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2018年7月6日に成立した民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(2018年7月13日公布)によって、相続に関する民法の規定が改正されることとなりました。
その一環として、従来の遺留分制度は、この相続法改正によって、全面的に見直されることとなりました。
この記事では遺留分とは何かを簡単に解説した上で、主な変更点について紹介します。
遺留分制度の変更点を解説する前に、遺留分とはどういうものなのかを簡単に解説します。
遺留分とは、一定の相続人に保障された、誰にも奪うことができない遺産の最低限の取り分のことです。
遺言書では受取人やその内容を指定することができますが、相続人間であまりに大きな差が出てしまうと公平さが保てなくなるため、遺産を受け取れる最低限の権利として保証されているのです。
法定相続分とは、法定相続人に認められる遺産の相続割合のことで、遺産分割協議の際に分け方を決める目安となります。
遺留分とは違い、強制力がないため、相続人全員の同意があれば、遺産の分け方は自由に決めることができます。
遺留分の割合は、法律で以下のように決められています。
相続人が父母や祖父母のみといった、直系尊属しかいない場合は遺産総額の3分の1になり、配偶者や子供のみの場合は、2分の1になります。
遺留分については、下記の記事でさらに詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
関連記事:遺留分とは何かをわかりやすく解説!法定相続分との違いや計算方法・具体例も紹介
では具体的に、どのような内容が変更されたのでしょうか。
遺留分制度に関する主な変更点としては、いわゆる物権的効力が否定され、金銭債権に一本化されたということが挙げられます。
改正前民法における遺留分の物権的効力とは、遺留分権利者が受遺者や受贈者に対して減殺する旨の意思表示をすれば、直ちに遺贈や贈与が失効し、その目的財産の所有権または共有持分権が遺留分権利者に帰属するという効果のことと説明することができます。
仮に減殺の対象となる遺贈や贈与の目的財産が複数存在する場合には、遺留分減殺請求権の行使によって、それぞれの財産について共有関係が存在することとなり、共有関係の解消(共有物分割の手続き)といった新たな紛争を生ずることとなりました。
配偶者のために居住用財産を遺贈したような事案では、遺留分減殺請求の結果、当該居住用財産について、配偶者と他の相続人との共有となる結果、配偶者のための居住用財産を確保することができないという問題が生じていました。
また、遺産の中に事業用財産が含まれているような場合には、遺留分減殺請求の結果、当該事業用財産について、事業を承継する相続人と事業を承継しない相続人との共有となる結果、円滑な事業承継にも支障をきたすこととなり、実務上問題となっていました。
しかし、改正前民法における遺留分制度は、遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっていることを考慮すれば、その目的を達成するために、必ずしも物権的効果を認める必要性は乏しく、遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分ではないかという指摘もありました。
そのため、今回の相続法の改正により、改正民法は物権的効力を否定した上で、遺留分減殺の効果を金銭債権に一本化されることとなりました。
これにより、上記のような物権的効力によって生ずる不都合を回避することが期待されています。
今後は、遺留分減殺請求ではなく、「遺留分侵害額請求」という呼び名に代わることとなります。
なお、遺留分侵害額請求の期間制限については、「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」とされています。また、相続開始から10年が経過した場合にも請求ができなくなってしまいます。
今回の相続法改正前は、相続人に対して生前贈与がされた場合には、その時期を問わず、原則としてすべての贈与が遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されるとされていました。
これは、被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって、第三者である受遺者または受贈者が受ける減殺の範囲が大きく変わることになってしまうことになりますが、第三者である受遺者または受贈者は、相続人に対する古い贈与の存在を知り得ないのが通常であるため、これらの者に不測の損害を与えてしまうことが考えられ、結果的に法的安定性を害することとなりかねないとされていました。
このような不都合を回避するべく、今回の相続法の改正により、相続人に対して生前贈与がされた場合における、遺留分算定の対象となる生前贈与の範囲を、相続開始前「10年」以内にされた「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限定することとされました。
なお、贈与の当事者に加害の認識がある場合の対象期間については、改正前民法と同様に、遺留分算定の対象となる生前贈与の年数は10年に限定しないこととされています。
不相当な対価をもってした有償行為がある場合について、当事者双方に加害の認識がある場合に限って、これを負担付贈与とみなして、差額の請求を行うことを認める改正が行われました。
また、改正前民法に規定されていたような受贈者または受遺者へ対価の償還は不要とされ、当該対価を控除した残額について、遺留分侵害額の請求を行えば足りるとされました。
従来では遺留分減殺請求の効果として物権的効力が認められていた関係から、目的財産全体について遺留分減殺請求の効果を生じさせた上で、受贈者または受遺者が支払った(不相当な)対価の価額を償還させることにより清算を行っていました。
しかし、今回の相続法改正により、遺留分に関する請求が金銭債権に一本化されたため、受贈者または受遺者が支払った(不相当な)対価の価額を控除した残額についてのみ遺留分侵害額請求を認めるという制度に変更されました。
これにより、負担付贈与と不相当な対価をもってした有償行為について、遺留分を算定するための財産の価額に算入する範囲が明確にされたため、その分無用な紛争が生じにくくなると思われます。
今回の相続法改正により、遺留分侵害額請求を受けた受遺者や受贈者が、遺留分権利者が負担すべき相続債務(被相続人名義の債務)を弁済等によって消滅させた場合には、その消滅させた限度において、遺留分侵害額請求による金銭債務(金銭支払義務)を消滅させることができるようになりました。
改正前の相続法においては、遺留分減殺請求により物権的効力が当然に生じており、金銭評価の必要性は遺留分権利者に対する価額による弁償(改正前民法第1041条)の場面に限られていました。
一方で、改正相続法においては、すべての事案において、遺留分侵害額請求について金銭評価が必要となるため、今後の実務に与える影響は極めて大きいと思われます。
また、遺留分侵害額請求により発生した金銭債権については、一般的な消滅時効(10年)の対象となります。
一方で、2020年4月1日施行された改正債権法では、債権の種類を問わず、
と定められたため、こちらも注意が必要です。
弁護士法人アクロピース代表弁護士
東京弁護士会所属
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