「生前に全額の預金を引き出すこと」は節税になる?亡くなる前に預金を下ろす問題点と対応方法を解説

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弁護士法人アクロピース代表弁護士(弁護士・税理士)

 

所属団体
東京弁護士会:登録番号48554
東京税理士会:登録番号155401

相続分野を重点的に扱い、これまで累計7,000件以上の相続相談に対応してきました。遺産分割や遺留分、不動産を含む相続トラブルから、生前対策・遺言書作成まで幅広く経験しています。
「誰が何と言おうと依頼者の味方である」ことを信念に、スピードと実行力を重視した対応を心がけています。

「親が亡くなると口座が凍結されてしまうのではないか」
「生前に預金を引き出しておけば、相続税を節税できるのではないか」

このような不安や疑問から、生前に預金を引き出すことを検討されている方は少なくありません。しかし、安易な引き出しは節税にならないどころか、税務調査での指摘や親族間トラブルの火種となるリスクがあります。

本記事では、生前の預金引き出しに関する誤解と正しい対策について、弁護士の視点から解説します。

記事の要点・結論

節税効果の有無:生前に全額引き出しただけでは節税にならず、タンス預金も相続税の課税対象となる。

生前の預金引き出しによるリスク:使途不明金は横領や損害賠償請求の対象となり、遺産分割協議が困難になる原因となる。

推奨される対策方法:手元資金が必要な場合は、法的効力のある仮払い制度の利用か、相続人全員の同意を得る。

弁護士への相談:少しでも不安点がある場合は、トラブルになる前に弁護士への相談が重要。

弁護士法人アクロピースでは、相続問題に強い弁護士が、あなたの状況に合わせた最適なアドバイスを提供します。

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目次

「生前に全額引き出し」は基本的に節税にはならない

「亡くなる前に預金を現金化して手元に隠しておけば、相続税はかからない」と考える方がいますが、これは大きな誤解です。

税務署の調査能力は非常に高く、単に現金化しただけでは資産を隠すことはできません。むしろ、多額の現金を自宅で管理することは、リスクを増大させる結果となります。

なぜ「生前の引き出し」が節税にならないのか、その理由を詳しく解説します。

弁護士 佐々木一夫

監修者コメント
税務署は「被相続人が亡くなった直後の預金変動」を最重要項目としてチェックします。意図的に隠そうとしたと判断されれば、重加算税などの重いペナルティが課されかねません。

「バレないだろう」と安易に判断すると、結果として納税額を増やすことになる可能性があるため注意が必要です。

現金のタンス預金も相続税の課税対象

銀行から引き出した現金(タンス預金)も、相続財産の一つです。

預金という形態が現金に変わっただけであり、資産価値そのものは減少しません。相続税の計算においては、預金残高と同様に課税対象として計上する必要があります。

また、現金を自宅で保管することには、以下のようなデメリットがあるため注意が必要です。

項目タンス預金のリスク・デメリット
節税効果なし(預金と同じく課税対象)
紛失リスク火災、地震、盗難により消失する恐れがある
立証責任使途を証明できない場合、全額が相続財産とみなされる

税務署は「直前引き出し」や「使途不明金」を必ずチェックする

税務調査において、税務署は過去の預金履歴を徹底的に調査します。具体的には、過去5〜10年分にさかのぼって入出金の記録を確認することが一般的です。

とくに以下のポイントは、必ずチェックされると考えておきましょう。

税務署がチェックするポイント
  • 死亡直前に多額の引き出しがないか
  • 定期的に一定額の引き出しが続いていないか
  • 引き出された現金の使い道が明確か(領収書などはあるか)
  • 被相続人の収入や生活水準と、残された財産額に矛盾がないか

多額の現金が引き出されているにもかかわらず、その使途が不明な場合、税務署は「手元に現金として残っている(相続財産である)」と認定します。

弁護士 佐々木一夫

引き出して隠そうとしても、お金の流れを追跡されれば簡単に発覚すると覚えておきましょう。

生前贈与の場合は節税対策になる可能性がある

第3者が名義人の許可を得て預金を全額引き出すのであれば、生前贈与とみなされます。この場合、相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円までは贈与税を非課税にすることが可能です。

相続税法第21条の12

相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。

一 2,500万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格

引用:e-Gov法令検索|相続税法第21条の12

この制度では年110万円までの生前贈与は基礎控除が認められているため、年間110万円を超える部分についてのみ相続財産に加算すれば問題ありません。

弁護士 佐々木一夫

対象となる子や孫への生前贈与が非課税または低税率になるため、大幅な節税効果が見込めます。

「生前に全額預金を引き出しておくべき」との噂を解説

預金口座


生前に全額預金をおろす必要があるとの噂が広まっています。

この噂を信じて、銀行の預金を本人の同意を得ずに全額おろしてしまう方もいるでしょう。

噂の内容としては、次の2つがあります。

それぞれの噂について詳しく見ていきましょう。

名義人が亡くなると口座を凍結されて生活費を引き出せなくなる

銀行口座の名義人が亡くなると、口座が自動的に凍結され、生活費を引き出せなくなるとの噂があります。

名義人が亡くなった情報が銀行に伝わるまでは口座が凍結されることはありません

相続人や関係者が死亡を銀行に届け出た際に口座が凍結されます。

相続人が特定できない場合や、相続人間での紛争が発生した場合などでは、口座の凍結が解除されるまでに時間がかかることがあります。

あらかじめ生活費分の贈与を受けたり、生命保険に加入しておいたりして、名義人が亡くなった後に遺族が生活に困ることがないように対策が必要です。

遺族のお金として扱えることで相続税を節税できる

生前に名義人の口座からお金を全額おろしておくと、相続税を節税できるとの噂があります。

相続税は、被相続人の死亡時の相続財産に基づいて算出するため、あらかじめ親族のお金にしておくことで相続税を節税できるものとの考え方です。

弁護士 佐々木一夫

相続税の節税になるかどうかは、許可を得て贈与の形で受け取るか、無許可でおろすかによって結果が異なります。

生前に預金を許可なく引き出すことの問題点

お金


生前に名義人の口座から預金を許可なくおろすことには、次の問題点があります。

結論として、生前に名義人の口座から預金をおろすことは相続税の節税にならないばかりか、相続人同士の間でトラブルになるおそれがあるため、行うべきではありません。

それぞれの問題点について詳しく見ていきましょう。

親族相盗例でも「横領」の事実は残る

「親族間でお金を盗んでも罪にならない」という話を聞いたことがあるかもしれません。

確かに、刑法第244条(親族相盗例)により、配偶者や直系血族の間での窃盗や横領は、刑の免除や親告罪となる特例があります。

しかし、これはあくまで刑事罰を受けない可能性があるというだけです。

横領や窃盗という犯罪事実そのものが消えるわけではありません。以下のような重大な法的責任は依然として残ります。

親族相盗例で残る法的責任
  • 民事上の責任:不法行為として、損害賠償請求を受ける義務
  • 返還義務:不当に得た利益として、引き出したお金を返す義務

「刑務所に行かなくて済むから大丈夫」と考えるのは危険です。民事裁判で訴えられれば、社会的信用を失うことにもつながります。

相続人から損害賠償・不当利得返還請求をされる恐れがある

生前に預金を許可なく全額おろすと、相続人間でトラブルが発生する可能性があります。

前述した不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権によってトラブルになるだけではなく、不信感によって関係性が悪化したり、被相続人に対しても疑念を抱いたりすることになりかねません。

事前に聞いていた相続財産と実際の財産の額が一致しない場合、口座の利用明細を取り寄せて原因を探ります。

預金を全額おろした時間や方法が明確になるため、他の相続人に知られずに不当に財産を得ることは不可能です。

被相続人は、相続人同士が争うことは望まないことが通常です。

そのため、生前に預金を許可なく全額おろすことは避けるべきでしょう。

相続問題で迷った際の
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遺産分割協議でのトラブルに発展する可能性がある(特別受益の持ち戻しなど)

使途不明金が見つかると、他の相続人は「特定の人だけが得をしているのではないか」と疑心暗鬼になります。このような不信感は、遺産分割協議が難航する主な原因です。

具体的には、以下のような悪循環に陥るリスクがあります。

スクロールできます
遺産分割協議の停滞・使途不明金(特別受益)の持ち戻し計算で揉める
・全員の合意が得られず、協議がまとまらない
預金凍結の長期化・協議が整わないため、銀行口座の凍結解除手続きができない
・本当に必要な資金すら引き出せない状況が続く
親族関係の断絶金銭トラブルを機に、兄弟姉妹の縁が切れてしまう

「とりあえず引き出しておこう」という軽い行動は、解決まで数年を要する泥沼の争いを招く可能性があるため避けましょう。

本人のために預金を使う場合は問題にならない

握手


預金をおろしたとしても、本人のために使う場合は問題になりません

たとえ、健康状態を理由に預金の引き出しの承諾を表明できなかったとしても、引き出されたお金を本人のために利用した場合、本人がその事実を知ったとすれば承諾していたであろうと判断されます

たとえば、本人が入院しており、本人の医療費や生活費などのために本人の預金を引き出し、その支出に充てるケースが該当します。

弁護士 佐々木一夫

このようなケースでは、本人の生活と利益のための資金として使用しているため、法的な問題は発生しません。

生前に預金をおろす場合は、1円たりとも本人以外のために使わないことが重要です。1円でも自身や他の相続人のために使用すると、生前贈与とみなされる可能性があります。

また、本人のために使うと言いながら自分や他の相続人のために使うと、不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権により請求を受ける可能性があります。

生前に預金を引き出すことが問題になるケース

預金の引き出し


生前に預金を引き出すことは、必ず問題になるわけではありません。

以下に該当する場合は、法的な問題や相続人間でのトラブルにつながります。

それぞれの問題点について、詳しく見ていきましょう。

本人が引き出して相続人のために使用した

本人が引き出して相続人のために利用した場合、相続の際に特別受益とみなされる可能性があります。

特別受益とは、生計の資本、または婚姻および養子縁組に関連する費用として贈与を受けた財産のことです(民法903条1項)。

特別受益は、相続分を生前にあらかじめ渡しておいた財産とみなされ、相続財産に持ち戻して計算されます。

例えば、母親の1億円の財産を兄弟で5,000万円ずつ相続するところ、生前に4,000万円を兄が受け取っていた場合を見てみましょう。

この場合は単純に兄弟で5000万円ずつ相続したのでは生前に4000万円を受け取っている兄と弟では不公平が生じるため、生前に兄が受け取った4,000万円を相続財産に持ち戻し、遺産が1億4000万円あると仮定して、1億円を2人で分割します。

法定相続分に従って各相続人の相続分を計算すると、1人7000万円遺産として受け取れることになります。

ですが、すでに兄は4,000万円を受け取っているため、生前に受け取った分を控除して、実際に相続できるのは3,000万円です。

ただし、生前贈与分を考慮せずに遺産分割を行うように意思を示していた場合は、持ち戻し計算の対象外です(民法903条3項)。

相続人が引き出して第3者が使用した

本人の口座から相続人がお金を引き出して、自身や本人以外の人物のために使用した場合、本人は相続人に対して不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権を得ます。

そのため、本人の許可なく引き出したお金の返還や、被った損害に対する賠償金の支払いを請求されます

ただし、本人の許可を得たうえでキャッシュカードや通帳、印鑑などでお金を引き出す場合は、「本人が引き出して相続人のために使用した」と同様の扱いです。

弁護士 佐々木一夫

本人が亡くなって相続が発生した場合、不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権を相続人全員が分割して相続されるため、追求から逃れることはできません

どうしても生前に引き出す際に「揉めない」ための対策

お金の計算


生前に預金を全額おろす場合、トラブルを防ぐために次の注意点を守りましょう。

それぞれ、詳しく解説します。

使途を証明する「証拠」を残す

やむを得ず生前に預金を引き出す場合は、何のために使ったかを客観的に証明できる証拠を残すことが必須です。

記憶は曖昧になりやすく、後日のトラブルでは証拠がない主張は認められません。以下のリストを参考に、徹底した記録管理を行いましょう。

スクロールできます
必ず残すべき証拠書類・領収書(宛名は被相続人の名前にする)
・請求書、見積書
・クレジットカードの利用明細
・医療費や介護費用の明細書
作成しておくべき記録・家計簿(日付、金額、内容、店名を記載)
・介護日誌(病院への付き添いや買い物の日付を記録)
・出金伝票(いつ、誰が、いくら引き出したかをメモ)

これらの資料と、通帳の出金履歴の日付・金額が一致していれば、私的な使い込みではないことを証明できます。

他の相続人に引き出す事実を共有する

生前に本人の許可を得たうえで預金を全額引き出す際は、他の相続人にその事実を知らせることが重要です。

これにより、無用なトラブルや紛争を未然に防ぐことができます。

例えば、一部の相続人だけが預金引き出しの事実を知っていると、他の相続人が不信感を抱く可能性があります

そのため、透明性を保つためにも、預金引き出しの事実は全ての相続人に知らせることが重要です。

また、知らせることで相続人間の信頼関係が損なわれることも防ぐことができます。

弁護士 佐々木一夫

預金引き出しの事実を隠すことは、後々の相続手続きや財産分割において、不信感や対立を引き起こす可能性があります。

本人の意思確認が難しい場合は「成年後見制度」を検討する

認知症などで本人の判断能力が低下している場合、家族であっても勝手に預金を引き出すことはリスクが高い行為です。

本人の同意を得られない引き出しは、法的に無効とされるだけでなく、横領とみなされる可能性があります。

このような場合は、「成年後見制度」の利用を検討してみてください。

成年後見制度を使用することで、以下のようなメリットが得られます。

成年後見制度を使用するメリット
  • 堂々と預金の引き出しができる
  • 家庭裁判所の監督下にあるため、他の相続人からの疑いを防げる
  • 介護施設への入所契約なども代行できる

成年後見制度を利用すれば、家庭裁判所に選任された後見人が、本人に代わって合法的に財産管理を行えます。

弁護士 佐々木一夫

手続きには数か月かかることもありますが、安全かつ確実に財産を守るための有効な手段の一つです。

不安なことがあればすぐに弁護士に相談する

「預金の管理方法に不安がある」「親族から使い込みを疑われそう」

少しでも上記のような懸念がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが大切です。

弁護士が介入することで、以下のようなメリットが得られます。

弁護士が介入するメリット
  • 適切な財産管理の方法について助言を受けられる
  • 将来の紛争リスクを予測し、対策を講じられる
  • 弁護士が窓口となることで、親族との直接的な対立を回避できる

とくに、相続問題に精通した事務所であれば、あなたの状況に応じた具体的な解決策を提案可能です。トラブルが起きてからではなく、起きる前の予防として無料相談を活用してみてください。

弁護士法人アクロピースでは、相続問題に強い弁護士が、あなたの状況に合わせた最適なアドバイスを提供します。

初回60分の無料相談を実施しているため、トラブルが大きくなる前にまずはお気軽にご相談ください。

弁護士法人アクロピースの無料相談に関するQ&A

Q. 無料相談だけでも利用できますか? 

もちろん可能です。 相談だけでお悩みが解決する場合も多々あります。 無理に依頼をすすめることもないため、お気軽にご利用ください。

Q. 弁護士費用はいつ、どのタイミングで決まりますか? 

正式にご依頼いただく前の相談時に明確にご提示します。ご依頼の内容や難易度に応じてお見積もりを作成し、費用について十分にご納得いただいてから契約となります。後から不透明な追加費用が発生することはありません。

Q. 相談したら必ず依頼しないといけないのですか? 

その必要はありません。 提案内容や費用を持ち帰っていただき、ご家族でじっくり検討していただけます。信頼できると感じていただいた場合のみ、ご依頼いただければ構いません。

丁寧にお話をお伺いします。
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亡くなってから預金を全額おろすまでの流れ

連絡


本人が亡くなってから遺族が預金を全額おろすまでの流れは次のとおりです。

それぞれにかかる日数や必要書類などについて、詳しく解説します。

1.金融機関に連絡

名義人が亡くなった際は、その旨を金融機関に電話で伝えましょう

金融機関は連絡を受けたらすぐに口座を凍結させて、引き出しや振込をできなくします。

凍結解除の手続きに不安がある場合は、来店で伝えるとその際に案内を受けることができます。

2.遺産分割協議

必要に応じて遺産分割協議を相続人全員で行います

遺産分割協議では、相続財産を確定したうえで、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合います。

遺言書の内容が優先されるため、遺言書がある場合や相続人が1人の場合は必要ありません

遺産分割協議では、相続人全員の押印がある遺産分割協議書の作成が必要です。

話し合いがまとまらない場合は調停を行い、それでも解決しない場合は審判に移行します。

3.金融機関に必要書類を提出

預貯金を相続する相続人が決まれば、下記の必要書類を銀行に提出します。

ただし、金融機関により必要書類が異なることがありますので、手続きをする前に金融機関に確認するのが良いでしょう。

共通遺言書あり遺言書なし
預金通帳遺言書相続人全員の押印がある遺産分割協議書
キャッシュカード検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言)被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
預金の相続人の実印と印鑑証明被相続人の戸籍謄本または除籍謄本相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の印鑑証明書

4.預金を引き出す

必要書類の提出後、数週間程度で口座の凍結が解除されます。

書類に不備があると凍結解除まで時間がかかるため、必要に応じて相続に詳しい弁護士のサポートを受けることが大切です。

なお、遺産分割協議前に預貯金の一部は、引き出すことが可能です(民法909条の2)。

対象となるのは、本人が有する各金融機関ごとの預貯金額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額です。

弁護士 佐々木一夫

ただし、預貯金の一部を引き出す行為は相続財産をすべて相続する「単純承認」をしたとみなされ、相続放棄できなくなる可能性があります

死亡した人の預金をおろすことについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:死亡した人の預金をおろすと罪になる?よくある相談例と解決策を解説

預金の引き出しは「仮払い制度(払戻し制度)」の活用も大切

「葬儀費用が急に必要になったが、遺産分割協議が終わるまで待てない」と悩む方に向けて、民法改正により遺産分割前の相続預金の払戻し制度(仮払い制度)が創設されました。

この制度を活用すれば、違法な引き出しをする必要はありません。以下、具体的な制度の概要と申請方法を解説します。

制度の概要とメリット

従来、口座名義人が亡くなると、遺産分割協議が完了するまでは相続人全員の同意がなければ預金を引き出せませんでした。

しかし、仮払い制度(払戻し制度)を活用すれば、各相続人が単独で金融機関の窓口から引き出すことが可能です。

この制度の主なメリットは、以下のとおりです。

仮払い制度(払戻し制度)のメリット
  • 遺産分割協議の成立を待たずに引き出せる
  • 他の相続人の同意がすぐに集まらなくても利用できる
  • 葬儀費用、当面の生活費、相続債務の支払いなどに充てられる

すぐに資金が必要な方は、検討してみるとよいでしょう。

引き出し可能額の計算式と上限額

仮払い制度で引き出せる金額には、明確な上限が設けられています。無制限に引き出せるわけではないため、事前に計算しておくことが大切です。

引き出し可能額の計算式は、以下のとおりです。

相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 各相続人の法定相続分

また、上記の計算結果に関わらず、1つの金融機関につき150万円が上限となります。

条件上限額
同一金融機関での上限150万円まで
計算式の上限(相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 各相続人の法定相続分)の金額まで

上記を超える額が必要な場合は、家庭裁判所に保全処分の申し立てを行う必要があります。

出典:一般社団法人 全国銀行協会|遺産分割前の相続預金の払戻し制度

制度利用の流れ

仮払い制度を利用するために必要な手続きは、比較的シンプルです。

金融機関の窓口で、以下の手順にて申請を行います。

1.必要書類の準備・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡まで)
・相続人全員の戸籍謄本
・申請する相続人の印鑑証明書
・申請する相続人の実印、本人確認書類
2.金融機関窓口での申請「仮払い制度を利用したい」と伝え、所定の依頼書を提出する
3.審査・払い戻し書類確認後、指定口座へ現金が振り込まれる(または現金払い)

書類に不備がなければ、通常1〜2週間程度で手続きが完了します。

なお、家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合は、家庭裁判所に申し立てる必要があります。しかし、この場合、以下の2つの条件を満たす場合に限られる点には注意が必要です。

家庭裁判所に申し立てる場合に必要な条件
  • 生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められる
  • 他の共同相続人の利益を害しない場合

出典:一般社団法人 全国銀行協会|遺産分割前の相続預金の払戻し制度

遺留分請求に対して生前贈与を主張し大幅減額に成功した事例

実際に、生前の預金移動が問題となり、生前贈与を主張して負担額を減らせた事例があります。

“被相続人Aさんの死後、依頼人Bさんのご兄弟のCさんが、遺留分侵害額請求をしてきました。Bさんは、実家の家業を継いで両親とともに店を切り盛りし、また献身的に両親を介護していました。しかし、Cさんはほとんど家業とは関わりがありませんでした。”

この事例の課題としては、

  • 遺留分侵害額請求に対する対応
  • 生前贈与の主張と証明の困難さ

があげられます。

そこで

  • Cさんが大学進学や留学、不動産購入時に両親から多額の援助を受けていた事実を聴取し、贈与の総額が遺留分に大きく影響する可能性があると判断
  • 形式的な証拠がない中でも、被相続人Aさんの「生活に根ざした資料」を丁寧に拾い上げ、Cさんの贈与の裏付けを行った

というご対応をさせていただき、Cさんがこちらの主張した贈与額をほぼ全額認める内容で和解が成立。

遺留分の請求額も大幅に減額され、依頼人Bさんにとって非常に有利な結果とすることができました。

事例詳細については下記になります。さらに詳しく事例内容を知りたい方はぜひご覧ください。

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生前の預金引き出しに関するよくある質問

キャッシュカードで引き出しても問題ない?

銀行の利用規約違反となる可能性が高いため、おすすめできません。

多くの金融機関では、キャッシュカードの利用を「本人」に限っています。たとえ家族であっても、本人以外の利用は規約違反により口座の利用停止や強制解約の対象となる場合があるため注意が必要です。

また、本人が亡くなった後にキャッシュカードで引き出すと、単純承認(借金も含めて相続することを認めた)とみなされ、相続放棄ができなくなるリスクもあります。

委任状があれば本人の代わりに窓口で引き出せる?

本人の明確な意思があり、銀行所定の手続きを経れば可能です。

ただし、以下の点に注意が必要です。

本人の代わりに預金を引き出す際の注意点
  • 銀行指定の委任状:銀行ごとに専用の用紙がある場合が多い
  • 本人の意思確認:電話などで、銀行員が本人に意思確認を行うことがある
  • 認知症の場合:本人の判断能力がない状態での委任状作成は無効

とくに本人に判断能力がない場合、無理に作成すると私文書偽造などの罪に問われる恐れがあるため注意しましょう。

入院費や葬儀費用のために引き出すことは可能?

被相続人の入院費や葬儀費用のために預金を使うことは、正当な理由として認められます。

支払った費用は相続財産から控除できるため、相続税の負担を減らす効果もあります。

しかし、正当な理由として認めてもらうためには、以下のような証拠が不可欠です。

正当な理由として認めてもらうために必要な証拠
  • 病院からの請求書・領収書
  • 葬儀社からの明細書・領収書

上記を必ず保管し、自身の財布とは明確に分けて管理するようにしましょう。

まとめ|生前に預金を引き出す際は一度弁護士に相談しよう

×マーク


本記事では、生前の預金引き出しに関するリスクと、適切な対応策について解説しました。

「預金を引き出せば節税になる」という噂は誤りであり、安易な行動は大きなリスクを伴います。また、良かれと思ってやったことが、思わぬ誤解や争いを生むことも珍しくありません。

少しでも手続きに不安を感じたり、親族との話し合いが難航したりする場合は、専門家の力を借りましょう。

弁護士法人アクロピースでは、相続問題に強い弁護士が、あなたの状況に合わせた最適なサポートを提供いたします。
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