遺言書の効力はどこまで?書き方や無効なケース・いつから効力が発生するのかも解説

「遺言書の効力はどこまであるの?」「遺言書の書き方は?」「亡き親の遺言書を見つけたがどうすればいいの?」等、遺言書のことでお悩みではありませんか?

相続・遺言の相談を300件以上取り扱ってきた弊所が、遺言書の効力が有効な範囲や法的効力のある遺言書の書き方・無効になるケースについてをまとめました。

その他遺言についてのよくあるご相談についても、わかりやすく解説します。

遺言書のことで、少しでもお困りのことがあればお早めに専門家にご相談いただくことをお勧めします。ご相談は早いほどあなたが消耗しませんし、有利な結果に落とし込める可能性も高くなります。

目次

遺言書の効力はどこまで?有効な3つの範囲


遺言書が法的な効力を発揮するのは以下の3つの事項です。

  1. 遺産の分割方法を指定するなどの相続に関して
  2. 相続人以外への遺贈や寄付などの財産の処分に関して
  3. 子どもの認知などの身分に関して

遺産の分割方法を指定するなどの相続に関して

遺言がなければ、原則として、各相続人は法定相続分どおりの割合で相続を受けることになります。
法定相続分についてはこちらの記事をお読みください。

→親の遺産相続手続きの方法は?死亡後の手続きや優先順位も事前に要確認

遺言によれば、法定相続分とは異なる割合で相続させることができます。

たとえば、長男と次男が相続人の場合、法定相続分は2分の1ずつとなりますが「長男に4分の3、次男に4分の1の割合で相続させる」等の割合にすることが可能です。
(後述しますが、そのような場合も、相続人の遺留分は侵害できませんので注意が必要です。)

さらに遺言によれば、どの財産を誰に相続させるかを具体的に決めておくこともできるのです。

たとえば、「自宅の不動産を同居している長男に、○○銀行の預貯金を次男に」というように具体的に決められます。

遺言書の効力はいつから発生する?

遺言書の効力が発生するのは、遺言書を作成した人が亡くなってからです。

したがって、遺言書により財産を受け取ることが見込まれる人であっても、遺言書を作成した人が亡くなる前は、その財産についてなんら権利はありません。

相続人以外への遺贈や寄付などの財産の処分に関して

遺言がなければ、遺産は法定相続人に相続されることになりますが、遺言では相続人以外の相手へ遺贈することも可能です。

遺言によれば、内縁の妻等、法定相続人ではない人に財産を遺せます。

他にも、老後のお世話をしてくれた息子の嫁や、母校への寄付等も遺言で叶えられます。

誰も相続人がいない場合、残された財産はそのままにしておくと国庫へと帰属してしまいます。譲り渡したい相手がいる場合、遺贈は有効な手段の一つです。

子どもの認知などの身分に関して

婚姻していない女性との間に子どもがいた場合、その子を遺言で認知することが可能です。

認知により、その子を相続人にできるので、法定相続分を得られるようになります。

その他遺言でできることに関しては、次の記事をお読みください。

→遺言書でできることは?できないことや書いたほうが良い場合も紹介

法的に効力のある遺言書の書き方

遺言書に法的な効力を持たせるためには、民法に定められた方式に則らなければなりません(民法960条以下)。

遺言の方式には大きく分けて普通方式と特別方式があります。

普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。

最もシンプルだが書き方に注意:自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言書を自筆で作成する方法です。

自筆証書遺言は、一見最もシンプルで簡単のようですが、要式が整っていないことで遺言の効力が無効になってしまうこともしばしばあるので注意が必要です。

守るべき様式は次の通りです。

  • 全文を自筆で記載すること
  • ・作成した日付を記載すること
  • 署名、押印すること

中でも、日付が抜けていて遺言書の効力が無効になるケースが多いので、ご注意ください。

また、改変や紛失、相続人に見つけてもらえない可能性もあります。重要書類を保管している金庫等に保管して、保管場所を相続人等に伝えておく必要があるでしょう。

できるだけ確実に遺産相続を進めるなら:公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で遺言書を作成する方法です。

公正証書遺言には、公証役場に修める手数料として数千円から数万円の費用と、戸籍や遺言書の原案等を用意する手間がかかります。

しかし、自筆証書遺言とは異なり、確実に法的に有効な遺言書を作成できます。また、作成した公正証書遺言は公証役場にて保管してもらえるので、紛失のおそれもありません。作成するメリットは大きいといえます。

弊所では、公正証書遺言の方式をおすすめしています。
公正証書遺言についてさらに詳しいことが知りたいという場合は、こちらの記事をお読みください。

→公正証書遺言の作成にかかる時間は?必要な費用や作成の簡単な流れを解説

弊所では公正証書作成のサポートも承っておりますので、公正証書作成を検討されている方は、お早めにご相談ください。

少し特殊な書き方も:秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう遺言のことです。証明してもらった遺言書は、自宅に持ち帰り、自分で保管します。

秘密証書遺言を作成する際は、自筆ではなくてもよいですし、費用も公正証書遺言ほどはかかりません。

しかし、内容をチェックしてもらえないため、記載があいまいで法的効力を得られないおそれがあります。また、改変や紛失のリスクもあります。

そして現在は、自筆証書遺言を公証役場で保管してもらえる制度ができましたから、秘密証書遺言のメリットはかなり小さくなっているといえるでしょう。

このような事情から、現在はあまり使われていない方式です。

【要注意】遺言書の効力が無効になる5つのケース


次のケースは、遺言の効力が無効になってしまうよくあるパターンです。

  • ・パソコンで作成した遺言書
  • ・日付がない遺言書
  • ・署名・押印がない遺言書
  • ・二人以上の共同で書いた遺言書
  • ・遺留分を侵害する遺言書(厳密には無効ではありませんが、一部遺言と異なる結論になります)

それぞれ詳しく見ていきましょう。

パソコンで作成した遺言書

自筆証書遺言は全文を自筆で記載しなければ、効力が無効になります。

したがって、パソコンで作成した遺言書は無効です。
ただし、財産目録のみパソコンで作成できます(民法968条)。

これをするには、財産目録のすべてのページ(両面に記載がある場合は両面)に署名・押印が必要になりますから、注意しましょう。

日付がない遺言書

遺言書が複数見つかった場合、日付の新しい遺言書の効力のみが有効になります。

このように、日付は必須の記載事項で非常に重要です。

日付がない遺言書は無効になりますので、お気を付けください。

2人以上の共同で書いた遺言書

夫婦で遺言書を書きたいというご相談を受けることもありますが、共同の遺言書は法的に認められていませんので、お気をつけください(民法975条)。

遺留分を侵害する内容の遺言書

遺留分とは、法定相続人が最低限保証された一定の割合の取り分のことです。

具体的には、法定相続分の2分の1の割合になります(兄弟相続人は除く)。

遺留分について、詳しくは次の記事をお読みください。

→遺留分の割合と計算方法は?具体例や生前贈与があった場合もわかりやすく解説

遺言書が遺留分を侵害しているような内容の場合、遺言書は有効です。ただし、遺留分を侵害されている相続人に遺留分侵害額相当額を金銭で支払わなければなりません。

具体的例

相続人・・・長男と次男

相続財産・・・土地(価値2000万円)

遺言書の内容・・・「相続財産のすべてを長男に譲る」

⇒次男に500万円の遺留分あり

⇒長男が土地を取得し、長男が次男に500万円を現金で支払う。

上記の具体例はかなり単純なものですが、実際に遺留分を請求するとなると、相続人間でかなり激しい争いになることが多くあります。

遺留分を侵害する遺言書は、相続人間に争いの種を残してしまいますので、ご心配な場合はぜひ専門家にご相談ください。

相続人全員が同意して遺産分割協議書を作成したケース

相続人全員が同意して遺言書と異なる内容で遺産分割が調い、協議書を作成した場合には、遺言書は無効です。

これは今まで挙げたもののように遺言書の書き方や内容による無効のケースではないのですが、念のためご紹介しました。

他にも遺言書が無効になるケースについてさらに詳しく知りたい場合は、次の記事をお読みください。

→遺言書が無効になる判例は?無効申し立てをしたい場合の費用も解説

遺言書の効力にまつわるよくある相談事項

弊所に実際に寄せられる、遺言書の作成にまつわる相談事例を紹介いたします。

遺言書にどのような内容を書けばよいかわからない

遺言書の内容でご相談を受けることは多くあります。

たとえば、相続人の方々がもめないようにするにはどのような記載の遺言書にすればよいか、というご相談です。

もめない遺言書にするには、前述のとおり遺留分を侵害しないようにすることが1つのポイントとなります。

具体的な記載内容は遺産の内容にもよりますので、実際に専門家に相談するのがよいでしょう。

遺言書はいつから作っておけばよいのか

人はいつ亡くなるかわかりませんから、遺言書に沿った遺産分割をしてほしいとお考えなのであれば、遺言書を作る時機は早ければ早いほど良いでしょう。

早く作っても、亡くなる前までは何度でも内容を変更できますから、デメリットはほとんどありません。

もちろん、焦って作って効力が無効なものになっては意味がありませんから、落ち着いて作成しましょう。

遺言書の方式のなかで一番よいものはどれか

遺言書の方式は複数あるので、悩まれる方も多いようです。

弊所では公正証書遺言をおすすめしています。

公正証書遺言は、費用や手間はかかりますが改変・紛失のおそれがありません。また、公証人がチェックしてくれるので、あいまいで不明確な記載になりにくいという特徴があるためです。

ただし、公証人は基本的には持参した文案を公正証書にするだけとなります。

希望通りの内容となっているか、遺留分を侵害してしまっていないかについてはチェックしてくれません。

一番おすすめなのは、文案作成を弁護士等の専門家に依頼した上で、公正証書遺言にすることです。

内容に踏み込んだチェックや文案作成をしてもらいたい場合には、専門家にご相談ください。

遺言書を書き直したい、複数の遺言書を作ってしまった

時間の経過や状況の変化によって、一度作成した遺言書を書き直したいと感じる方もいらっしゃいます。

遺言書が複数あって内容が異なる場合には、日付が新しい遺言書の効力が有効になります。これは自筆証書遺言、公正証書遺言等方式を問いません。

したがって、何度でも書き直すことが可能ですし、複数の遺言書を作った場合には日付が新しいものが有効になります。

場合によっては、さまざまな相談機関で遺言書を書いていたら、どの遺言書のどの部分の効力が有効で、どの部分が無効なのかわからなくなっていることもあるでしょう。

そういった場合には、作成した遺言書をすべて持参して、専門家にご相談ください。

自分か書いた遺言書がこれで問題ないか不安

作成した遺言書に自分の意図がきちんと反映されているのか不安だというご相談もよくお受けします。

実際に見せていただくと、意図していた内容になっていないこともあります。

また、遺留分を侵害していないかもチェックした方がよいでしょう。

やはり一番おすすめなのは、文案作成を弁護士等の専門家に依頼した上で、公正証書遺言にすることです。

ご自身で作成した遺言書にご不安がある場合には、専門家に相談ください。

【相続人向け】遺言書の効力に関するよくある質問

遺言書の効力には期限があるの?その場合は何年?

原則として遺言書の効力に期限はありません。ただし、遺産分割を禁止する旨の遺言は、5年間のみ有効です。

遺言書を勝手に開封したときの効力は?

自筆遺言書を発見したときは、勝手に開封せず、裁判所で検認という手続をしてください民法1004条)。

検認とは、相続人に対し遺言書が存在することとその内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

検認の具体的な方法は、裁判所のホームページをご参照ください。

検認をせずに開封してしまった場合、5万円以下の過料(罰金)が課せられる可能性があります(民法1005条)。

検認を経ずに開封してしまっても、遺言書の効力が無効になることはありません。

開封した人がただちに相続人としての権利を失うこともありませんが、遺言書の内容を変造する等した場合には、相続人にはなれません(民法891条)。

遺言書の内容に納得できないときはどうすればいい?

遺言書の内容に納得できない場合に取れる方法は3つです。

  • ・遺言書の無効を主張する
  • ・相続人全員で遺言書の内容とは異なる遺産分割協議をする
  • ・遺留分侵害額請求をする(時効があるため注意

遺言書の無効を主張する

遺言書は次の場合等に無効になります。

  • ・遺言者に遺言能力がなかった場合
  • ・証人に欠落事由があった場合
  • ・遺言者の真意と遺言内容に錯誤があった場合
  • ・遺言の内容が公序良俗に反していた場合

上記のような無効事由がある場合に、実際に無効にするには、次の方法があります。

  • ・相続人全員で異なる遺産分割協議をする
  • ・遺言無効確認訴訟をする

相続人全員に同意してもらえば、遺言書とは異なる遺産分割ができます。ですから、まずは他の相続人の意向を確認してみてもよいでしょう。

相続人全員の同意が得られない場合や、そもそも他の相続人と対立関係であり意向を確認するまでもない場合には、遺言無効確認訴訟をする必要があります。

遺言無効確認訴訟では、証拠をもとに、裁判官に無効かどうかを判断してもらいます。

この手続は裁判ですから、専門的な知識が必要です。ご検討の方は専門家にご相談ください。

相続人全員で遺言書の内容とは異なる遺産分割協議をする

遺言無効事由がなくとも、相続人全員が遺言書と異なる内容で遺産分割することに同意すれば、遺言書とは異なる遺産分割が可能です。

しかし、遺言書によって有利な遺産分割が見込まれる相続人は、多くの場合同意しないでしょう。

遺留分侵害額請求をする

遺言を無効にできず、相続人の同意を得られない場合は、遺言書の内容を受け入れて遺留分侵害額請求をすることになります。

遺留分とは、法定相続人が最低限保証された一定の割合の取り分のことです。具体的には、法定相続分の2分の1の割合になります(兄弟相続人は除く)。

納得できないような遺言書は、遺留分を侵害している可能性があります。

たとえば「遺産を○○にすべて譲る」という内容の遺言書は、遺留分を侵害している可能性が濃厚です。

遺留分侵害額請求は、相続の開始や侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間経過すると時効で消滅してしまうので、注意が必要です(民法1048条)。

時効で消滅しないために、遺言無効の主張や他の相続人の意向確認と同時に、遺留分侵害額請求をしましょう。

時効がありますので、遺言書に納得が行かない場合には、早めに専門家に相談することをおすすめいたします。

まとめ 早めに弁護士に相談を

遺言書の効力が有効な範囲や、遺言書の書き方の注意点・無効なケースについてお伝えしました。

内容をまとめると、次のとおりです。

  • 遺言書の効力が発揮するのは「相続」「財産」「身分」に関する内容について
  • 「公正証書遺言」「自筆証書遺言」を作成するのが一般的
  • 法律の要件を少しでも欠くと無効になるため注意が必要
  • 遺言の作成に少しでも不安があるなら専門家に相談を

この記事がお役に立てたら幸いです。

この記事がみなさまの参考になれば幸いです
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この記事を執筆した人

弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属

私のモットーは「誰が何と言おうとあなたの味方」です。事務所の理念は「最高の法務知識」のもとでみなさまをサポートすることです。みなさまが納得できる結果を勝ち取るため、最後まで徹底してサポートしますので、相続問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。

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