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生前贈与や遺言により財産をもらえなかった相続人は、遺留分侵害額を請求する権利がありますが以下のように悩んでいる方もいるでしょう。
遺留分侵害額請求権の時効期間は短いため、どうやって取り戻そうかと悩んでいる間に時効が完成するおそれもあるのです。
本記事では、遺留分侵害額請求権について、3つの時効と請求権の行使方法・注意点を詳しく解説します。
時効が成立すると遺留分侵害額を請求できなくなるため、遺留分侵害額請求の進め方でお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
遺留分侵害額請求の問題で悩んでいる方は、相続問題に強い弁護士法人アクロピースにご相談ください。
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遺留分侵害額請求権については、民法で次の3つの時効期間が定められています。
遺留分侵害額請求権は、生前贈与や遺贈などによって相続人の遺留分が侵害された場合に、侵害された相続人が受遺者や受遺者に、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です(民法1046条)。
遺留分とは、被相続人の相続財産について民法が認めている相続人の最低限の受取分です(民法1042条)。
遺留分侵害請求を受けた受遺者や受贈者は、上記の遺留分相当額の金銭を支払わなければなりません(民法1047条)。
関連記事:遺留分と特別受益の関係性!請求できるパターンや例外について詳しく解説
民法相続法改正法の施行(2019年7月1日)前は、遺留分の侵害額請求でなく遺留分減殺請求という、現在と違う制度でした。
民法相続法改正前の遺留分減殺請求権は、金銭の請求権だけではなく現物についてはその所有権を取得できる制度でした。
しかし、遺産が不動産などの場合は分割が難しく、共有にせざるを得ないなどの問題があったため、シンプルに金銭の請求だけをさせることになったのです。
遺留分侵害額請求権は、時効期間が短いため、早期に行使する必要があります。
参考:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の概要、4遺留分制度に関する見直し」
遺留分侵害額請求権の時効期間は、遺留分権利者が「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」を「知った時から1年間」です(民法1048条前段)。
民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。(後段略)
時効の起算点は、次の2つが要件になっています。
単に「被相続人の死去」と「贈与や遺贈があったこと」を知った時ではありません。
遺留分侵害額請求権は、期間内に権利を行使しなければ時効の援用によって消滅します。
時効期間の経過により当然に消滅するわけではなく、請求を受ける受遺者や受贈者が時効を主張した場合に消滅します。
時効まで1年間あるから大丈夫と思う方もいるかもしれませんが、被相続人の逝去後は法要や相続税申告などの諸行事・諸手続きで忙しく、実際には極めて短期間です。
気がつくと時効になっていることもあるため、注意しましょう。
遺留分侵害額請求権は「相続開始の時から10年経過したとき」にも消滅します(民法1048条後段)。
民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
相続の開始と遺留分侵害の事実を知らなくても、相続開始から10年経過すれば自動的に消滅するため、相手が時効を援用する必要はありません。
「相続開始の時から10年」の時効は除斥期間で、1年間の消滅時効とは異なります。
10年の除斥期間が経過してから遺留分侵害の事実に気付いても、遺留分侵害額請求はできないため注意が必要です。
もう1つ注意が必要なことは、遺留分侵害額請求権を行使してから5年の債権消滅時効があることです。
2020年4月1日施行の民法債権法改正で消滅時効のルールが変更になりました。
現行民法は、債権は次の2つの場合に時効によって消滅するとしています(民法166条1項)。
民法166条(債権等の消滅時効)
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
一方で、遺留分請求権は、2019年7月施行の民法相続法改正により「減殺請求権」から「侵害額請求権」へと変わりました。
債権法改正法の施行後は遺留分請求権が金銭債権になるため、民法166条1項1号に該当し、5年の時効になります。
なお、民法債権法改正前に遺留分侵害額請求を行った場合は、民法166条1項2号の10年の消滅時効が適用されます(後記「遺留分侵害額請求の時効についての4つの注意点4」参照)。
遺留分侵害額請求権の行使方法は、次の3つがあります。
一般的には、まず内容証明郵便を送って遺留分侵害額請求の意思表示をし、請求の諾否・金額や支払い方法などを話し合います。
話合いがまとまらない場合は、調停を申し立て、それでも合意できない場合は訴訟で争うのが通例です。
遺留分侵害額請求権の行使方法について、詳しく説明します。
遺留分侵害額請求権の行使方法の1つ目は、口頭での意思表示です。
請求権の行使方法の決まりはなく口頭での請求も有効です。
受贈者・受遺者が複数いるため、誰にどのように意思表示すべきか戸惑うこともあるでしょう。
時効の完成前に遺留分を侵害している相手を特定し、遺留分侵害額請求の意思を表示する必要があります。
請求権は「相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年」で時効になります。
極めて短期間で時効になってしまうため、速やかに準備を進め、必ず時効になる前に請求の意思表示をすませましょう。
ただし、口頭での遺留分侵害額請求の意思表示は、意思表示をいつ行ったかや、本当に遺留分減殺請求の意思表示だったかなど、後に争いになってしまう場合があります。
そのような争いを回避するために、基本的にはこの後述べる内容証明郵便による意思表示を行うべきです。
口頭での遺留分減殺請求の意思表示は、時効の期限が差し迫っていて内容証明郵便などを送る時間がない場合などに、例外的に行うようにしてください。
遺留分侵害額請求権の行使方法の2つ目は、内容証明郵便の送付です。
遺留分侵害額請求をした証拠を残すため、通常、口頭の意思表示だけでなく内容証明郵便を出します。
口頭での意思表示は「言った・言わない」などと、請求の有無や請求の時期について争いになることがあるからです。
内容証明郵便は「いつ、どのような内容の文書を誰が誰に送ったか」を、日本郵便株式会社が証明するものです。
参考:日本郵便「内容証明」
普通郵便は送った内容や配達日の記録が残らないため、遺留分侵害額請求は内容証明郵便で送付しましょう。
内容証明に加え、通知書が相手に届いたことを証明するため、配達証明を付けることをおすすめします。
配達証明は、一般書留郵便を配達したことを証明するサービスです。
参考:日本郵便「配達証明」
重要なことは、遺留分侵害額請求権行使の通知を、遺留分を侵害している相手に時効前に確実に送付し、記録を証拠として残すことです。
侵害額請求の内容証明に記載すべき事項は、上記のとおりです。
書式や記載事項の決まりはありませんが、請求権行使の意思が明確な文章にする必要があります。
たとえば「遺留分侵害額請求権を行使する」と明確に記載しましょう。
対象財産や侵害額などの詳細がわからない場合は、遺留分を侵害している遺言・贈与の内容を具体的に記載する必要はありません。
ただし、推測での記載は後々トラブルになりかねないためNGです。
内容証明郵便の送り方は、2つあります。
郵便局に行く場合は、次のものを用意して窓口に提出しましょう。
文書の用紙サイズ・筆記用具の指定はありません。
2の謄本とは、1の文書と同じ内容の文書のことです。
コピーでも構いませんが、謄本は字数・行数の制限があるため注意が必要です。
内容証明はすべての郵便局が扱っているわけではありません。
あらかじめ取扱いが可能か確認しましょう。
e内容証明は、オンラインで内容証明郵便を送るサービスです。
Wordで作成した文書をアップロードするだけで内容証明郵便として送付できます。
フォントサイズや余白指定はありますが、字数・行数制限がなく、簡単で便利です。
関連記事:遺留分侵害額請求は自分でできる?手続きの流れややり方をわかりやすく紹介
遺留分侵害額請求権の行使方法の3つ目は、調停・訴訟を提起することです。
口頭や内容証明郵便で請求の意思を伝えても、相手が話合いに応じるとは限りません。
話合いが容易にまとまらない場合は、調停を申し立て、それでも合意できない場合は訴訟で争うことになります。
金銭債権の消滅時効は原則5年であるため、話合いが困難なときは早めに調停・訴訟に移行して時効を中断・停止させることが大事です(民法147条)。
なお、2020年4月施行の民法債権法改正で、従来の時効の「中断・停止」の法律用語が、実態に合わせ時効の「更新・完成猶予」と呼び方が変わっています。
参考:法務省「消滅時効に関する見直し3時効の中断・停止の見直し」
遺留分侵害額請求の時効について、注意すべきポイントが4つあります。
遺留分侵害額請求は、請求の有無、有効性等に関する争いを避けるため被相続人の逝去後1年以内に行使しましょう。
遺留分侵害額請求権は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを「知った時から1年」で時効により消滅します。
しかし、相続開始(被相続人が死んだとき)から1年を経過してから遺留分侵害額請求の意思表示をした場合には、いつ相続開始や遺留分侵害の事実を知ったかについて争いになってしまう懸念があります。
時効の起算点となる「事実を知った時点」をめぐって、相手方から「贈与や遺贈があることはもっと前から知っていたはずだ」と反論されても、遺留分を侵害することをいつ知ったか証明することは容易ではありません。
遺留分侵害額請求権を相続の開始から1年以内に行使しておけば、少なくとも遺留分侵害の事実を知った時点をめぐる争いを回避できるでしょう。
遺留分侵害の事実を知ったときは、具体的な侵害額を確認できなくても、必ず相続開始後1年以内に遺留分侵害額請求権を行使する方がよいのです。
遺言や贈与の無効を争っている間も、時効が中断することなく進行する点も注意が必要です。
贈与の無効を訴訟で主張しているから時効は進行しないとの遺留分権利者の主張に対し、最高裁判所は「遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともな特別の事情がない限り、時効は中断しない」と判示しています(昭和57年11月12日最高裁判所第2小法廷)。
裁判要旨(昭和57年11月12日最高裁判所第2小法廷)
一 民法一〇四二条にいう減殺すべき贈与があつたことを知つた時とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知つた時をいう。
二 遺留分権利者が、減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことにもつともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺することができるものであることを知つていたと推認するのが相当である。
出典:最高裁判所判例集
遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、根拠のない言いがかりにすぎない場合でも時効は進行しないとするのは相当でない、ということです。
上記判例は、民法改正前の遺留分減殺請求権に関するものですが、判旨は遺留分侵害額請求権についても変わりありません。
不公平な遺言書だと遺言書の無効を主張して争うケースもあるでしょう。
注意すべきは、遺留分侵害額請求をせずに無効を争っても、時効が進行してしまう危険性があることです。
遺言の無効を主張する場合であっても、必ず並行して遺留分侵害額請求権を行使しましょう。
相続開始から10年の時効を止める方法はありません。
10年間の時効は、1年間の時効(消滅時効)と異なり、遺留分侵害者が時効を援用するまでもなく期間の経過により自動的に消滅する除斥期間です。
除斥期間については、原則として、時効の完成猶予・更新はありません。
特段の事情がある場合に除斥期間の適用が否定される余地が全くないわけではありませんが、あくまでも例外中の例外と考えた方がよいでしょう。
2020年の民法債権法改正前(2020年3月31日以前)に遺留分侵害額請求を行っている場合は、権利を行使できる時から10年の消滅時効が適用されます。
債権の消滅時効の起算点の考え方が民法改正により以下のとおり変わったため、遺留分侵害額請求権の行使時期によって時効期間が変わるのです。
(民法債権法改正前)
(2020年4月施行の債権法改正後)
商行為や職業などに関係なく、
以上により、2020年3月31日以前に請求権を行使していれば10年、同年4月1日以降に請求権を行使した場合は5年が時効になります。
遺留分侵害額請求権の時効について、まとめると次のようになります。
遺留分侵害額請求権の時効期間は原則1年と短いため、時効にならないよう早め早めの対応が必要です。
話合いが困難な場合は早く調停・訴訟に移行する必要があります。
遺留分侵害額請求は遺言や生前贈与などと関係するため、問題が複雑化し長期化することもあります。
どう対応すべきか判断が難しいとき、悩むときは法律の専門家に相談するのがおすすめです。
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