。
本人と連絡が取れないときや、連帯保証人からの回収が難しいときには、督促状を内容証明郵便で送付します。
内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送付したのかを郵便局が証明してくれるサービスのことです。
内容証明郵便には、後に訴訟を提起する際の証拠としての役割もあります。
ここからは、内容証明に記載すべき事項と本人の所在がわからないときに送付先を調べる方法について解説します。
家賃回収の内容証明に記載すべき事項は、次のとおりです。
【記載例】
貴殿は、令和6年1月から本日に至るまで、〇〇物件の月額賃料10万円について合計50万円を滞納されています。つきましては、本通知書の受領から1週間以内に、未払賃料50万円を下記口座への振込入金によりお支払いください。 また、本通知書の受領から1週間以内にお支払いいただけない場合、賃料未払いを原因として貴殿との賃貸借契約を解除いたします。 なお、期限内に対応いただけない場合には、訴訟や強制執行等の法的措置を採ることになりますので、予めご承知おきください。 |
賃借人が家賃を滞納したまま退去した場合には、賃借人の所在がわからなくなっているケースも多いでしょう。
賃借人の所在を調べるには、住民票を取得する方法があります。
賃貸人は、家賃を回収するという権利を行使するために、本人でなくても住民票の請求が可能です(住民基本台帳法第12条の3第1項)。
また、弁護士であれば職務上請求により、本人の戸籍謄本や住民票を取得できます。
ただし、賃借人が住民票を移動していないときには、住民票を取得しても賃借人の所在を掴めません。
その場合には、公示送達を利用すると、支払請求や解除についての意思表示が相手に到達したものとすることができます。
公示送達とは、意思表示の相手方が所在不明である場合に、意思表示が相手に到達したものとして扱ってもらうための手続です。
なお、公示送達は、訴訟を提起するときにも利用できます。
訴訟の提起が避けられない状況の場合には、意思表示の公示送達は利用せず、訴訟を提起する際にのみ公示送達を利用するのが通常です。
裁判外の手続で解決できないときには、訴訟を提起します。
訴訟では、賃料請求に加えて、賃貸借契約の解除と建物の明け渡しを求めます。
連帯保証人がいる場合には、連帯保証人に対する賃料請求の裁判を同時に提起することも可能です。
賃借人が家賃を滞納したまま退去した場合の裁判では、賃借人が事実関係を争うのは難しいでしょう。
そのため、裁判手続にかかる平均的な期間としては3か月から半年程度となっています。
賃借人の所在がわからず公示送達によって訴状を送達するケースや賃借人が裁判を欠席したケースでは、初回の裁判で結審となることも多いでしょう。
退去前に賃貸借契約が解除されていたなど賃貸借契約の解除と建物の明け渡しが不要なケースでは、支払督促や少額訴訟の利用も選択肢となります。
支払督促は、簡易裁判所を利用して債務の支払いを督促する手続きです。
相手方が支払督促に異議を述べず、支払督促が確定したときには強制執行ができるようになります。
ただし、相手方が支払督促に異議を述べたときには、手続きが通常の訴訟に移行します。
支払督促は、相手方が支払督促を無視して、異議なく支払督促が確定する可能性が高い場合に有効な手段といえるでしょう。
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、1回の審理で結審する手続です。
滞納している家賃の額が60万円以下のケースでは、短期間で手続きを終わらせるのに有効な手段といえます。
ただし、少額訴訟についても、相手方が通常訴訟を希望する旨を裁判所に対して申し出ると通常の訴訟に移行します。
訴訟や支払督促などで債務名義を取得すると、強制執行が可能となります。
家賃を回収するには、強制執行により、賃借人や連帯保証人の財産を差し押さえることになります。
差し押さえの対象としては、預金口座、給与、物件内の残置物、不動産などが挙げられるでしょう。
賃借人の所在が不明の場合でも、家賃の引き落としに利用していた預金口座の差し押さえや、連帯保証人の勤務先からの給与の差し押さえによって賃料を回収できる可能性があります。
物件を使える状態に戻すには、建物明渡執行を行うことになります。
建物明渡執行は、執行官が賃借人の占有を解いて、賃借人に占有を取得させる手続です(民事執行法168条1項)。
物件の中に賃借人の残置物があるときには、執行官が運び出して保管したうえで、後に廃棄ないし売却の手続きを行います。
家賃回収の手続きを進める際には、次の3点に注意が必要です。
それぞれの注意点について詳しく解説します。
家賃を滞納したとしても、賃貸借契約が自動的に解除されることはありません。
賃貸借契約の継続中に部屋に立ち入ると、逆に賃借人から訴えられる可能性もあるため注意が必要です。
民法には自力救済禁止の原則があります。
たとえ、自分自身の権利を実現するためであっても、法律に違反する実力行使は禁止されているのです。
賃貸借契約が継続している限り、物件を占有する権利は賃借人にあります。
賃貸人が無断で部屋に立ち入った場合には、住居侵入罪で処罰される可能性があります。
家賃回収と建物の明け渡しの手続きを進める際は、法律に従って、強制執行前に勝手な判断で部屋に立ち入らないよう注意してください。
賃貸人が違法行為を行わないために注意すべきこととして、詳しくはこちらの記事も併せてご覧ください。
参考記事:家賃滞納者に対する催促が違法行為にならないための注意点
賃貸借契約を解除するには、解除原因が必要です。
賃借人が何か月も家賃を滞納している場合は問題がありませんが、滞納期間が1か月や2か月では賃貸借契約の解除は認められません。
賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の信頼関係に基づく継続的な契約です。
そのため、賃貸借契約の解除が認められるためには、賃料の不払いといった債務不履行の事実があるだけでは足りず、賃貸人と賃借人の信頼関係を破壊するほどの事情が必要となります(信頼関係破壊の法理)。
家賃の滞納については、滞納期間が3か月を超えると信頼関係の破壊が認められる可能性が高くなっています。
滞納期間が短い場合には、家賃を回収できたとしても賃貸借契約の解除が認められない可能性がある点には注意が必要です。
滞納家賃の回収手続きでは、手続きを進めても家賃や手続きにかかった費用を回収できない可能性があります。
特に、賃借人が所在不明となっており、連帯保証人もいないようなケースでは、家賃を回収できずに終わることも多いでしょう。
しかし、家賃の回収が難しいケースでも、賃貸借契約を解除して物件を使える状態に戻すには、手続きを進める必要があります。
物件を塩漬けにしてしまわないためには、早期に弁護士に依頼して建物の明け渡し手続きを進めるべきです。
今回は、家賃を滞納したまま退去された場合の対処法として、次の内容について解説しました。
滞納家賃の回収と残置物の撤去にお悩みの方は、弁護士までご相談ください。
家賃を回収するには裁判所での訴訟や強制執行手続きが必要となる可能性が高く、専門的知識がなければ手続きを進めるのが難しいケースが多くなっています。
弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属
私のモットーは「誰が何と言おうとあなたの味方」です。事務所の理念は「最高の法務知識」のもとでみなさまをサポートすることです。みなさまが納得できる結果を勝ち取るため、最後まで徹底してサポートしますので、相続問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。